高論卓説

「お金がないなら刷ればよい」 現代貨幣理論と左傾化、日本にも意外な政治勢力

板谷敏彦

 しかしそこでMMTはお金がないのであれば刷ればよいではないかと主張する。緊縮財政はやめなさいと。福祉国家実現の立場から、本来はかつてケインズの理論に従ってそうしたように、政府支出によって雇用対策を施し社会保障を充実させ、拡大してしまった格差解消に努めるべきであるという立場をとる。

 かつてのリフレ派の主張と重なる部分もあって誤解している人もいるが、理論の支持者は本場米国では民主党大統領候補のバーニー・サンダース上院議員のような左派であり社会主義寄りの政治家たちである。来日するケルトン教授はサンダース議員の政策顧問でもあるのだ。

 日本では、自民党が数年前からMMT勉強会を開き研究しているようである。

 一方で社会保障を増税無しで充実せよ、とは日本では一部期間を除く長い間、政策責任がない野党のお決まりの主張であったが、ここに来てそれが一定の理論的根拠を得たことになる。反自民の勢力も、MMTを支持する議員を認定する薔薇(ばら)マークキャンペーンを展開している。薔薇マークのバラはバラまきのバラである。ポピュリズムとフリーランチ政策の合体は、従来の日本にない意外な政治勢力を誕生させるかもしれない。

 金融市場への影響だが、MMT的な政策の実現には越えるべきハードルも多く、当面この件は静観の状態である。

 だが米国は日本以上に格差が大きく、社会保障は粗末である。前回の米国大統領選挙では予想外のトランプ大統領が徐々に勢力を伸ばして最終的に選出されたように、バーニー・サンダース候補が広く支持を集めていく状況は十分に考えられる。何しろ財源が要らないそうだから、何でも公約できるのだ。

                  

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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