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【電力考】電源比率 原子力+再生エネで40~50%

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【電力考】電源比率 原子力+再生エネで40~50%

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 □石川和男・NPO法人社会保障経済研究所代表

 産経新聞(5日付)やフジサンケイビジネスアイ(6日付)などで既報の通り、政府が検討している2030年の電源構成比率は、(1)原子力発電に関しては、東日本大震災後に全基停止したが、20%程度まで回復(2)再生可能エネルギー発電に関しては、原発を上回る20%台半ばに引き上げ(3)火力発電に関しては、50%台半ば-にする方向で進んでいる。

 ◆実現性がない目標数値

 30年という断面での目標を決めることにどれほどの意義があるのか、という根本的な問い掛けもあるが、それ以前に多くの問題がある。そもそもこの類の目標は、数年たつと見直しが行われることが常だ。とにかく短期的かつ頻繁に改訂される。さらに、目標数値に実現性がほとんどないことは、役所や審議会の関係者の多くが分かっている。特に、再生エネを20%台半ばに引き上げることは、技術的にまず不可能である。

 だから、今回のこの目標についても、どんなに熱く議論し、どんなに固く決心したとしても、近い将来また同じような議論が起こり、ほんの少しの違いが“上書き”されてしまう。

 しかし、評価されるべき点もある。原子力と再生エネの合計で電源構成の半分を占める点だ。逆に言えば、石炭や天然ガスなどの輸入化石燃料を利用する火力発電を半分程度に抑えるということである。

 再生エネとは、水力・地熱・バイオマス・風力・太陽光で、これらは国産エネルギー。原子力は、その燃料となるウランはエネルギー密度が高く備蓄が容易であることや、使用済み燃料を再処理することで資源燃料として再利用できることから、資源依存度が低い準国産エネルギーとの位置付けになっている。

 日本としては、再生エネ単独で20%台半ばという技術的に困難な目標ではなく、原子力を合わせて「国産エネルギーを半分程度」を目標とすれば、技術的に十分可能となる。その際、再生エネを導入するためのコスト負担をいかに抑えるかが最大の焦点となる。

 これまで再生エネ固定価格買い取り制度に基づく認定を受けたものは、今後10~20年間の買い取りが保証される。今後運転開始するものは、新たな巨額の国民負担を発生させる。経済産業省の試算によると、15年度の再生エネ買い取り総額は1兆8000億円、再生エネ賦課金総額は1兆3000億円。これを極力抑えるには所要の資金が必要になる。そのための原資はどこからか捻出(ねんしゅつ)できないものだろうか?

 ◆原発の高稼働率で利益増

 私が提案したい方策は、原発を高稼働率で稼働させた分(例えば、震災前06~10年の5カ年平均稼働率は約65%だが、稼働率を約90%にまで引き上げた場合の増分)の一部を再生エネ賦課金の減免のための原資として充当すること。原発のない沖縄電力分については、原子力事業者の負担能力に応じて拠出するなど制度上の工夫を施せばよい。

 政府や事業者は、原発の高稼働率稼働に関する試算をしておくべきだ。私の試算では、東京電力柏崎刈羽原子力発電所を諸外国並みの高稼働率(稼働率約90%)で稼働させると、年間約1兆円の利益増効果が見込まれる。

 今の技術水準では、太陽光・風力は、ベースロード電源である原子力・火力の代替にはなり得ない。日本では“原子力即ゼロ化”に代表される一部の極端な空気が、“再生エネvs原子力”という不毛な対立構図を作り出しているようだ。

 だがそうではなく、資源なき国の国産エネルギーである再生エネ・原子力の共存を図る「国産エネルギー政策」を推進すれば、再生エネコスト負担問題は解決に向かう。これは技術的課題ではない。政治の意志で解決できることだ。

 原子力と再生エネについては「原子力◯◯%、風力◯◯%、太陽光◯◯%…」といった個別に細かな数字ではなく、「国産エネルギー(原子力+再生エネ)全体で◯◯~◯◯%、残りを輸入化石燃料(石炭+天然ガス+石油)全体で◯◯~◯◯%」と、幅のある概数で示すべきだ。一定の数値を決めても、どうせその通りにはならない。

 過去の経緯や今後の日本のエネルギー安全保障やエネルギーコストを総合的に勘案すれば、30年数値目標は「(1)国産エネルギー(原子力+再生エネ)40~50%、(2)輸入化石燃料(石炭+天然ガス+石油)60~50%」というのがおおむね妥当な線だ。

                  ◇

【プロフィル】石川和男

 いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通産省(現経済産業省)。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に従事し2007年退官。09年東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授など歴任。11年から現職。1965年福岡県生まれ。

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