トヨタはなぜここまで抵抗するのか
もちろんトヨタも超高速で電気自動車への対応を始めていますし、対応するでしょう。そして、国も自動車業界のソフトランディング、つまり電気自動車化によって生まれる大量の仕事の喪失や事業転換のための投資への補助を検討しているはずです。このトヨタの活動で注目したいのは
自分に有利なルールを作る
という日本の大企業が苦手とする競争だという点です。
トヨタが抱く危機感からいえば「そんなくだらないことやっている暇があったら良い製品をつくればいいのに…」という指摘は的外れかもしれません。マス商品の消費者はあっという間に「楽で安くて多いもの」に流れていってしまいます。多くの人は事情を考えずに「トヨタはグダグダ言わずに電気自動車がんばれよ」くらいでしょう。しかし、トヨタにとって“後出し”されたルールに沿ってしっかりとした電気自動車を開発している間に、格安の電気自動車が入ってきたらさっさと切り替えてしまいます。
ある程度意識の高い方々が「やはり国産じゃないと」とか「安物買いの銭失いだ」とか言っても、大きな流れができてしまえば「マス商品」の勝敗は決してしまいます。マスはマス商品に対して、大きなこだわりがないのです。自動車は他に類を見ない「高額」な「マス商品」です。現状では、他の産業とは国全体に対するインパクトが全く違います。だからこそ、他国の自動車メーカーも同国の政治を巻き込んだ大きな仁義なき戦いとなっているのです。
政治を巻き込んでのルールチェンジは常套手段
途上国でのビジネスの新規開拓などでは、「先に乗り込んでルールを作ってしまえ」「遅れたら政治家を巻き込んででもルールチェンジをしろ」というのは鉄則です。しかし、日本を支えているといえる自動車産業がこのような状況になって始めて「ルールチェンジ」の事の重大さに気づく方も多く、トヨタ自動車の例は良い教材となるでしょう。
自動車産業に携わっていない方にとって対岸の火事ではありません。経済的に必ず自分に降りかかってくるインパクトがありますし、日本人の感覚では他国とその産業による「卑怯なルールチェンジ」の手法に対して、ここまで一般的に注目されている中でどのように対応していくのかは大きな興味があります。応援する気持ちで見守りたいと思います。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら