読者の中には、自分自身はとっくにこの悩みを克服していても、部下や後輩がこの悩みにぶち当たっている人もいることだろう。私もそのような経験をしている。人事をしている頃には、自分が採用した若者たちが希望外の配属で悩む様子をみていた。私の部下として配属された新人女性社員もそうだった。
「必ず君を、事業部長たちから引っ張りだこになる社員に育てるから」
そう言って、無茶振りの案件も含め、彼女には分不相応な大きな仕事をふり、一生懸命に育てた。自分自身もそうだったが、大きな仕事と取り組むことが人を育てると信じていたからだ。彼女自身、十分にこなしていると思い、どんどん仕事をふった。
部下から「仕事を教わったことがない」
ある日、彼女の母校に採用イベントで行った際に、こう相談された。「私はちゃんと仕事を教わったことがない」と。やや愕然としつつ、反省した。十分に仕事をこなしていると思ったので、任せっぱなしにしていたのだ。急遽、イベントのリハーサルをつきっきりで行った。
もともとの才能と、何より自身の努力もあり、彼女はその後、希望通りの異動をかなえた。嬉しかった。
すっかりこの「クリエイティブ」という言葉の呪縛から逃れたと思っていたが、『左利きのエレン』を読んでいて、自分が憧れていても行けなかった世界に対して久々にジェラシーを感じた。しかし、お陰様であの頃思い描いていたものとは違うものの、当時、憧れていた「クリエイティブ」な仕事には関わることができているように思う。
というわけで、配属などを含め、やりたいことと現実のギャップは常にあるものだ。ただ、ここで「やりたいこと」をやるのではなく、「やりたいよう」にやること、嫌な仕事の中に、好きになれる要素を探すこと、創ることが社会と会社を楽しむコツなのだと思う。自分自身、久々に若い頃のことを思い出す作品だった。ドラマの盛り上がりに期待したい。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら