オープンイノベーションの手引き

ステップ(3)新規事業と既存事業、決裁ルートは同じでいいのか? (1/2ページ)

TOMORUBA
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 日本のイノベーション創出を促進しようと、経済産業省は、事業会社とスタートアップによる連携の手引きを取りまとめています。しかし、そのボリュームは膨大です。本連載は経産省の手引きをベースに、オープンイノベーション支援をおこなうeiicon company(エイコンカンパニー)代表の中村亜由子氏が、社外との事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすく解説するコラムです。業界の第一線に立ち、その課題と動向を熟知したプロがアドバイスします。

連携における失敗事例と乗り越え方 その2

 ここまでの話の中で、「オープンイノベーションが手段であること」は強調してきた。「手段」とは、目的を達成させるために、そのプロセスで用いる手法・方法・やり方を指す。オープンイノベーションが「イノベーション創出のためのひとつのやり方」である以上、それを「学ぶ」必要性がある。「学ぶものだ」と考えると必要なことが見えてくる。

  • 教えを乞えるのであれば、教えてもらうこと。(教えてもらえない場合でも調べ、読み解き学ぶこと。)
  • 専門用語は調べ、わかる言葉に翻訳し、理解をしておくこと。
  • 知ったことや学んだことを整理しておくこと。
  • 覚えやすくするため、理解しやすくするための工夫をすること。(自身の関連のある事柄にあてはめてみる、イラスト化してみるなど)
  • 実践者がいるならば観察すること。
  • やり方を把握したら、実践してみること。
  • 忘れないように記録しておくこと。

 1度よりも2度、2度よりも3度、こなしていくうちに習熟度もあがり、ポイントもわかり上手になっていくのだ。オープンイノベーションのステップは、構想・準備の「第一期」、組み手と会い共創をスタートする実践期である「第二期」、そのうえで所謂イノベーション期と言える、事業化・拡大の「第三期」に大きく分けることができる。

 実践が伴わない頭でっかちでは、なかなか物事は前に進まない。この三つのステップを繰り返すことで習熟度は増すのだが、学ばずにとりあえず「やってみる」と痛い目を見るのがオープンイノベーション。泳ぎ方や水に浮かぶ理屈を知らずに集団で海に飛び込むようなものだ。まずは水に触れながら、泳ぎ方を学び、理屈を理解したうえで練習をする。ある程度泳げるようになってからチャレンジする。

 “ある程度泳げるようになっているかどうか”が重要で、この状態までが実は構想・準備期だ。オープンイノベーションという手段で成果に結びつけられるかどうかはこの構想・準備期が80%を握っていると考えている。

新規事業開発とオープンイノベーション実践はリンクしている

 新規事業の推進の仕方と、オープンイノベーションの推進は実はリンクしている。

 オープンイノベーションという手段を用いることができれば、ビジネスモデル考案の段階からパートナーを得られ、実証も実際リソースを補完しあうことで、1社ではなかなか実現できないスピードで実践できる。

 事業拡大までのスピードも1社でやるよりも圧倒的に効率がよくインパクトも大きい、それがオープンイノベーションだ。「効率化」と「インパクト最大化」、この二つ効能こそが、オープンイノベーションが注目される理由である。

 新規事業開発の先にオープンイノベーションがあるのではなく、新規事業開発の初期設計段階に必要であればオープンイノベーションを組み込んでおく必要がある。

 様々な企業と話していて気づくのは、漠然とした「クローズドイノベーション」への執着だ。まず社内でやってみて、できなかったら社外のプレイヤーとの共創を考えたいというもの。たしかに自社のみでできないことでなければ、他者と組む必要性はない。

 しかし、「今経営陣では想定できないが、自社内社員から、飛び地の新規事業、経営陣があっと驚くような新規事業シーズがでてくるかもしれない…」というのは、これもこれでとても都合のよい淡い期待だ。「自分たちが想定していない」「アッと驚くような…」という類は外に求めるのもナンセンス。イノベーション創出≒新規事業創出の一手段であるからこそ、戦略策定はとても大切である。

  • 戦略の策定
  • オープンイノベーションという言葉を独り歩きさせないこと

 前回の解説でのポイントはこの2つである。

 戦略策定、オープンイノベーションという言葉の定義の確立に加え、新規事業創出を「効率化しインパクトを最大化するため」に必要なことは、社内の承認ル―トの事前整備だ。今日伝えたい失敗事例は、この「承認・決裁ルート」にまつわるものである。

既存事業とは全く異なる決裁ルートが必須

 既存事業とは既に守るべき顧客があり、その顧客に関係するものは、例えば「安全」でないといけないし「安心」でなければいけない。リスクは取るべきではない、それは当然だ。

 だが、新規事業においては既存事業同様のステップを踏ませることは実質、新規事業創出を止めることに等しい。新規事業創出において事前に必要なのは「予算の確保」だけではない。その事業を推進することに対する承認、そのパートナーと共創を進めるという事象に対する承認、外部に公開するということに対する承認、利用するツールに関する承認、セキュリティ基準、広報、人事・労務全てにおいて「承認」が必要なのが現在の既存決裁ルートであり、それらの既存ルートとは異なる決裁ルートの確保、裁量の確保、不測の事態が起こったときのための決裁者の明確化までが、事前に必要だ。

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