【社長を目指す方程式】決める、そして動かす… 橋下徹氏が貫く、リーダーに必須の「実行力」

 
橋下徹氏から学ぶ「比較優位」の思考(写真・産経新聞)

 こんにちは、経営者JPの井上です。社長になる人に求められるものは、何といっても「ものごとを動かす力」です。ものごとを動かす力のあるリーダーのひとりとして私が長らく注目し続けている方のおひとりに、橋下徹さんがいます。その明快さやダイナミックさゆえにか、炎上などもよくされてはいますが、私は彼の動き方は本当に素晴らしいと思っています。橋下さんのものごとの決め方、実行力には、社長を目指す皆さんにとっても非常に参考になる部分が多いので、今回はそこに着目してみたいと思います。

 3つの案から、最もましなものを選択する

 38歳で大阪府知事、42歳で大阪市長となり、「大阪維新の会」「日本維新の会」「維新の党」「おおさか維新の会」を旗揚げ、代表を歴任。大阪都構想などダイナミックな政治活動を展開してきました。大阪都構想の住民投票で敗北し2015年12月に政界を引退されましたが、大阪府知事出馬前の“茶髪タレント弁護士”のイメージが一掃される風格ある政治家としての活動、存在感を築き上げたのは凄いなと拝見してきました。

 そんな橋下さんの近著『実行力 結果を出す「仕組み」の作り方』(PHP新書)で、橋下さんは明確に「僕がリーダーとしてこだわってきたことは『実行力』です」と言い切っています。全ての行動が「いかに実現、実行するか」に貫かれ、具体的であるところは、上司の皆さんが参考にしていただけるものが非常に多くあると思います。

 橋下さんは府知事・市長時代、部下の職員たちには常々、「案を出すときには、3つ出して欲しい」と言っていたそうです。

 最善と考える案、その対極の案、中間のマイルドな案の3パターンをいつも考えさせ持って来させていたとのこと。

 「1つの案を持ってきて、メリット、デメリットを説明されても、その優位性が分かりません。1案でなく、その対極にある案、中間の案の3案を用意して、それぞれのメリット・デメリットを比較して説明してくれれば、判断しやすくなります。僕が案を検討するときに重視したのは、『比較優位』という考え方です。A案、B案、C案を比較して、B案が比較優位であるならば、B案のデメリットには目をつぶる、という考え方です。簡単に言えば、一番ましな案を選ぶということです。」(『実行力 結果を出す「仕組み」の作り方』)

 政治の世界のみならず、ビジネスにおいても、「あれがダメだ、あそこが問題だ」とデメリットや問題点ばかりを指摘する評論家・コメンテータータイプが存在しますが、およそあらゆる事業やサービス・商品は、「より良い案、より良いやり方」でどんどん上梓し常に改善改革を継続していくことでこそ、完成・成功していくものです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

橋下 徹氏「比較優位思考」

 もちろん致命的な欠陥を排除していることや最低限以上の完成度はなければダメですが、一方で「パーフェクト」ばかりを追っていたら、いつまで経ってもローンチできず、先に競合に先行されたりもするでしょう。そもそも100%などということ自体がなかなかありえませんしね。

 「比較する」ことで前向き・解決型リーダーになる

 橋下さんがここで3案のパターンを決めており、その比較の中で「最もましな案」を選ぶというルールを設定していることが秀逸です。

 代替案があることで、漠然となんとなく1案について検討するのではなく、しっかり論点比較できます。部下に考え抜いてもらった3案の比較で一番優れた案で決裁することで、部下も上司としても「最善策を選び、決定する」ことにスッキリ合意しやすいのです。

 「日本の教育では、比較優位の思考が教えられていないため、新しい案、1つの案の問題点だけをあげつらい、批判するという、偏った議論があちこちで見られます。複数の案がはっきりと示されていれば、比較優位の思考をしやすいのですが、問題は新しい案が1つだけ出されたときです。確かに案は1つであっても、それは現状に対する案なのですから、新しい案についてのみ問題点を検証するのではなく、あくまでも現状との対比で、どちらのほうが優位か、どちらのほうがましか、という判断をすべきなのです。」(同書)

 私たちは、目の前の1つの案についてメリット・デメリットの確認検討をして、ときに堂々巡りに陥ることがあります。

 そうではなく、新しい案と現状、自社の案と他社の類似・競合商品を比較検討したり、3案提出に習って、もう2案を策定し比較検討するのです。

 何かを決めるときに、「比較する」ということの重要性を、橋下さんは教えてくれます。私たちもすぐ導入できる決め方ですね。

 こうすることで、部下の案の問題点をあげつらうのではなく、よりましな方を評価し選ぶ、よりましな方の問題点には目を瞑るという、「前向きリーダー」になることができます。

