元受付嬢CEOの視線

プレゼン資料作りの極意 「小技」と「バランス」で苦手意識を克服する

橋本真里子
橋本真里子

 前回は、プレゼンテーションにおける「話す」技術について書きました。そして今回は、「話す」と同じくらい大切な「資料」についてお話ししたいと思います。

起業するまでプレゼンとは縁がなかった橋本真里子さん。いまでは様々なピッチ大会で登壇する。ピッチとは、スタートアップ企業などが資金獲得などのために行う短いプレゼンを指す(本人提供)
ピッチ大会で自社事業を売り込む橋本さん。ピッチ大会ではプレゼン技術も審査対象になる。審査員は、投資家をはじめ、支援企業や主催企業の代表者などが務めるという(本人提供)
イメージとインターフェース画面を効果的に組み合わせた画像で自社サービスを説明する橋本さん(左)。聴衆の視界に入る文字情報は減らし、プレゼンターの言葉に耳を傾けてもらう(本人提供)
初めてのピッチ大会出場を前に専門家が作成したプレゼン資料を入念にチェックする橋本さん(左)。資料作りに長けている同社COOの真弓貴博さんの力を借りることも多いという(本人提供)

 資料作りについても私は「ド」がつく素人。どれくらい素人かというと、起業するまでプレゼンテーションソフトである「パワーポイント(Microsoft PowerPoint)」に触れたこともありませんでしたし、パワポが何をするためのツールなのかも答えられなかったほどです(笑) プレゼンする機会がなければ、資料を作るという機会がない。当たり前といえば当たり前ですよね。

 では、ド素人の私がどのようにプレゼン資料を作り上げてきたのかについて触れつつ、プレゼンを引き立てる資料作りのコツをお伝えできればと思います。

「小技」を盗む 一度はプロの力に頼るべき理由

 苦手なことは得意な人にお願いする。これは今までも私が何度もお伝えしていることです。資料作りにおいても同じことが言えます。しかし今回はお願いするのは「社内にいるパワポが得意な人」というお話ではありません。一度はプロにお願いしたほうがいいというお話です。

 人生で初めて500人の前でプレゼンすることが決まった瞬間、私は資料作りのスペシャリストに会いに行きました。彼らは、自社事業を投資家にアピールするピッチ大会などの資料作りを手がける専門家たちでした。

 最初からプロにお願いしようと思った理由は2つあります。

  • 一度外部の人に入ってもらい、私たちのプロダクトの魅力を客観視した上でストーリーを一緒に考えてもらいたかった
  • きちんと作られた資料があれば、今後に生かすことができる

 たとえば、上場企業が使う決算発表の資料。これの出来が株価に大きな影響を与えるといいます。それほどに、資料が変われば、見る人・聞く人の印象を変えられるということです。本気でプレゼンと向き合う場合、一度プロに作ってもらうと自分が作る資料もブラッシュアップされます。どういう意図でこういうスライドを入れているのか。会場の広さや照明の暗さはどのくらいか。そこまで考え、資料全体のトーンや文字の色味、大きさまで計算する必要があります。こうした“小技”を入れるだけで、聴衆の聞く意欲を向上させることができることを学びました。このような戦略的な工夫はなかなか自分ひとりでは考えが及びませんでした。

プレゼン技術に見合った「バランス」がポイント

 プレゼンがうまい人というと、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。私がこれまで勤めてきた会社の代表も非常にプレゼン技術が優れていました。そんな彼らの資料は非常にシンプルです。ほとんど文字がありません。彼らは、資料がシンプルでもプレゼンで伝えたいことを自分の言葉で伝えることができるからです。これをプレゼン素人がやってしまうと大変です。緊張で話したいことが飛んでしまったら、資料にも情報がない…。結果的に何も伝わらないプレゼンで終わってしまいます。

 資料は、「自分のプレゼン力では足りない部分を資料でカバーする」といったことを考えながら作るとボリュームを抑えつつ、必要な情報が盛り込まれたバランスの良いものになると思います。基本的に、聴衆に資料を読ませるような構成にしてしまうと、人が話している内容は耳に入ってきません。

  • 視覚的に伝えたほうがわかりやすい数字などはグラフを使う
  • 機能やプロダクトの世界観など、資料に具体化して落とし込むことが難しい内容は言葉で説明する

 このようにうまくバランスをとると良いと思います。また、パワーポイントではアニメーションなどを使うことができます。こういった技術をうまく使い、自分のプレゼンに説得力を持たせるアクションを使うと効果的ですし、自分の自信にもつながります。

“パワポ歴”の浅い私が実践するスキルアップ方法

 現職に就くまでパワーポイントに触ったことのなかった私がスキルアップのために自分に課していることがあります。それはズバリ、プレゼンの機会を作り、その資料をパワーポイントを使って自分で作ることです。

 弊社では毎月月例会を行なっています。その最後に代表である私の小話コーナーがあります。ここで使う資料は基本的に私が作っています。使える機能が少なすぎて、よく表現すればシンプルです(笑) 反対の表現をするとお粗末…。そんな資料で私は毎月社員にプレゼンをしています。最初は恥ずかしくて、社内で誰かに手直ししてほしいな…なんて思っていました。しかし、今となっては少しずつですが、お粗末な資料をカバーするためにプレゼン力を磨こうと努力し、資料を少しでもアップグレードしようと毎回新しい機能を取り入るようにしています。

 こうして私は自分の中でプレゼン力と資料作りのスキルアップに相乗効果のようなものを持たせられるようになりました。どんなことでも自分でやってみないと上達しない。資料作りもそうだと思います。自分自身で見ると「お粗末な資料で恥ずかしい」と思っていても、プレゼンを聞いている人は意外と「シンプルで見やすいな」と思ってくれたりするものです。恥ずかしがらずに、自分で話したい内容を考え、ストーリーを作り、資料に落とし込む。これをやるとおのずと語りかけるような話し方になってきます。話すストーリーや資料を他人が考えて作ったものだと、それは単なる「台本」になってしまうのです。

 プレゼンは人前で行うものです。ついつい自分を大きく見せたくなります。しかしいきなり上級者を目指すことや、そう繕うことは逆効果です。上手に話そうとする必要はない。たいそうな資料を準備することはない。自分の考えを自分の言葉で伝える。これが良いプレゼンに近づく極意だと思います。

 みなさんの身近にもプレゼン上達のためにできることがあるはずです。まずはひとつずつ始めてみてください。苦手なものが多いより、好きなもの・得意なものが増えたほうが人生は豊かになると思います。

橋本真里子(はしもと・まりこ) ディライテッド株式会社代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら