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【検証・電源構成】(下)火力依存で省エネ対策限界
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2003年に東京電力として30年ぶりに石炭燃料を復活させた常陸那珂火力発電所=茨城県 ■原発停止の弊害 CO2排出急増
政府が温室効果ガス削減の新たな目標案を提示した4月30日。環境省と経済産業省の専門家会合では「過去に例がないほど厳しい省エネ対策が必要だ」などと、慎重な意見が相次いだ。既に最高水準の省エネを導入してきた日本が、一段の排出削減に取り組むのは簡単ではない。
◆遠のく削減目標
なかでも2013年度の国内の温室効果ガス排出量は二酸化炭素(CO2)換算で14億800万トンと、過去2番目の高水準だった。政府は20年度までに05年度比3.8%減の削減目標を掲げているが、13年度は0.8%増と逆に遠ざかった。
この原因を、環境省幹部は「原発停止に加え、電力各社が石炭火力の稼働を増やしているからだ」と説明する。石炭火力は石油の3分の1と火力発電で最も発電コストが低く、資源を入手しやすい。
03年に東京電力が30年ぶりに石炭火力を復活させ、常陸那珂火力発電所(茨城県)の運転を開始。また、今年3月、九州電力と出光興産、東京ガスの3社が、2020年代中ごろの稼働を目指し、千葉県で大型の石炭火力を建設することで合意するなど、各社が石炭火力を増やしている。
ただ、石炭火力はCO2排出量が天然ガスの2倍以上あり、数ある発電方法のなかで最も多い。環境問題に詳しい自民党議員は「石炭火力の稼働を今後も増やすことになれば、いくら省エネ対策を努力しても帳消しになる」と危機感をあらわにする。
「実質的に余力はなく、まさに綱渡りだ」。
原発の再稼働が遅れる中、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は今夏の電力需給に懸念を募らせる。
経済産業省は4月16日、8月の電力需要に対する供給余力を示す「予備率」が沖縄電力を除く大手電力9社で、安定供給に最低限必要とされる3%を確保できる見通しを示した。家庭や企業の省エネが定着したことに加え、電力各社が火力発電所のフル稼働で供給力を確保したからだ。
それでも電力需給に余裕があるとは言い難い。仮に他社からの電力融通がなければ、関西電力の今年8月の予備率は0.8%、九州電力にいたってはマイナス2.3%だ。各社は火力発電所の修繕工事をぎりぎりまで先送りして供給力の確保につなげている。トラブルが起これば、たちまち需給は逼迫(ひっぱく)する。
電力各社は原発が停止した分を火力で補ってきたため、10年度は原発比率が28.6%、火力が61.7%だったのに対し、13年度は原発が1.0%に低下する一方、火力は88.3%まで比率が拡大した。日本は今、火力に依存する、いびつな電源構成になっている。
◆膨らむ燃料費
火力依存で電力各社の燃料費は増える傾向にある。電力10社の14年度の燃料費は約7兆3000億円と、10年度に比べて3兆7000億円増えた。東日本大震災前に比べ、燃料費は2倍以上も膨らんだ。
この結果、電気料金は震災前よりも家庭向けで2割、企業向けで3割程度上昇した。電気代の値上がりは、景気や生活にも深刻な影響を及ぼす。既に企業からは「売り場などの節電は限界で、これ以上の経費上昇は経営的に厳しい」(大阪府の百貨店)と悲鳴が上がる。
日本原子力産業協会の今井敬会長は「(火力発電向け燃料の輸入増加で)年間4兆円の国富が流出して、1億トンを超えるCO2の排出増加につながった」と、原発稼働停止の弊害を訴える。
火力だけに頼っていては環境負荷が増えるだけでなく、日本経済にも大きな打撃となる。
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この連載は大柳聡庸、宇野貴文、田辺裕晶が担当しました。