[大賞企業に東京エレクトロン 海外に学び、常に改善の姿勢で成長]- SankeiBiz(サンケイビズ)

コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーとは?

大賞企業に東京エレクトロン
海外に学び、常に改善の姿勢で成長

表彰式で挨拶する日本取締役協会の宮内義彦会長

 経営者や社外取締役、機関投資家などで組織する日本取締役協会(会長・宮内義彦オリックスシニア・チェアマン)が主催する、コーポレートガバナンスを活用した経営で健全な成長を遂げている企業を後押しする表彰制度「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」。 2021年度のグランドプライズカンパニー(大賞企業)には半導体製造装置のリーディングカンパニーである東京エレクトロンが選ばれた。 2022年1月31日に東京・内幸町の帝国ホテルで開かれた表彰式では、河合利樹社長・CEO(最高経営責任者)が登壇。「すべてのステークホルダーに愛され、信頼される企業を目指していく」と語った。

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーは2015年度に創設され、今年度が7回目。経営の執行と監督の分離などの取り組みで透明性の高い経営体制を整えつつ、ROE(自己資本利益率)などの経営指標で高水準の実績を上げている企業が選ばれる。

 今年度の大賞企業の東京エレクトロンは監査役会設置会社の形式を取りつつ、取締役やCEOの候補者を提案する指名委員会と、報酬制度や代表取締役の個別報酬額を提案する報酬委員会を設置。 いずれの委員会も社外取締役がトップを務め、客観的な立場を厳格に維持している。 さらに取締役会の実効性を評価するため、第三者機関による取締役や監査役へのヒアリングなどを実施し、その結果をもとにした討議を社外取締役や社外監査役が主導して行うなど、先進的な取り組みを行っている。 また経営指標の面では、3期平均のROEで25.8%を達成。選定の基準のひとつである10%を大きく上回った。

 斉藤惇・審査委員長は東京エレクトロンのコーポレートガバナンスについて「海外半導体関連企業の先進的な取り組みから学んでいる」と評価。 さらに経営体制を自社の実情に合わせたものへと常に改善していく経営姿勢がいわば「攻めと攻め」のガバナンスとして、「業績の急速な改善につながっている」と評価している。

 今年度の表彰ではこのほか、ウィナーカンパニー(入賞企業)にソニーグループとピジョンを選出。特別賞では経済産業大臣賞にはダイフク、東京都知事賞にはエーザイが選ばれた。

大賞のトロフィーを受け取る東京エレクトロンの河合利樹社長・CEO(右)と宮内義彦日本取締役協会会長

コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー 2021受賞企業

大賞:東京エレクトロン株式会社

入賞:ソニーグループ株式会社

入賞:ピジョン株式会社

特別賞・経済産業大臣賞:株式会社ダイフク

特別賞・東京都知事賞:エーザイ株式会社

 このたびは、このような栄誉ある賞を頂き大変光栄に存じます。デジタルとグリーンの両立が社会の共有価値となるなか、半導体はますます重要な社会インフラとなっていきます。 今回の受賞を励みに、コーポレートガバナンスのいっそうの向上をはかり、強固な経営基盤のもと、引き続き半導体の技術革新へ大きく貢献するとともに、中長期的な利益の拡大と継続的な企業価値の向上に努めてまいります。

組織

ガバナンス改革最前線

環境変化に負けない経営へ 稼ぐ力を育むガバナンス改革

 2年を超える新型コロナウイルス禍が世界経済を揺るがす中、日本企業の稼ぐ力が問われている。企業の収益性を示す経営指標を日米欧で比較すると、日本企業は依然として米欧に後れを取っているのが現実。 さらに日本経済の成長率は、新型コロナとの共存を前提とした新しい経済のスタートに乗り遅れかねない状況だ。 ただし日本にも高い収益力を維持している企業はあり、突然の環境変化に負けない経営の実現に向けて、コーポレートガバナンスの強化にも取り組む。 日本経済を再び成長軌道に乗せるため、質の高いコーポレートガバナンスの浸透が必要とされている。

「はっきりとした業績の差」

 「(コーポレートガバナンスへの取り組みが)形だけの会社と、自分のものにして真剣に取り組んでいる会社にはっきりとした業績の差がでてきた」。 1月31日のコーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021の表彰式で、斉藤惇・審査委員長は、経営におけるコーポレートガバナンスの重要性を強調した。

 日本企業の稼ぐ力はかねてから不十分だと指摘されてきた。経済産業省の分析によると、株式発行などで調達した資本を元にどれだけ効率的に稼げているかを示すROE(自己資本利益率)は、2019年の日本主要企業では6.3%。一方、米国は17.9%、欧州は12.1%で、日本の数倍の水準にある。

 また、新型コロナ禍拡大を経た日本経済の回復への足取りはおぼつかない。 日本の2021年の成長率は2月15日発表の速報値で1.7%。米国の5.7%やユーロ圏の5.2%(いずれも速報値)から大きく見劣りしている。 新型コロナ感染拡大がもたらした社会の変化に経済活動が追いついていない姿が垣間見える。

図

不安定な経済状況にも、うまく対応

 一方、コロナ禍の中でも高い収益力をみせる日本企業はある。2021年度の大賞企業に選ばれた東京エレクトロンの場合、2021年4~12月期決算は売上高が前年同期比約5割増、最終利益は約2倍増だった。 コロナ禍による社会の変化がIT機器に用いられる半導体需要を押し上げていることを確実にとらえた結果だ。

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーは、稼ぐ力の指標としてROEに加え、負債も含めた総資産を有効活用できているかを示すROA(総資産利益率)も採用。 3期平均でみたROE基準(10%以上)、ROA基準(非金融4%以上、金融2%以上)を設けている。受賞企業はいずれも不安定な経済状況にうまく対応できる経営力を備えているとみることが可能だ。

 コーポレートガバナンスの強化は経営の安定につながると投資家から判断されやすく、株式市場での評価が高まる要因とされる。日本企業の改革の旗を振ってきた日本取締役協会の加盟企業の2002年4月末から2020年3月までの株価変動を東証株価指数(TOPIX)と比較した場合、加盟企業の株価は「長年にわたって安定的にTOPIXを上回る優れたパフォーマンスを示してきた」(SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリスト)との分析結果が出ている。

 東京エレクトロンはPBR(株価純資産倍率。株価を1株当たりの純資産で割って求める)が東証一部平均の1.2倍を大きく上回る8倍を超えており、伊藤邦雄・審査委員は表彰式で「日本企業として想像できないぐらいの水準」と高く評価した。

一層のさらなる努力が必要

 日本企業全体を見渡すと、コーポレートガバナンスに課題が多いことも事実だ。2021年4月には東芝の当時の社長が「物言う株主」との対立から辞任。さらに6月の株主総会では経営執行を監視する立場だった取締役会議長の社外取締役選任が否決されるという混乱が生じた。 東芝は2003年6月には委員会等設置会社に移行するなど、率先して体制をつくってきた。しかし2015年に発覚した不正会計問題から今回の混乱に至る経緯は、制度を整えるだけでは経営の安定や株価の上昇にはつながらないという難しさを浮き彫りにした。

 また、2021年に「再発」したみずほフィナンシャルグループ(FG)のシステムトラブル問題は、トップ交代にまでつながった。 みずほFGも指名委員会等設置会社として「監督と経営の分離を徹底する」としてきたが、社外取締役が十分に役割を果たしていないのではないかといった批判にさらされている。

 日本取締役協会は企業の取締役や管理職を務める人材や候補者を対象として、取締役の役割への理解や必要な知識を身に付けるためのセミナーを開くなど、実践的な取り組みを続けている。 宮内義彦会長は表彰式でのあいさつで、日本のコーポレートガバナンスが充実してきた一方で、海外企業もさらに前進していると指摘。「一層のさらなる努力を必要とする」と訴えた。

羅針盤となる受賞企業

先進事例で日本企業を牽引 社会的な責務でも評価

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021(日本取締役協会主催)では、グランドプライズカンパニー(大賞)1社、ウィナーカンパニー(入賞企業)2社と、特別賞として経済産業大臣賞1社、東京都知事賞1社が選出された。 日本でのコーポレートガバナンス改革の先陣を切ってきたソニーグループをはじめ、いずれも先進的な制度を導入し、好業績を実現してきた企業ばかりだ。 透明性のあるトップ選任プロセスや、環境対応などの社会的な責任を果たす取り組みも評価されており、日本におけるコーポレートガバナンスの模範になると期待されている。

 入賞企業のソニーグループは2003年6月、制度ができたばかりの委員会等設置会社(現在は指名委員会等設置会社)に移行するなど、コーポレートガバナンス改革の先頭を走ってきた。現在も社外取締役が取締役会議長を務め、指名委員会のメンバー全員が社外取締役であるなど、徹底した取り組みを続けている。 中神康議・審査委員は表彰式で、ソニーグループを「紛れもなくガバナンス改革のパイオニア」と評価。同社の経営体制が国際的な事業展開で勝ち抜くために磨かれていった側面を指摘し、「ソニーグループのガバナンスは形式から実質へ進んでいる」と話した。

ソニーグループ株式会社 代表執行役会長兼社長CEO吉田憲一郎 

 ソニーのコーポレートガバナンスは、事業の多様化に合わせ、試行錯誤と進化を重ねてきました。取り組みを評価いただき、誠にありがとうございます。 コロナ禍で、企業における重要性を再認識していることに文化があります。当社の企業文化のベースはPurpose(存在意義)で、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と掲げています。 多様な社員がPurposeを共有し、長期視点で企業価値の向上を目指す上でも、適切なガバナンス体制は欠かせません。今後も、ガバナンス、経営の進化に努めてまいります。

 もう一つの入賞企業のピジョンは「愛」を経営理念に掲げ、ベビー用品関連事業を展開。指名委員会で審議する内容のひとつとして、「ROE(自己資本利益率)が3年連続で5%未満」がCEO(最高経営責任者)の解任基準となることを明示するなど、透明性の高い経営体制づくりを目指している。 太田洋・審査委員は表彰式で、ピジョンが世界を赤ちゃんに優しい世界にするという目標を掲げ、本社の授乳室を一般にも開放している事例を紹介し、「ガバナンスが(組織の)末端まで意識されている」と言及。 「(売上高が1兆円を超えるような)超大企業でなくても、きちんとしたガバナンスが実践できることを身をもって示している」と述べた。

 この度は、日本取締役協会コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021 Winner Companyに選出して頂き誠に光栄に存じます。 我々の心と行動の拠り所であるPigeon Wayに基づく活動を評価して頂いたものと受け止めております。 今後は、専門性に基づく監督機能の発揮だけに囚われない社外役員の活用や社員および役員の多様性の更なる向上を通じ、「攻め」と「守り」の両面からコーポレートガバナンスの充実を図る所存です。

 経営トップの選任や後継者計画で優れた企業を表彰する経済産業大臣賞の選定では、選任されたトップのリーダーシップにも今年度から着目。 受賞した物流システムのダイフクは、2018年に指名諮問委員会による検討を経て就任した下代博社長が主導して執行部を編成し、リーダーの交代を明確にしたことなどが評価された。 経済産業大臣賞の橘・フクシマ・咲江・審査委員長(G&Sグローバル・アドバイザーズ社長)は「真摯にステークホルダーに向き合っている」とし、「社外取締役との意思疎通や情報共有を行い、中長期的な視点に立ったグローバルな経営を行っている」とコメントした。

 昨年改訂した経営理念「モノを動かし、心を動かす。」をダイフクグループ全体で共有し、一体感を持った経営を図っています。その中で、経営幹部に求められる資質や経験、キャリアパスの要件など、再定義しているところです。 経営トップのサクセッションプランについても、社長一人で会社を運営する訳ではないので、執行役員も含めて、幅広い階層での後継者育成に向け、持続可能な体系づくりに取り組んでいます。 今回の受賞を励みに、経営基盤をさらに強化し、透明性の高いグローバル経営を推進してまいります。

 コーポレートガバナンスに加え、環境対応、女性活躍推進などESG活動に積極的な企業を表彰する東京都知事賞に選ばれたエーザイは、医薬品メーカーとして患者とその家族に寄り添った経営を実践。 さらに企業や団体が持続的な成長の実現に自発的に取り組む国連グローバル・コンパクトに署名しているほか、女性管理職比率の数値目標を掲げるなどして、ESGを推進している。 東京都の児玉英一郎・政策企画局国際金融都市戦略担当局長は「東京が都市として成長していくにはエーザイのようなESGの実践を通じて企業価値の向上に取り組む企業が増えていくことが不可欠」と話した。

 当社はこの30年余り理念経営の実践に取り組んでおります。その企業理念「患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する」を定款に定め、ステークホルダーの皆様と共有しています。 理念経営を実践し、ヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業を具現化することでSDGsの達成に貢献でき、一層企業価値向上にも繋がると考えます。 この度は当社のESGに係る継続的な活動を評価いただき大変光栄であります。今後も理念経営の実践を通じて、ステークホルダーズと共に社会価値創造に貢献する所存です。

宮内義彦会長は語る

大切なのは形式より実質
日本取締役協会 宮内義彦会長

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021の受賞企業は、いずれも激しい世界市場での競争を戦い抜き、ガバナンス強化に取り組む日本企業の実力を存分に示している。 ただ、ガバナンスで成果を上げている日本企業はまだ少数にとどまり、新型コロナウイルス禍による混乱は、日本経済の長期的な停滞にさらなる重荷を加えている。 苦境に立つ日本経済は再生の道をたどることができるのか。長年にわたってガバナンスの重要性を説き続けてきた、日本取締役協会の宮内義彦会長(オリックスシニア・チェアマン)に話を聞いた。

ガバナンスが効いた経営体制ならば、次の波にも対応できる

――コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021では5つの企業が表彰された。どのような感想をお持ちですか

 「表彰企業はガバナンスの先頭をいく、いずれも素晴らしい会社です。グランドプライズカンパニー(大賞)の東京エレクトロンは(2015年に米アプライドマテリアルズとの統合契約を解約するという)困難な時期がありました。 それを乗り越えて、自分たちで事業展開することは大変な決断が必要だったと思います。 その中核にコーポレートガバナンスを据えたことで、決断が実り、つまり驚異的な収益率をもたらしました。半導体関連事業は経営環境の変化が激しいですが、ガバナンスがしっかりと効いた経営体制ならば、次の波にもしっかり対応できると思います」

――ガバナンス強化に取り組むためには何が一番大切なのでしょう

 「企業トップがガバナンスは重要だと気づくことです。組織が目的を達成するには執行部がしっかりしていなければなりませんから、執行部を監視する組織も必要になります」

――執行部をチェックする仕組みは業績にも良い影響をもたらしますか

 「ウィナーカンパニーのソニーグループは日本のガバナンス改革をけん引してきた会社。業績の変動はありましたが、相当な勢いで復活を遂げました。 私は業績が厳しい時期にソニーグループの社外取締役を務めましたが、当時から経営陣と社外取締役との間にはきちんとした緊張関係がありました。指名委員会などがうまく機能しており、取締役の選任方法にも客観性がありました」

――客観的な視点が経営を安定させるということでしょうか

 「ガバナンスの在り方について経営陣と監視する側は、互いにチェックしながらバランスをとるわけです。そういうものがないと組織はうまくいかないというのが鉄則です」

市場の圧力が企業を動かすべき

――執行部を監視する側の人材が足りないという問題はありそうです

 「確かに立派な監視機能を果たせる人材はまだ少ない。そうした人材の育成が必要ですし、監視役を引き受ける人の自覚も必要。 それともっと社外取締役に企業経営の経験者が入るべきです。東証はコーポレートガバナンス・コードで(4月の新市場区分、プライム市場上場会社に対して)社外取締役を3分の1以上と示しましたが、人数よりも内容が重要です」

――ソニーグループと同様に指名委員会等設置会社に移行した会社でも経営が混乱するケースがあります

 「大切なのは形式よりも実質。本来なら(株式)市場の圧力があるべきです。 この会社はガバナンスが整っていないので株を買わない、逆にガバナンスがしっかりしていて経営がおかしくならないだろうから株を買うとか。 本当は市場圧力が経営トップを動かすのですが、日本で圧力があったのは、物言う株主が出てきたときぐらいでした」

――近年は投資家が企業にESGへの取り組みを求める傾向も強まっています

 「企業の目指す方向性というのは、時とともに変化します。今はESGなど、いろんな要素が入ってきています。かなり複雑になってきましたが、ESGを新しい負担だと思わず、役割を果たすことで中長期的にプラスにするというのがあるべき姿です。 ウィナーカンパニーのピジョンは、ユニークな会社で、子供や育児全体にプラスになる事業を追求した結果、グローバルな会社になりました。投資家も経営に加えた、ボード3.0の日本での先駆けでもあります」

日本取締役協会は、経営者、専門家、 社外取締役、機関投資家など、経営に携わる人々が日本企業の成長を目的に集まる、日本で唯一の団体です。
企業経営に携わる人々が、 コーポレート・ガバナンス(企業統治)を 充実させることにより経営の効率化を図り、日本経済の持続的発展と豊かな社会の創造に寄与することを目的としています。
コーポレートガバナンスに関する提言、ガイドラインなどの発表を行うほか、各種規準設定主体や機関投資家への働きかけを行っております。
取締役会の実効性を上げる具体的な施策として、ガバナンスの担い手である経営者・取締役の相互研鑚、取締役人材の蓄積(データベース)、人材育成(経営幹部研修・社外取締役トレーニング)にも取り組んでいます。
また、協会活動の一環として、年3回(4,8,12月)、コーポレートガバナンスについての情報・知識を深めてもらうことを目的に雑誌「Corporate Governance」を発行しています。