長寿企業大国ニッポンのいま

「理念」や「人脈」はどう引き継ぐか 経営者が抑えるべき事業承継の事前準備

葛谷篤志
葛谷篤志

 国が今課題を抱える「事業承継」について解説する連載コラム「長寿企業大国ニッポンのいま」第3回は、これから事業を引き継いでいく経営者の方に向けた事業承継の準備について詳しく解説していきます。

 中小企業庁が2016年に発表した「事業承継に関する現状と課題について」(*記事末に詳細)によると、事業承継の準備をしていない経営者の割合は50代で55%、60代で27.6%だそうです。

 なにから手をつけていいかわからない。という経営者のために今回は、事業を引き継ぐ準備の手順を大きく2つの項目に分けて、説明いたします。

必要項目はハード面とソフト面で分けて整理する

 「事業承継の準備」について、われわれ事業承継士が活用するフレームワークに沿って解説したいと思います。

 そもそも「事業承継士」とは、一般社団法人事業承継協会が認定する資格です。資格を得ると、企業の引き継ぎにおいて円滑に進めるためのアドバイスや、事例に即した協議事項の整理、事業承継計画表の作成などの支援をおこなうことが可能となります。

 事業承継士は「事業を引き継ぐ準備」に着手する際、企業の引き継ぐべき項目をの以下の2つに分けて考えます。「ハード面の承継項目」と「ソフト面の承継項目」です。

 「ハード面の承継項目」とは、株式や資本、売上、顧客データ、不動産などの“定量的”な企業の承継項目です。

 対して、「ソフト面の承継項目」とは、経営ノウハウや、経営理念、人脈(ネットワーク)、技術、ブランド、想い、歴史などの“定性的”な企業の承継項目です。

 一般的な企業価値の算定は多くの場合「ハード面の承継項目」で評価します。しかし創業経営者が長年にわたってつくりあげた企業は、定量的な企業価値以外の面でも評価するべき項目が多いことも事実です。

 経営者が、いざ「事業承継」を決心した際には、ハード面・ソフト面の両方で、準備を進めていくことをおすすめ致します。

「ハード面の承継項目」に対する事前準備のしかた

 まず、ハード面で考えた場合の承継項目の準備とは、現在の企業価値の算定、自社株式の価格などをしっかり把握することからはじまります。

 ここでお伝えするハード面の承継項目に対する事前準備は、事業を行う際に構築する中期経営計画書を作成するプロセスに似ています。

 現状の売上、利益、人件費などの販売管理費用、保有資産を算出します。また、同時に、株式の保有状況を把握し、企業を譲り渡す際にかかる費用までを捉えることが重要です。

 その際に、注意して頂きたいポイントが3つあります。

  • 発注書、注文書が未締結の状態で、発生している取引案件がないか
  • 未払い、未収金などが発生していないか
  • 株式の保有者と連絡が取れない状態になってないか

 こうした、未上場企業や、家族経営の企業が“おつきあい”の範囲でおこなっている業務は、準備の段階でクリアにしておきましょう。

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