働き方ラボ

痛いこだわり、気づけば閉店 自分探しの終着駅“脱サラ飲食店”はアリか

常見陽平
常見陽平

 「脱サラ飲食店」は「自分探し」の象徴でもある。会社員でも、経営者でもない、何かになりたいという衝動の塊だ。あるいは、自分の実現したい世界の実現でもある。しかし、理想と現実のギャップに苦しむ。

 そういえば、ある日、ライター数人のイベントで聞いた話が興味深かった。ラーメン屋は経営が苦しくなっても気合と根性で最後の1日まで営業する。しかし、カレー屋は経営が好調でも突然、インドやアジアに旅に出る、と。カレー屋の経営者は自分探し志向なのだろうか? さもありなんという話ではある。

 この「脱サラ飲食店」に限らず、飲食店が傾いていく過程というのは見ていて切なくなることがある。コンセプトもメニューも迷走したり、営業時間が変わったり…。何かこう嫌な予感が漂ってくる。

 友人・知人が脱サラして飲食店を立ち上げたら、とりあえず応援のために一度は行ってみよう。ただ、昔のよしみで経営者を甘やかせてはいけない。むしろ、味、接客などについて厳しくフィードバックしよう。そして、もし友人が飲食店をたたむことがあったら、数年間のチャレンジを褒め称えてあげよう。

 逆にうまく行っている店というのは、徹底的に会社員時代の匂いを消している。客としてお邪魔しても、他の客との関係から特別扱いも、昔話もしない。そのかわり、あとでフォローのメッセージをおくってくれたりする。

 最後に、脱サラしてお店を始めたいと思っているあなたへ。まずは、たくさんのお店をまわってみよう。流行っているお店も、潰れそうなお店もだ。高くて美味しいものではなく、値ごろ感があり満足できる味をベンチマークしよう。まずは売れている店、そうじゃない店を研究するのだ。お店を出すときはそのエリアに何度も通って特徴、とくに人の流れなどを研究しよう。さらには、いま、来てくれる人が何人いそうか、これから何人つかめそうかも考えてみよう。

 自分に関係のない店なら、徹底的に面白がるという手もある。「こだわりの○○」に隠された、こじらせた自意識を面白がろう。やたらと自分の思い出(地元の名物や、学生時代に旅した国の味など)にしがみついていたり、『BRUTUS』や『Pen』に出ているようなオシャレな店を再現しようとするが、安物を並べてすべったり、多くの客とは関係ない自分の思い出の写真を並べたりするなど、メニューや掲示物をみるだけで味わい深い。いや、それが客に好評を博すのならいい。ただ、滑っていると痛いのだ。

 脱サラ飲食店は、自分探しの象徴であり、終着駅である。夢の実現を絶望の始まりにしてはいけない。

常見陽平(つねみ・ようへい)
常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら

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