ニュースカテゴリ:政策・市況
国内
【検証・電源構成】(上)再生エネ拡大、国民に重い負担
更新
2030年度の電源構成比率を検討する有識者委員会=28日午後、経産省 ■固定価格買い取り制度 欠陥を露呈
「『捕らぬ狸(たぬき)の皮算用』を叫ぶのは責任ある政党のすることではない。環境省の数字は何を根拠にしているのか。説明してほしい」
エネルギーミックス(電源構成比率)の議論が佳境を迎えた今月8日、自民党本部で開かれた環境・温暖化対策調査会に参加した参院議員が鋭く詰め寄った。
やり玉に挙がったのは太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入拡大を進める環境省の試算だ。送電網の整備や蓄電池の活用などの対策を講じた場合、2030年度時点で発電電力量の最大35%を再生エネで供給できるとした。
議論を先導し、電源構成に占める再生エネの比率を上積みする狙いがあったが、必要なインフラ整備をどう進めるのかなど、実現に向けた道筋を描けていない「地に足の着かない数字」(自民党幹部)だった。
再生エネの過度な導入は電気料金の高騰を招く。このため、現実的な数字の積み上げを目指す経済産業省や、それに賛同する自民党議員らが一斉に反発した。試算は事実上お蔵入りとなり、発電コストが安く昼夜を問わず安定して発電できる原子力を一定程度確保する流れができた。
28日まとまった電源構成案では、再生エネの比率は22~24%で決着。原子力の比率は上回ったが、現実的な範囲で収まった。経産省幹部はこの日の有識者会議で「再生エネの最大限の導入拡大と国民負担の抑制を両立した」と胸を張った。
政府は再生エネの導入拡大に向け、優遇装置を講じている。だが、導入を拙速に進めれば、安定供給への不安といった負の側面に直面することになる。
◆太陽光発電に集中
「制度が悪いのは事実だ」。昨年10月中旬、経産省の地下2階。再生エネの普及拡大を目指す「固定価格買い取り制度」(FIT)の見直しを議論していた有識者会議で、委員長を務めた地球環境産業技術研究機構(RITE)の山地憲治研究所長は、こう言い放った。
12年7月に導入されたFITは、大手電力会社に対し、再生エネで発電された電気を一定期間、全て買い取るよう義務付けた。しかし、設備の設置が比較的容易で買い取り価格の高い太陽光に契約申し込みが集中。全て受け入れれば送電容量を上回り、大規模停電につながりかねないとして昨秋、九州電力など5社は、受け付けの中断を表明した。
制度導入からわずか2年余りで、ほころびが露呈したFIT。制度の骨格が固まったのは11年夏だった。民主党の菅直人政権(当時)が東日本大震災の対応などをめぐって退陣を迫られ、関連法案の成立を焦った経緯がある。法律施行後3年間は「(再生エネの)供給者が受けるべき利潤にとくに配慮する」との付則が加わり、買い取り価格の大幅引き上げにつながった。
山地氏は「(FITの設計は)国会で調整した。最大の責任はそこにある」と、FITが作られた過程を非難する。
政府はFITを見直し、電力の受け入れが困難な場合、柔軟に発電抑制を事業者に要請できるよう変更。これを受け今年1月、買い取りの受け付けを中断していた各社は、手続きを再開した。だが、ずさんな制度設計が、「再生エネの全量買い取り」という大原則を大きく揺るがす結果を招いた。
FITによる再生エネの買い取り費用は、電気料金に上乗せされている。経産省は3月、FITによる15年度の電気料金の上乗せ額が、電力会社にかかわらず標準家庭で月474円になると公表した。5月の料金から適用され、14年度から2倍超に膨らむ。太陽光発電の急増が見込まれるためで、年間では5688円もの負担になる計算だ。
電気料金が上昇すれば、電気代の安い海外に企業が逃げ出す恐れもある。経済界からは「企業経営に深刻な問題だ」(日本商工会議所の清水宏和・中小企業政策専門委員)との不安の声も挙がる。電源構成が再生エネに偏れば、国民負担が増すのは火を見るより明らかだ。
◆相互補完の観点必要
「原発と再生エネの選択を迫られているというのは誤解だ。これらは相互補完的なものだ」。4月13日、都内で開かれた日本原子力産業協会の年次大会で、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は、こう強調した。
政府は1月から、最適な電源構成(ベストミックス)をめぐる検討作業を本格的に始めた。その中で「経済性、環境性、安定供給そして安全性を踏まえたバランスの取れた電源構成にする」(山際大志郎経産副大臣)ことを目指してきた。
環境負荷の小さい再生エネは、地球温暖化防止に役立つばかりでなく、“純国産”のエネルギーとして期待も大きい。しかし導入拡大を急げば、安定供給を損なうばかりでなく、家計や企業に過度な負担を課すことにもなりかねない。電源構成は偏ることなく、バランスの取れたものでなければならない。