キャリアに仕組むべき「弱い」人脈
ところで、「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。米国の社会学者、マーク・S・グラノヴェッターが唱えた説で、
「価値ある情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)よりも、ちょっとした知り合いや知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要である」
という社会ネットワーク理論です。
特に、この理論の元となった調査が、「転職の際の有益な情報をどう得たか?」というもので、近い身内(強い紐帯)の情報よりも、さほど近しくない知人(弱い紐帯)からの情報のほうが圧倒的によい転職の機会につながっていたとのことです。
これは、おそらく読者の皆さんも感覚的に理解できるのではないかと思います。
近しい身内では、すでに知っていたり関係性が強かったりする情報に閉ざされてしまい、転職で今とは別の新天地を求めたい際に「飛び地」の情報を得難いのです。
自分が得たい「飛び地」の情報は、日頃、関係性はあるものの情報交換度合いのさほど高くないネットワークの人たちこそ多く持っています。ある意味これを仕組み化したものが、私たちのようなエグゼクティブサーチファームや人材紹介エージェント会社だと言えるでしょう。
自分の縁を広げ、幅・可能性を拡げるためには、外部のコミュニティを持つことが非常に重要なのです。
計画と、計画的偶発性と、日々を一生懸命やった結果
このことを知った上で、もうひとつ、次の理論をおさえておきましょう。それはスタンフォード大学のクランボルツ教授が唱えた「プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)理論」です。
これは「キャリアの8割は予想外の偶発的な出来事によって決定される」という論で、これを生かすか見逃すか、しっかり掴むかもまた、あなたの人生を大きく左右するのです。
さて、ここまでお話ししたところで、私なりのキャリアの正解は、「目的型」+「展開型」のミックス型です。要は、両方必要だということ。
目的なきところにストレッチ成長はありえないし、困難を乗り越えて何かを達成することは難しい。一方ではその目的に固執してしまうことは、非常に危険である。世の中はどんどん変化していくし、人は日々成長していく。目の前のことを一所懸命やることで、様々な出逢いやチャンスを手に入れることができるのです。
阪急電鉄や宝塚歌劇団をはじめとする阪急グループ(現・阪急阪神東宝グループ)の創業者である小林一三氏の言葉に、次のようなものがあります。
「将来の志は常に高く持ちなさい。そして、日々の足元のことをしっかりとやり遂げることこそが、その志に到達する最も近道なのだ」
将来の目標・志を持ち、日々、目の前のことに120%、150%情熱を注いで取り組む。そうしていれば、あるとき 「弱い紐帯」と「計画的偶然性」によって、あなたのキャリアは次へ次へと切り拓かれていくことでしょう。
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足元の業務に<いま・ここ>で邁進する。定期的に「自分のキャリアビジョン、キャリアプラン」を捨てて、更新・上書きする。すると、これまでには思いもしなかった可能性と未来が舞い込んでくる。これを繰り返し続けていると、ある日、自分が、数年前には思ってもいなかった場所にまで到達できていることに気がつくのです。
このコロナ禍の期間は自分刷新の良い期間だと捉えて行動すれば、なんとなく鬱々と毎日を過ごしている隣のライバル上司に差をつける、またとないビッグチャンスですよ!
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら