「フリーランスと子育てって、ぶっちゃけ両立できるの?」
同業の知人から、そんなふうに聞かれることがあります。振り返ると、産後1年くらいの記憶がスポンと抜けているくらいには大変でしたが、決して悪いことばかりじゃなかったな、と思っています。
2011年にフリーランスになり、先日10年目に突入した、ライターの栗本です。
2014年と17年に男児を出産し、子育てをしながら仕事を続けています。フリーランスでもなんとか生き抜いてきた私ですが、最近少し気になっていることがあるのです。
それは「保育園落ちた日本死ね」の匿名ブログが発表された2016年以降、世のお母さんたちが「大変だ」と声をあげやすくなったのはよいことだけど、大変さばかりクローズアップされるようになり、子どもを産みたいと思えない人が増えたのではないか、ということ。
とくにフリーランスのように不安定な職業の場合、産休や育休もないなかで、「いつから復帰できるのだろう」「産前と同じように働けるのだろうか」「フリーランスだと保育園に入れないのでは」……そうした不安がついてまわります。
そこで、フリーランスの出産・子育て事情について、あらためて探っていけたらと思いました。
対談のお相手は、フリーランスとしてもお母さんとしても先輩である、イラストレーターのカワグチマサミさん。産後にはじめた育児エッセイマンガをきっかけに売れっ子となったカワグチさんになら、ポジティブなお話も聞けるのでは?
カワグチさんは大阪在住のためオンラインでのインタビューでしたが、小学校1年生の息子・そーちゃんが新型コロナウイルス感染症による一斉休校で、ご自宅にいるとのこと。「いつでも抜けて大丈夫です」と伝えたうえでスタートしました。(※取材は2020年3月上旬にオンラインで行いました)
■産前・産後は働けると思っていた。想像と現実のギャップ
栗本:まずは、読者の皆さんのために、カワグチさんの経歴をざっとまとめてみました。カワグチさんは2010年からフリーランスになって、12年に出産されています。私は最初の出産が14年だったんですが、そのころは世の中で「お母さんは大変だ」とさほど叫ばれていなかったですよね?
だからこそ、私はあまり難しく考えずに子どもを産む選択ができたと思っています。これから選択しなくてはならない人たちは、入ってくる情報が多すぎて、「そりゃ産む選択を躊躇してしまうよな……」と。
カワグチ:SNSがいまほど発達していなかったので、現場の声が発信されていなかったですよね。当時はまだまだフリーランスも少なかったし。
栗本:カワグチさんはフリーランスになってから出産されていますが、妊娠前の働き方ってどんな感じでしたか?
カワグチ:独身の頃は駆け出しだったのでそんなに稼いでいなくて、しかもデザインがメインでした。「お金がなくなったらバイトしよう」くらいのマイペースな働き方でしたね。
栗本:妊娠してから働き方は変わりましたか?
カワグチ:私、出産の直前・直後もバリバリに働けると思っていたんですよ。だけど、私は妊娠半年くらいでお医者さんから安静にしていなさいとの指示が出て、そのとき来ていた仕事が全部できなくなっちゃったんです。その焦りもあって産後1カ月で復帰したんですが、乳腺炎で体調を崩したり、倒れたりもして。
カワグチ:何が起こるか産んでみないとわからないのが出産だってこと、わかってなかったんですよね。出産直後はあらかじめ仕事をセーブしておけばよかったです。
栗本:乳腺炎、本当につらいですよね……。体調が万全でないなか、産後はどんな仕事をされていましたか?
カワグチ:雑誌など、出版系がメインでした。女性週刊誌の4コママンガを毎週2~3本描いていて。育児でいっぱいいっぱいだし、収入も少なかったんです。でも、夫が働けなくなったのを機に、「私ががんばらねば!」と。
栗本:……え、夫が働けなくなった?
カワグチ:夫が転職したばかりだったんですが、職場と相性が良くなかったようで、ぼーっとしたり、人格が変わったりした時期がありました。その様子を見て、これは休んでもらった方がいいなと。とはいえ、私もUターンしたばかりで大阪での仕事がなかったので、赤ちゃんを背負いながら営業しました(笑)。身近なツテがあとあと大きな仕事を呼んできてくれたりも。子どもが1~2歳のときはそれで突っ走りましたね。
栗本:赤ちゃんを背負いながら営業……! それは営業先にも切迫感が伝わりそう。当時は一日をどんなスケジュールで過ごしていたんですか?
カワグチ:それが、突っ走りすぎてあんまり覚えてなくって。
栗本:ですよね(笑)。わかります。