人は「自分が作ったもののほうが好き」で、優れて見える生き物
行動経済学の第一人者で数々の関連ベストセラーを持つデューク大学のダン・アリエリー教授は、人は自分で生み出したアイデアに愛着を感じ、高く評価してしまうという実験結果に対して、「自前主義バイアス」と命名しています。以前に当連載で「イケア効果」(労力をかけて何かをこしらえると、その作品に愛着を感じ、過大評価するようになる)に触れたことがありますが、このイケア効果を含めて、私たちは自分が作ったもの、自分の考えやアイデアが「好き」なのです(笑)。それが色眼鏡となり、他人のものより自分のもののほうを評価してしまう生き物なのですね。
それは私たちの愛らしいところでもありますが、こと、ビジネスの世界においては、この「自前主義バイアス」には個人単位でも組織や企業単位でも重々気をつけないと大きなリスクとなります。それはもうお分かりかと思いますが、自分の案や企画への愛着が過ぎると、他の優れたアイデアを排除してしまうリスクがあるからです。商品、サービスで古今東西、「他社にしてやられた」ケースには、この自社での勝手な“敗れた案のほうが優れている”という思い込みバイアスに陥ったものも非常に多くみられます。あえて具体的に事例を引くことは控えますが、流通会社や外食、あるいはアプリ関連やSaaS会社などまで、同種のサービスが「我が社のものの方が競合よりも優れている」と言いながら負け組に陥ってしまっている例は枚挙にいとまがありませんよね。
上司は部下に「自分が作った」と思わせれば良い
面白いことに、この「自前主義バイアス」は、本当に自分自身が考えた・作ったものでなくとも、当人が「これは自分が考えた」と思い込んでいる(実は別の人が考えた・作った)ものでも同様の現象を引き起こします。ここにこのバイアスの面白いところ、上司としての腕の見せ所があります。
要するに、上司のあなたが考えた案であっても、あたかも部下たち自身が考えた、提案したように持っていければ、必ずメンバーは気持ちよく取り組んでくれるということです! まさに、ご紹介した私の過去の経験こそ、「ズルい自前主義バイアスの使い方」だったのです。当時、私は「自前主義バイアス」などということは全く存じ上げなかったのですが(笑)。
上司の“勝ち”は、誰の意見が取り入れられたかではなく、チームがビジネスをうまく進めることができたか、成果をあげることができたか、ですから、「これは俺が起案した案だ」などと自慢する必要などなく、自分の案や意見をあたかも部下たちが考えたように持っていき、「キミの素晴らしい案のおかげで、今回、成功することができたよ!」と部下を誉めてあげれば良いのです。
「自前主義バイアス」を巧く使える上司は、オトナ度の高い上司でもあるということになりますでしょうか。あなたは使えますか? それとも、それでも「自分がやった」にこだわりますか?(笑)
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら