この数年間、新しいラグジュアリーの意味を探っている。19世紀に貴族性を真似て英仏に生まれた新興ブルジュアのためのラグジュアリーブランドが、少なくとも先進国においては賞味期限切れとなりつつある。
そこで世界のいろいろな地域の人たちが、ローカル文化に基づいたラグジュアリーのあり方を求めている。しかし、どこかの誰かが圧倒的にリードして意見形成を図っているとの状況でもまだない。
そこでよく聞く声がある。クラフツマンシップの再評価である。工業製品的な均質なテイストではないものに魅力を感じる人が増えている。目をひくべきは、その動機として、完成したモノの質感だけでなく「職人の仕事のプロセスに心が動かされる」というのだ。
最近、尾原和啓さんの『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』という本を読んだ。アウトプットもさることながら、プロセスそのものがビジネスを動かすエンジンになっているという。
本の中でビールのハイネケンの動画を紹介している。ある実験だ。意見のまったく違う人間が、お互いにそのことを知らずに椅子を組み立てる共同作業を行った。すると、あとになって意見の違いよりも、その相手と一緒にビールを飲み続けたいと思う選択をする。
・価値観の違う他人と仲良くなれるか? ビール大手ハイネケンが実験しました
プロセスが社会のあり方を左右させる。「アウトプットがすべて」と思い込んでいる人たちは、アウトプットとはいったい何なのか? 生産性とは何を指すのか? を問い直してみるのがよいだろう。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。