第20回「聞く」〈演習〉
ビジネスの場面において「正確に聞き取る」というのは簡単なことではありません。学校の授業と違い、相手に対して「売りたい」「評価されたい」という思いがあり、これが大きなバイアス(偏見)として作用してしまうからです。
基本編では、聞くときの注意点を2つ紹介しました。
・セレクティブリスニング :自分に都合のよい情報だけを聞き取ってしまう
・シニカル・オフェンシブリスニング :自分の思い込みによって情報を曲解してしまう
練習問題にチャレンジしつつ、自分の中のバイアスを取り払いながら「正確に聞く」スキルを身につけていきましょう。
問題1
以下は求人情報サイト運営会社の営業マンAさんと見込み顧客のB氏のやりとりです。
営業マンAさん「弊社の求人サイト『ロジナビ』の活用についてご検討頂けましたか?」
見込み顧客B氏「資料を読ませて頂きました。さすがの機能ですね~」
営業マンAさん「ありがとうございます!」
見込み顧客B氏
「登録している人数も業界最多ですし、海外在住者や海外の大学に通っている学生の登録者数も多いのは魅力ですね。現場の担当者は、弊社のようなレベルの会社で採用出来るかどうかは別問題とかいうけど、こういうサイトは登録者数って大事ですからね」
「それにしても登録者のデータの活用については驚くほど進んでいるんですね。広告を出すってだけじゃないんですね。経歴やスキルのデータはかなり細かくて、こちらがチェックしたい項目がほとんど含まれていました。あとスキルのマッチングだけじゃなくて、趣味嗜好や会社に求める雰囲気などの情報を活用できるのはいいですよね。やっぱりそういうところがしっかりマッチしていないと、採用してもすぐに辞めてしまいますからね~。部長も新しいものって何かというと反対するけどやっぱり世の中は進んでるんだよな~」
「データだけではなくて、メッセージのやりとりをAIが分析するってのもすごいですよね。面接では気づけないことにもAIが分析してくれるってことですよね。新しいIT企業が作るとこんなにすごいサイトになるんですね。説明会とか人材紹介とか昔からの企業は色々やってるけど、御社はデータ収集と分析に特化してるからここまでできるんですね。うちの部署はなんでもやってくれる会社にワンストップでお願いしたいなんていうめんどくさがりな人が多いんですよね。予算含めてぼくが一生懸命アピールしておきますよ!」
営業マンAさんの営業報告
- ・かなりの好感触
- ・登録者数に良い反応
- ・とくに海外の大学
- ・マッチングシステムはかなり満足
- ・先方の要望には応えられている
- ・趣味嗜好マッチングは先方の問題意識もあり重視してくれている
- ・AI分析は、理解は甘いが良い意味で驚いていて好材料となっている
さて、「ロジナビ」営業マンのAさんは、見込み顧客B氏の話した内容を正確に聞き取って分析・報告できているでしょうか。本当に「かなりの好感触」なのでしょうか。Pros(先方の好評価)Cons(先方の懸念)を表にして分類してみましょう。
問題1の解答と解説
Aさんとは異なり、「なんとしても目の前の新規顧客を獲得したい」「上司に良い報告をしたい」というバイアスが働かない皆さんにとっては簡単な問題かもしれません。
少なくとも聞き取る際、そして報告する際にこの表を活用していれば一方的になることは避けられるでしょう。また日本人はなかなかネガティブなポイントを口にしてくれませんから、明らかにConsの部分が少ない場合に積極的に確認するきっかけにもなるはずです。
単純にPros-Consに分けただけでなく、課題解決のフレームワークである「ロジックツリー」にまとめたのが次の図です。以前ご紹介した「MECE(モレなくダブりなく)」に沿って、このようなまとめ方が出来るようになれば、「抜け漏れ」を避けることができるようになります。