「正義」を唱えて近寄る独裁・全体主義
一方、日本には、民主主義は期限付独裁だと言い放った政治家がいる。菅直人元首相だ。菅直人氏は副総理や財務大臣などを兼任していた2010年3月、参院内閣委員会で「ちょっと言葉が過ぎると気をつけなきゃいけませんが」との留保を付けてではあるが、「議会制民主主義というのは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだ。4年間なら4年間は一応任せると」と答弁している。
合意の成立を目指して努力した結果、やむを得ず多数決で政治を動かすのと、最初から、4年間は独裁が許されると割り切って政治を動かすのとは、本質的に異なる。その答弁には、権力者特有の独裁への秘めた希求を感じざるを得ない。「期限付独裁」から「期限付」を外すことが、それほど難しくないことは、過去及び現在の独裁国家の例が示している。
民主主義は脆いもの、そして、非効率なものだ。効率の良さや手際の良さ、分かりやすさを求めすぎてはいけない。独裁主義、全体主義は、時には、声高に正義を唱え微笑みながら寄ってくる。
民主主義は、幼子を育てるように寛容の精神をもって、注意深く、用心深く、そして、辛抱強く、護り育てていく以外にない。
【疾風勁草】刑事司法の第一人者として知られる元東京地検特捜部検事で弁護士の高井康行さんが世相を斬るコラムです。「疾風勁草」には、疾風のような厳しい苦難にあって初めて、丈夫な草が見分けられるという意味があります。アーカイブはこちらをご覧ください。