三浦半島の先にある小網代の森という約70ヘクタールの土地を、柳瀬さんはNPOメンバーの一人として長い間整備に努めてきた。川の最上流から河口千潟まで流域のすべてがそのまま残されている東日本唯一の場所である。数年前に訪れたことがある。自然との向き合い方のお手本のような森だ。
その彼が、大きな河川周辺で治水と稲作を行うには、あるレベルの技術と人手を要するが、小網代の森くらいのサイズであれば少数の人間でもなんとかなる、と実体験から話す。そして、この小さな流域が台地にたくさんあり、それらがお互いに繋がり周辺インフラを整えた。こうして来るべき平野に施す大規模な治水技術の発達を待ったのが今の16号線の軸線上だったというのだ。いうまでもなく後年、東京はこの恩恵を蒙って成立した。
これを読んで、地中海世界の成り立ちをふと思い出した。フランスの歴史家であるフェルナン・ブローデルによれば、人間の歴史が丘や山地から始まったのは、河川の下流域の制御、整備が困難だったからだ。テヴェル川の手なずけ方を習得してローマが誕生する以前のことである。農業に不便であっても、疫病や戦争を避けるにも丘や山地の生活が好都合だった。こうして地中海沿岸の小都市のネットワークができた。
実は、ぼくは現在、小さなサイズのローカルがコミュニティとして閉じることなく、他の多くの小さなローカルと繋がりながら、分散的なシステムとして機能する世界の作り方に興味がある。
そのヒントが16号線にあるらしい。16号線を「思い出の地」リストから外すことにした。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。