ビジネスパーソン大航海時代

アマゾンのサムライは日本のユニコーンを育む~航海(18)

小原聖誉
小原聖誉

 たった6行で決めたIBM退職

 IBMではどのようなことに携われたのですか?

 「まず、大手通信会社のメインフレームという大型コンピュータのシステムにSEとして携わりました。7年間です。システムに感情移入するくらいにめちゃめちゃハマりました」

 進取の気性なのにどっぷりとハマったわけですね。

 「これは自分にとって大事なインプット期間、鍛錬の場だと思っていました。昼夜問わず働きまくっていたので、次に“システムの外、人間系の仕事をしてみる”と決めました」

 さすがの意思決定ですね(笑)。

 「IBMに入社して8年目、SEではなく、コンサルとしてプロジェクトに入ったのです。これも非常に良いインプットになりました。同じプロジェクトで自分を鍛えてくれた非常に優秀な歳下コンサルタントがいたのですが、自分の運命が変わる出会いでした」

 そうなのですね。どのように運命が変わっていくのですか?

 「彼と一緒に仕事をし多くのことを学び育ててもらったこともあり、プロジェクトが終わった後も彼をウォッチしていたのですが、その彼がIBMを退職するという噂を聞きました。そこで連絡をしたのです」

 なるほど。どんな感じに?

 「社内のチャットで“やめるの?”(私)→“はい”(彼)→“何やるの?”(私)→“スタートアップ”(彼)→“畑さん来ます?”(彼)→“うん、行く行く”(私)と、わずか6行で彼とスタートアップの創業メンバーになることにしました(笑)」

 それはすごい!9年間もハマり切った会社、しかも大企業をすぐに…

 「ここも進取の気性でしょうね。リスクだとは全く思っていなかったです。なにより今までのインプットを通じて、ワクワクすることに巡りあった、そういうタイミングが来たのだと感じていました」

 スタートアップに転身されるわけですがどんな会社だったのでしょうか。

 「病院の予約システムを企画開発し、広告を掲示することでコストも抑えられるという事業を手掛けていました」

 なるほど、病院の待ち時間は我々患者にとって非効率ですものね。可能性がある事業ですね!

 「はい。当時は“注目のヘルスケアベンチャー”のように目されており、 ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達もしていました」

 順風満帆ですね!

 「最初はほんとうにそうでした。なによりサービスを病院・患者さんなど関係者全員が喜んでくださるので充実していました。そしてIBMでは組織人としてプロジェクトにトップダウン式に関わっていたわけですが、スタートアップでは自分の権限と責任が良い意味で持てるので、様々な挑戦ができるということに、知的好奇心を持ちました」

 素晴らしいですね!その後はどうなりましたか?

 「導入いただけると長く使われるのですが、業界構造を背景にVCが期待するように劇的に導入数を伸ばすことはできませんでした。無念でした」

 なるほど…

 「キャッシュが厳しくなったので組織を縮小し、そのまま自分がコストとして残り続けるわけにもいかないので、自分自身を切る形で退職しました」

 その時のお気持ちは?IBMを辞めたことに後悔を感じましたか?

 「後悔は全くありませんでした。良い経験をさせていただいたなと。自分の責任で仕事ができたわけですからね」

 強いですね!

 「いえ、精神的な話ではなく、自分が意思決定したことに対して全うしたので、活かして次にいけるじゃないですか。実際私は次にミスミという会社で新規事業に関わったのですが、その入社面接では私のスタートアップでの失敗経験が評価されたと思っています」

 なるほど、失敗経験が採用にも活きるというのは勇気がでますね。確かに挑戦したことがある人を採用したくなるものですよね。

 「そうなのです。リスクは過大に捉えるべきではないと思います。例えばスタートアップへ行くことをリスクに感じる方も多いと思います。でも、そのリスクとは具体的に何なのか?を考え抜いてみると、意外に大したリスクではないものです。別に殺されるわけではないですからね。そして意思決定をしたら、その時その場でインプット・学び続けることができれば必ず活きる場が後に来ると私は思います。特にこれからの日本においては挑戦する人材が求められるでしょう」

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング