永遠に続く文化祭の前夜
-起業に至る経緯を教えてください
中学時代のある日「日本を再生しろ」って電波が届いちゃった。バブルが弾けて日本がダメになる。これはマズイ、自分が大人になったときに、自由で豊かでなかったらば楽しくないでしょ。
電波は届いたものの、何をしたらいいのか分からない。政治家の選択肢も考えたけれど、歴史を紐解くと社会の大きな変革は、最初に民衆のニーズがあって後追いで政治が変わっていくプロセスが多いですよね。日本は民主主義・自由市場だからマーケットに新しいニーズを生み出せれば社会に大きな変化を与えることができる「マーケットから日本を変えていこう」と考えたんです。
そんなときに、雑誌に掲載されている日本企業の時価総額ランキング特集を見ていたらば、上位の企業は旧財閥系や免許事業、後はテクノロジー系の企業がパラパラ混ざっている感じで。考えましたね、例え入社しても会社に影響力を与えられるようになるのは、出世競争を勝ち抜いた末に50とか60歳になってから・・・それじゃー面白くないと。
さらに、調べていたら某大企業の社長が代々官僚出身の婿養子であることを発見して、そこで「東大に入って、官僚になって、社長令嬢と結婚して婿養子になって、体制側から日本を再生する」プランを思いついたんです。
でも、「逆玉の輿プラン」は辞めました。大学に受かって、ちょうど上京する直前くらいに「インターネット」に出会ったことで。
衝撃的でしたね。それまで、情報は管理されていて、テレビや新聞とか、ごく一部の人しか扱えなかった。でも、インターネットの登場で、全人類が情報を創り配信することができるようになる。大きな変革がくる、産業革命に次ぐ、第三の波[2]「情報革命」がくる。奇跡的でこんなロマンチックなことはないでしょ。今、自分は社会の変革期に生きている、企業に就職するよりも、自分たちで面白いことをやろうと決意しました。
そしてもうひとつは、高校一年の文化祭で創ったお化け屋敷の思い出。もう本気で創った。物理的な仕掛けやら演出やら企画して、板とかダンボールとかで仲間たちと手を動かして懸命に創った。それが、楽しくて楽しくて、しかも、創ったモノが周りからも褒められたりして、こんないいことはないって。
「好きな仲間と、あーでもないこーでもないと話し合い、考え手を動かし、創る」。 大人になっても、そういうプロセスで仕事をしたい。毎日、文化祭だったら、いや文化祭前夜かな、それが、ずーっと続けばいいと思った。
それで、仲間と一緒にいられる場所「チームラボ」を創りました。
キャナルシティ福岡で展示されている「願いのクリスタルツリー」もチームラボ の仕事だ。自分のスマホを使ってツリーに装飾を施すことができる。 (2013/12/25まで展示)
デジタルテクノロジーで文化を創っていく会社
-チームラボの成り立ちや仕事について教えてください。
チームラボは、名前のママ「仲間とともに新しいものを作る研究所」という意味。会社の登記は2000年の年末頃、大学の友人や中高の仲間と5人で起業して、本格的に仕事をはじたのは、2001年の3月頃かな。
「何をやろう」というよりも、これから始まる情報社会で、新しい社会、新しい領域でデジタルテクノロジーと文化的なことに貢献できたらいいな・・・って獏とした感じではじめました。
大学で確率・統計モデルを専攻していたこともあって、最初に手がけたのは「大量の情報をどう扱うか?」。今で言うビックデータをテーマにしたレコメンデーションエンジンソフトを開発していて、でもこれが売れなかった。時代的にも早すぎたし、大人の知り合いもいないし、営業マンもいなかったし。
やりたかった文化的なことも良く分からなくて、お金も無くて、個人レベルで出来ることと言えばデジタルを使ったアートでした。
でも、アートは1円にもならない。そして、ソフトも売れない(笑)
本当にお金がなくて、でも、オフィスの賃料8万円を稼がなきゃ追い出されちゃう。それで、友人づてで、ホームページの制作を請け負ったりしてましたね。最初、受託制作の仕事をするつもりはなかったんだけど、これが、やり始めてみたら楽しかったんですよ。何しろ、自分の全く知らない業界の人たちと一緒に何かをプランニングして解決していくプロセスが面白い。
仕事は口コミで広がっていって、お客様に評価されると気持ちよくて、しかもお金がもらえてチームで楽しいことが続けられる。やっているうちに知らない間に会社が大きくなってました。転機とかがあったわけではなく、徐々に徐々に仲間が増えて、仕事も増えてきて、今では、メンバーが300人くらいになり、文化的なことも大掛かりな取り組みができるようになってきましたね。
「秩序がなくともピースは成り立つ 」
チームラボが、「シンガポールビエンナーレ 2013」(2013年10月26日~2014年2月16日開催)に出展したアート作品。ホログラムに映し出された人々が、各々自立し楽器を奏でて踊る。全体をコントロールする指揮者的なモノは存在せず、各々は周囲の人々に反応をして振る舞いを変えていく。やがて、お互いが「引きこみ現象」 [3]を起こし、音楽に調和が生まれる。
強い個性が化学反応を起こして新しい味を創る
-「ウルトラテクノロジスト集団」と称していますが、その心は?
旨み成分が多いものが好きで「旨みオタク」なんですよ。旨みって混ぜ合わせると、旨みが数倍に強化される、トマトとか海鮮とか・・・。強い個性が化学反応を起こして、誰も知らない新しい味が出来上がる、でも、おいしい。周りから「猪子鍋」って言われてるんだけど、知らない味って楽しいじゃないですか。
チームラボのスタッフも、プログラマー、エンジニア、デザイナー、数学者、建築家、絵師、編集者、さまざまな旨みというかスキルを持っていて、化学反応を起こして、誰も見たこともない新しいものを創る。
「ウルトラテクノロジスト集団」とは、各々が高度な専門知識やスキルを持ちつつ、自ら手を動かす、そして、新しいものをチームで創ることができる。そういう集団っていう意味です。また、そうあり続けたいと思っています。
(後編に続く)
注釈
[2] 「第三の波」アメリカの未来学者アルビン・トフラーが1980年出版した書籍。本書の中でトフラーは、人類はこれまで大変革の波を二度経験してきており、第一の波は農業革命、第二の波は産業革命と呼ばれるものであり、これから第三の波として情報革命が押し寄せると唱えている。
[3]17世紀にC.ホイヘンスが発見した。異なる振動のリズムが、やがて、そろっていくこと。振動数の僅かに違う2つのメトロノームが、やがて同じ振動数で動いたり、近い距離にいる蛍が同時に発光したりする現象。
(産経デジタル 取材 文/舟木純 撮影/木山久男)
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