福島第1原発単独ルポ、作業環境改善も見えぬ収束 1000超の処理水タンクの現実
東京電力福島第1原発事故の発生から10年を前に、産経新聞は廃炉作業が進む構内の単独取材を行った。全面マスクや防護服なしの軽装備で立ち入りが可能な区域は9割を超え、防潮堤の整備も進むなど作業環境は以前に比べ格段に改善している。だが、事故炉で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しはなお手つかずのまま。敷地を覆う1000基超の処理水タンクの前で、事故収束に「節目」を感じ取ることは難しかった。
防護服なしで
記者が前回、取材で構内を訪れたのは平成26年2月。当時は全面マスクに防護服という完全防備で取材に臨んだが、7年ぶりとなる今回は、新型コロナウイルス対策を兼ねた不織布マスクに、一般服で入構できるようになっていた。
正門を通過して向かったのは、事故が起きた1~4号機西側の海抜35メートルの高台。炉心溶融(メルトダウン)を起こした1号機まで100メートル程度という位置だが、感染対策を別にすればマスクの着用は不要だ。
事故当時は敷地全域で全面マスクや防護服の着用が必要だったが、地面にモルタルを吹き付けるなどして放射性物質の飛散を押さえ込み、28年に装備の規制を緩和。現在は、一般の作業服に防塵マスクだけで立ち入り可能な区域が全体の約96%まで拡大している。
防潮堤かさ上げ
1~4号機の海側には防潮堤が設けられた。海抜11メートルで約600メートルにわたり太平洋を望む視界を遮っている。太平洋沖の千島海溝沿いの巨大地震による津波(10・3メートル)を想定し、事故前は同8・5メートルだった敷地をかさ上げして昨年9月に完成したものだ。
しかし、内閣府は昨年4月、震源が同原発により近い日本海溝の地震で13・7メートルの津波予測を公表。このため、令和5年度までに海抜約13~15メートルに増強することになっている。
2、3号機の西側にある道路に立ち、ドーム屋根が設けられた3号機を見上げると、カバー側面の隙間から内部の傷ついた鉄骨がうかがえる。空間線量も毎時100マイクロシーベルトまで急上昇した。同1マイクロシーベルト以下だった正面玄関付近のおよそ100倍で、改めて事故の深刻さを痛感させられる。
2号機では、今年中にデブリの取り出しが開始される予定だったが、コロナ禍の影響で1年程度の延期を余儀なくされた。取り出し作業が順調に進む保証もなく、廃炉の行方は見通せないのが実情だ。
来夏ごろには満杯に
汚染水の浄化を担う多核種除去設備(ALPS)の建屋には、フィルターが設置された吸着塔などが並んでいた。汚染水は、原子炉建屋の下部に流れ込んだ地下水や雨水がデブリに触れることで発生する。ALPSでは、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を行っている。
3基7系統あるが、稼働していたのは1系統のみ。「フル稼働の時期もあったが、今は落ち着いた状態」(東電)となったのは汚染水の発生を抑制したためだ。1~4号機周囲の地下を凍らせ地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」の造成に加え、雨水が入りやすい破損した建屋の屋根の補修などの結果、平成27年に1日平均で500トン前後も発生していた汚染水は昨年、約140トンまで減っている。
敷地内を見渡すと汚染水を浄化処理した処理水のタンク群が所狭しと並んでいる。敷地には限りがあり、約137万トンの総容量の9割以上がすでに埋まっている。東電は現時点で来年秋以降に満杯になるとしており、そうなれば処理水は行き場を失う。海洋放出などが検討されているが、地元の理解は得られておらず、このままでは廃炉工程に影響する可能性も出てくる。(玉崎栄次)