米国では生涯自殺率「3%」にも
富山大学の斎藤清二氏は、2014年の『エビデンスの観点から見た 「うつ病」と「自殺」の関係』という論文でこう前置きをする。
「これまで世界的に標準とされてきた精神科学の教科書の記述によると、『うつ病患者』の生涯自殺率は 15~20%前後であるとされてきた。この 15%という数字は、多くの専門家によって認められ、一般に流布してきた数値である。しかし、近年この 15%という数字は、専門家の実感とかけ離れているということが指摘されるようになってきた」
そのうえで、さまざまなエビデンスを元に、米国の鬱病患者のうち、自殺の危険性のため入院の必要があった人を除く軽症~中等症の鬱病患者の生涯自殺率について「トータル3%前後と考えられる」としたうえで、以下のように指摘する。
「ところで米国の全ての人口での生涯自殺率は約1%であると言われている。よって、うつ病の人が自殺で生涯を終える可能性はやはり、全人口の平均より3倍程度高いのである。つまりうつ病は確かに自殺のハイリスクであることは間違いがない。しかし、うつ病の人の大部分は自殺では死なないということもまた事実なのである」
人を追い込む…職場で意識改革を
鬱病経験者に話を聞くと「あ、死のうかな」とカジュアルに思う瞬間があるのだという。ふとビニール紐を三つ編み状に結い、強度を高めていたところ、家族から「何をやってるんだ!」と止められて「あ、私、自然と死のうと思っていた」と気づいたそうだ。
それだけ鬱病というものは、「死への後押し」をする病気だ。過去に鬱病を患った女性は私に対して「会社には言えません。だって、私、見た目普通ですもん。自殺をした後に『あぁ、それだけ苦しかったんだ』と理解してもらえる。だから死んでやろうかな、と思ったんです」と言った。
尋常ではない発想だが、ここまで鬱病は人を追い込む。彼女は上司に鬱であることを明かすにあたっては「自殺をしたくないので、休ませてください」と明確に言ってもいいかもしれない。私は雇われ人ではないため、このようなことを言うことはない。だが、日本中の多くの雇われ人は鬱病と診断された場合は「自殺したくないので、すいません、数か月間の療養を認めていただけませんでしょうか」といった交渉をした方がいい。
そして、こうした交渉ができるためには、周囲の理解が必要だ。だからこそ「鬱病は死ぬ可能性が高い」という意識を社内で共有し、上司が鬱病の部下をきちんと理解した上で、守らなくてはならない。そして、職場では「〇〇さんの復帰まで残った我々で頑張りましょう」などの気概を見せるべきなのである。
【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら