【ビジネストラブル撃退道】どう伝えればいい? デリケートだけど切実なビジネスの「スメハラ問題」
下手をすれば「差別」と言われかねないものの、職場でとにかく困るのが「臭う人」(におうひと)への指摘の仕方である。(中川淳一郎)
先天的なものでどうしようもない場合は、周囲がむしろ寛大な心を持ち、我慢する必要もあるかと思う。だが、「香水をつけ過ぎる」「風呂に入っていない」「洗濯をしていない服を着続けている」「ヘビースモーカー過ぎてニオイが体から取れない」についてはなんとか指摘をしたいものである。また、体の問題ではあるものの「口臭がひどい」「ワキガがひどい」も改善は可能なため、同様に指摘をしたいものだ。最近は、本人が気づかないうちにニオイで不快な思いをさせる「スメハラ(スメルハラスメントの略)」という言葉も耳にする機会が多いのだ。
ニオイというものは、人の尊厳にかかわることなので、改善をしてもらうにしてもデリケートな問題を孕んでいる。しかも、当人はそのニオイに気付いていない場合が往々にしてあるのだ。過去に「臭う人」に困った経験を持つ人々から聞いた話や、自分自身が遭遇した件では、以下のようなケースでそれぞれ異なる対応というのが適切なのだろう。
【1】今日だけしか会わないことが分かっている相手
【2】毎日ではないが、定期的に会う相手
【3】毎日顔を突き合わせる相手
【1】については、話は早い。ある時、猛烈なワキガの人と一緒に打ち合わせをした。もう秋になっていたのだが、とにかくニオイがするのである。この場合はとにかく「もうどうせこの人とは会わないんだから」とその1時間を耐えるしかない。
ヘタに指摘をして恨みを買い、渡した名刺を元に非通知設定での無言電話をされたりピザの出前を送り付けられても困るだけである。
【2】についてだが、定例会議や、かつて私がやっていた雑誌業界の「入稿」のタイミングなどがそれにあたる。「入稿」のタイミングになると、校正や校閲の担当者やデザイナーがやってきて、同じ執務室で長時間の仕事をすることとなる。彼らは外部からやってくるのだが、「入稿」作業を行う2~3日、彼を受け入れる編集部は「またAさんが来るよ…」となってしまう。
実は、Aさんのニオイについては、何カ月も誰も口にできないことが多い。複数人来た場合、誰がニオイの元なのかが分からないこともあるし、もしかしたら自分の鼻だけがおかしいのかもしれないと考えるからだ。Aさんだと目星をつけたとしても、Aさんの隣でいつも作業をしているBさんは平然としているため、Aさんだと特定するのは憚られる。そして、ある時、同僚と酒を飲んでいる時など、こんな会話になる。
自分:あぁ…。明日からまた入稿作業ですね。いやぁ~、ちょっとお二人に伺いたいことがあるのですが…。非常に言いにくいことなんですが…。
同僚X:もしかしたらオレも同じことを考えているかもしれない。
同僚Y:多分、私もそうかもしれません。
自分:いや、Aさんのニオイの件なのですが…。
X&Y:そう! それ!(と声を合わせる)
X:いやぁ~、そう思っていたの、オレだけじゃなかったか!
自分:安心しました、私、自分の鼻がおかしいのかと思っていましたが、XさんもYさんも同じことを考えていたんですね!
Y:私もこれまで言い出せなくて…。
X:Aさん、あれ、どう考えても風呂に入っていないうえに、あのジーンズ、この何年も洗っていないですよね…。
自分:あの色、完全にそうですよ! 何年モノなのでしょうか。
Y:いや、すごいビンテージものなのかもしれないので、指摘もできず…。
全員:はぁ…(とため息をつく)。
こうなった場合、Aさんがいかに臭いかが酒の肴となっていくのだが、「どうすればいいんだろうね…」と最後はなってしまい、互いの思いが同じだったことが確認できただけで、そこからの3日はAさんのニオイを皆で共有することになる。
1カ月のうち、わずか2~3日だけの話なので我慢すればいいかと思うかもしれないが、【1】の「その1回こっきり」とは異なり、その日は毎月やってくる。しかも、Aさんが来る日というのは、まさに根性を入れてチーム作業で頑張る作業日のため別の場所に行くことはできない。そんな大事な日であるにもかかわらず、Aさんのニオイを嗅ぐ日でもあるため、数日前から憂鬱になってしまう。
かといって、Aさんはあくまでも外部の人のため、「臭いですよ」とは言うことはできない。「上司の誰か、伝えてくれ~」と心の中で思うが、実はこれが最適解なのである。もしも、Aさんが会社に所属をしているのであれば、受け入れる側の責任者から相手の責任者にこう伝えてもらうしかない。
「たいへん言いにくいことなのですが、おたくのAさんのニオイのことで、ウチの人間が困っておりまして…。あのぉ、難しいかとは思いますが、なんとかAさんにそこのところを改善するようお伝えいただけませんでしょうか」
さすがに外部の人間に迷惑をかけていると考えた先方の責任者はなんとか伝えることだろうとの期待は持てる。そこはもう任せるしかない。同じ社内の人間であった場合は、とにかく上司に伝えるしかない。その時はAさんにも申し訳ないし、Aさんにイヤなことを伝えなくてはいけないあなた(上司)にも申し訳ない、という苦悶の表情を浮かべ、意思を伝えるしかない。
さて、最も難しいのが【3】のケースである。同じ部署にAさんのような人間がいた場合はどうするか。この場合は、上記【2】のケースで「たいへん言いにくいのですが、おたくのAさん…」と切り出された「先方の責任者」が取るべき対応となる。以下、実際にあった話なのだが、この「先方の責任者」を「山田さん」と呼ぶことにする。AさんはAさんのままだ。
山田さんは「そんなこと言われてもどうAに言えばいいんだよ…」と頭を悩ませる。実は山田さんもAさんのことは気付いていたし、他の部下も知っていた。だが、「Aを傷つけるかな…」と思い、これまで問題の先送りをしてきた。
こうした時、もっとも話を切り出しやすいのは、たまたま何も事情を知らぬ別部署の人間や来客が天真爛漫に「なんかこの辺、臭くありませんか?」とつぶやいたりしたときである。もしもそんなことがあり、Aさんが少しでも反応をした場合は伝える良い機会となる。
「Aさん、あなたの仕事ぶりには何も問題がないのだが、最近外部の人からAさんのニオイを何とかしてくれ、と言われてしまった。申し訳ない! 先ほどつぶやいた人も悪気はなかったと思うのだが、改善をしなくてはいけないのだと私も思っている。大変失礼なことを言ってすまないが、ひとつどうだろう、お風呂に毎日入ったり、頻繁に洗濯をしてもらえないだろうか…」
こう丁寧に、そして申し訳なさそうに、しかし仕事能力は高い、といったことを伝える必要があるだろう。Aさんになるべく恥をかかせないためにも、Aさんとの会話が周囲に聞こえないようにも配慮したい。正直この問題には明確な正解はない。「山田さん」になった場合は、誰もが傷つかないよう最大限の配慮をしつつ、なんとか問題を解決したいところである。なお、【3】のケースで天真爛漫にニオイを指摘した闖入者は、その部署にとっては「救い神」のようなケースになるものである。
なお、このAさん的な人物と同僚だった人物(エラい立場ではない)によると、「Aさんがいるであろう日中は外回りを積極的にする」「マスクをする」「やたらと窓を開ける」といった行動をし、少しでも気付いてもらいたいと考えたようだが、結局Aさん的な人は気付かず転職したのだという。
【プロフィール】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。
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