【社長を目指す方程式】キャリアアップも部下育成も、研修を凌ぐ最強の方法とは?!
【社長を目指す方程式】こんにちは、経営者JPの井上です。2019年は歴史の大きな節目の一年ですね。4月で平成は終わり、5月から新元号がスタート。“ポスト平成、新元号時代”は、人材側面で見て、いったいどのような時代となるか? 私が人材コンサルティングビジネスでミクロ、マクロ両面から人材ニーズの潮流を見ているところで感じているのは、一億総活躍ならぬ「一億総学習」時代に突入するということです。学習し続けるチカラこそが、ここから先の21世紀を勝ち抜くコアスキルとなるでしょう。
今回はそんな予兆の中で、ではいったい、SankeiBiz読者のミドル層の皆さんが、どのような学習、教育、人材開発を行っていけばよいのかについて見てみたいと思います。
人材育成に効く“プログラム”とは?
時代の変わり目。世はAI、ブロックチェーン、シェアリングエコノミー、サブスクリプション、IoT(モノのインターネット)、自動運転…あらゆる側面からおよそ全ての業種業態に渡って構造変革、事業モデルの地殻変動が起きています。従来型の仕事のやり方を続けているだけでは、明日からの業務に耐えうるとは到底言えない状況に。
経営者JP社にも、次の事業を創出するための事業開発責任者を採用したい、既存の体制(営業、マーケティング、管理部門…)を変革してくれる幹部を採用したいというご依頼が多く寄せられています。
「激変がずっと続く」時代に必要なのは、常に次の新しいあり方にキャッチアップできる学習力、スキルや専門性の習得能力です。前提として、これまでのやり方・スキル・専門知識に縛られたり固執したりしないアン・ラーニングの力も必要です。
今回の社長を目指す法則・方程式:
人材開発の「70:20:10の法則」
私の古巣、リクルートは、1960年の創業(設立1963年)以来、およそ60年に渡って「新規事業開発会社」と呼ばれ、その時々の新しい事業を産み出す(世の中の「不」を解消する)ことで活力ある組織、自社の成長を継続させてきました。2012年の分社化、ホールディングス化、2014年の上場を経て、更に成長を加速させ、日本の主要指標での企業ランキングの上位に常に入る企業となっていることから、改めてリクルートの事業成長の秘密、その起点となっている人材活用術・人材開発方法が注目されているようです。
「リクルート流」の人材育成の真意とは
私がリクルート出身、しかも人事部門にいたことがあるということで、昔から今に至るまで「リクルートの人材育成方法、教育プログラムを教えて欲しい」と言われ続けてきました。その際、いつもお答えしてきたことがあります。
それは、語弊を恐れずに言えば、「リクルートにあるのは、優れた教育プログラムなんかではありません。良い採用と、適切な場を与えることだけです」ということです。もちろん私が在籍した当時、それ以前から階層別の研修や各事業毎でのノウハウ・事例共有などのプログラムはありましたし、現在は洗練された最先端の教育研修プログラムも多数存在しています。
ただ、それでもなお、リクルートがどうして常に活力ある組織を保ち、事業を成長させ、新しいサービスやビジネスがその中から創出され続けるのかと言えば、教育研修にその源泉があるのではなく、「採用+場」の提供がOS(基本ソフト)となっているのです。
そしてこれはリクルートに限った話ではなく、その後、私は人材コンサルティング事業に20年近く携わってきましたが、業種や規模を問わず、活力ある人材・組織、そこから生み出される成長事業は、必ず「採用+場」から成り立っていることを目の当たりにしてきました。
今回の社長を目指す法則・方程式:
人材開発の「70:20:10の法則」
“経験7割、薫陶2割、研修1割”。
人材育成・人材開発は、研修で行うのではなく、場(実際の職場、現場)だって? そんなこと言われてもにわかに信じがたい、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、実はこれ、人材開発の研究調査からも導き出されているものなのです。
米国の人材開発研究機関であるロミンガー社の調査によれば、経営幹部として活躍するようになった人たちに「どのような出来事が役立ったか」について聞くと、「70%が経験、20%が薫陶、10%が研修」という結果であったそうです。
同社の共同創業者であるマイケル・M・ロンバルドとロバート・W・アイチンガーは1996年発刊の書籍『Career Architect Development Planner』の中で「70:20:10の法則」を提唱。個人の能力開発の70%は現場での業務遂行による直接学習(経験)によるもので、20%がロールモデルとなる人や、メンターからの学び、間接学習(薫陶)、10%がOff-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う訓練)、オフサイトでの研修によるという理論で、これは国や文化圏、あるいは産業や職種を超えてほぼ同じ数値に収斂されるそうです。
個人の成長にとって最も重要なことは、研修を実施することや上司や先輩から学ぶことをはるかに超えて、まずは自分自身が日々の現場で良い経験をすることなのです。
これもリクルートでよく使われていたフレーズで「仕事の報酬は仕事」というものがあります。今ではいろいろな企業でも使われているように思うこのフレーズ、自分の任された仕事を一所懸命にやり成果を出せば、その次により大きな仕事を任せてもらえる。いまどきの世相、仕事価値観では「いやいや、そんなに仕事で負荷かけてもらいたくないっす」という感じかもしれませんが(苦笑)、成長志向のコア人材、リーダー人材として成長していく人には共通の姿勢だと思います。
更にはご存知の方もおそらく多い、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ。」。リクルート事件が起こるまでのリクルートの社訓で、私もですが、このフレーズを座右の銘にされている人はリクルートOBのみならず、起業家の方などに非常に多く存在します。これこそまさに、自分自身の手で自分がチャレンジしたい場を手に入れ、そこでチャレンジし、成果を出すことで自分を成長させよ、ということを言っています。まさに、場、経験オリエンテッドなアプローチですよね。
今回の社長を目指す法則・方程式:
人材開発の「70:20:10の法則」
物事には順番がある。
「採用+場、経験」と言いました。では、研修は必要ないのかと言えば、そんなことはありません。先の通り、研修1割、薫陶2割、必要な訳です。
私は、比率もですが、順番が非常に大事だと考えます。
まず、現場で実地の業務経験をする。そこで出てきた課題や悩みについて、ロールモデルとなる先輩に聞いたりやり方を真似してみたり上司に相談したり教えてもらったりする。更に業務習熟するために、あるいは業務体系を教えてもらったり整理したりするために研修プログラムに参加する。このサイクルをしっかり回し続けることが大事なのです。
組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」というものがあります。
「具体的経験をする」→「その経験について、内省的観察をする」→「内省によって導きだした教訓を抽象的概念や持論として昇華し一般化を試みる(抽象的概念化)」→「新たな状況でその抽象的概念や持論を積極的に試行する」
この4段階のサイクルをどんどん回し続けていく。そのことで経験から学び成長することができるのです。そのプロセス上、「内省的観察」のフェーズから「抽象的概念化」のフェーズにおいて、自分ひとりで考え尽くすことには限界もありますから、「薫陶」と「研修」の力を積極的に借りるのは得策と言えるでしょう。いや、そうというよりも、この段階で「薫陶」と「研修」(研修、には読書などの自己学習も含まれます)を徹底的に受ける人、やれる人こそが、一皮むけて成長する人です。
一方で、現場体験に紐付かない学び(研修)は、無駄とは言いませんが、自己啓発以上の何かをあなたのキャリアに刻み込んでくれるものではないこともまた、この一連のプロセスからお判りいただけるのではないかと思います。
さて、あなたは「良い業務体験」をできる場を獲得しているでしょうか。あるいは上司や経営者であるあなたは、部下たちに「良い業務体験」させる場を与えているでしょうか。「良い業務体験」とは、それまでとは違う業務体験、それまでよりも負荷のかかる体験、そして修羅場体験を指します。
まず何よりも7割の実地体験(「良い業務体験」)をしており、そこに2割のアドバイスと1割のオフサイト学習を(会社で、個人で)アドオンしている人。社長に向かって成長し続けることのできる人は、世代を超えてこの、経験の場に飛び込み「実地学習」を繰り返し、そこでの気づきや悩みについて徹底的に学び解決することにチャレンジしている人なのです。
【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
経営者JPが運営する会員制プラットフォームKEIEISHA TERRACEのサイトはこちら。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。
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