 リーダーはダメ出し人間で終わらないこと。評論家・コメンテーター型上司は、真にデキる部下・同僚・経営者から実際問題、疎まれますし、何よりも企業の中の“非生産的人材”です。働き方改革、生産性向上がテーマの時代において、最も不要な人材ですね。

今回の社長を目指す法則・方程式:

橋下 徹氏「比較優位思考」

 橋下さんが考える、トップとしての仕事とは

 橋下さんが“経営者的”だなと感じる思考・行動がいくつかありますので、合わせてご紹介します。

 ・リーダーの仕事は「部下が気づいていない課題を見つけること」「部下ができないことを実行すること」

 「現場における実務上の問題点というものは、探せば山ほど出てきます。細かい問題点を指摘し始めたら切りがありません。実務的な問題の解決は現場に任せればいいのです。やはり、それよりも現場が気づいていない大きな問題点を探り出して、それについて現場ときちんと話し合いながら、最後は決断・判断・決定をしていくことがリーダーの役目です。」(同書)

 部下が気づいていない課題、現場が気づいていない大きな問題点を見つけるために、トップ(になる人)はたゆまぬ勉強が欠かせない。1つのやり方として橋下さんは、毎日、主要な新聞5紙などを読み、様々なニュースに対して「自分はこう考える」という持論を頭の中で構築する作業をしているそうです。

 このトレーニングはいいですね。確かに世の中の出来事・物事について自分なりの捉え方と解釈ができることが、社長になる人の必須要件の1つであると私も思います。

 ・トップは「全体最適」を考える。「部分最適」案は採用しない(されない)

 「僕が部下からの話を聞いていて『これはちょっと採用できないな』と思うのは、『部分最適』の案です。案を出している部長は、最適の案だと思って出してくるのですが、自分の部署・部門・領域にとっての最適の案にすぎないということがよくありました。つまり部分最適です。」(同書)

 これも一般企業でも非常によく見る光景ですね。組織の中にいれば、自分の部署とせいぜいその隣接部署くらいしか視界に入っていないのが普通といえば普通です。上司やトップに案をあげる際には、相手の視界を想像してみることです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

橋下 徹氏「比較優位思考」

 「仕事というのは、いかに想像力を働かせられるかが、出来不出来を決めます。『上司はどう見ているだろう』『トップはどう見ているだろう』『お客さんはどう見ているだろう』という想像力のない人は、いい仕事ができるようにはなりません。」(同書)

 一つのやり方として橋下さんは、他部門・他業界の情報を集めて(関連する人に話を聞くなど)、「トップの視界」になんとか近づこうと意識することを挙げています。相当意識しない限り、「自分の周囲での視界」でしか物事を通常考えないものだという自覚を持つことは大事です。

 ・「ビジョン作り」と「チーム作り」は、ソフトとハードのワンセット

 「企業がコンサルタントを入れて提案書を出させてもうまくいかないのは、彼ら彼女らのレポートには、ハード、つまり組織体制の部分が抜け落ちているからです。目指すべき方向性や戦略(ソフト)は書いてあるのかもしれませんが、それを実行するための組織はどうあるべきかについての考察が抜けていることが多いのです。」(同書)

 リーダーは、コンサルタントとは違い、実際に人と組織を動かし、物事を実行しなければなりません。

 つまり、リーダーの役割は、ビジョンを示し、さらにそれを実行するための組織体制を作ることです。ビジョンと組織づくりはワンセットだと橋下さんは、大阪府庁、大阪市役所という巨大組織を実際に動かした経験から実感されています。

 「具体的な論理に基づく現実的な実行プランがなければ、学生の夢物語のようになってしまいます。そんなときには『まず案をもっと固めてください』と言うしかありません。逆に、理屈や論理一辺倒の比較優位論ばかりでも、『心』は動かされません。つまり、理屈としての比較優位論と感情としての熱い思いの両者が必要です。」(同書)

 私たち企業人も、会社の未来、社会にどう貢献・役立っていくのか、日本を、世界を変えていくのかを熱く語りながら、その提案を比較優位の論理できちんと説得、実現していく-。

 通る提案は「比較優位のロジック」と「熱い想い」の合わせ技。この2つであなたも、御社の中で「維新」を巻き起こそうではありませんか!

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)

株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO

1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら