【ローカリゼーションマップ】ベゾスを招いたブルネッロ・クチネッリ シリコンバレー長者と語ったこと

 
ソロメオで行われたシリコンバレーの経営トップたちとのミーティング(Brunello Cucinelliのインスタグラムより)

 先月末、インスタグラムでフォローしているブルネッロ・クチネッリの投稿に、本社のあるウンブリア州ソロメオにシリコンバレーの友人たちを招待したとの写真があった。これまでも彼がシリコンバレーに出かけて話している様子を見ていたが、投稿の文章をちゃんとは読んでいなかった。

 しばらく日がたち、フェイスブックのタイムラインにイタリアの経済紙「イル・ソーレ・24オーレ」の「ベゾスやシリコンバレーのCEOがクチネッリの招待でソロメオに」というタイトルのニュースが目に入ってきた。

 シリコンバレーのスタートアップの若者と交流して、彼らを元気づけているとなんとなく思い込んでいたぼくは、アマゾンの創立者の名前をみて「あっ、この動きを見逃していた!」と気づいた。

 ブルネッロ・クチネッリについては、この連載で何度か紹介してきた。1970年代後半創立のファッションメーカーで、ミラノ株式市場に上場している中堅企業である。ブランド価値がエルメスと同等と評価されるラグジュアリーブランドだ。

 創立者のクチネッリは、人の尊厳を大切にすることを経営の基本哲学として、地域のひとたちとのコミュニティーを殊の外大切にする。だからイタリア中部のウンブリア州都であるペルージャから車で1時間程度離れた、ソロメオの地の風景と人々との生活を第一に考える。

 その「地方の村」でクチネッリ自身が「魂と経済のシンポジウム」と形容する集まりを開催し、そこに米国の先端企業のトップたちを呼んだというのだ。

 参加者はベゾスの他、ツイッター、リンクトイン、ドロップボックスなどの現役トップかトップを務めた人たちである。写真にはおよそ15人がいる。タイトルは「3千年世紀の若きレオナルドたち」であり、今年がレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年であることを意識しているのだろう。

 私的な集まりであるため、プレスリリースなどは用意されていなかった。クチネッリのインスタグラムでの投稿から推察すると、彼が常日ごろから唱えている「経済的な目的のためだけに、人は生きているのではない」ということに加え、将来、テクノロジーと人間が幸福な関係を築いていくにはどうすれば良いかを語りあったようだ。

 最近話題になりやすいファッションとテクノロジーの融合というレベルではなく、経済活動とテクノロジーに関する哲学的な議論をしていたはずだ。

 今、シリコンバレーを中心としてテクノロジー系の企業活動が世界の人々の考え方に影響を与えているのは確かであり、他方、シリコンバレーの企業人の本を読むと、彼らが哲学的な問いに対して無関心でいられないと自覚していることが明らかだ。

 クチネッリはギリシャやローマ時代からの思想を語る、哲学的思索を重視する経営者である。コレクションのコンセプトにルネサンス時代のエラスムス(オランダ出身の人文主義者)を重ねる人だ。

 シリコンバレーの経営者たちがクチネッリの招待を受けた理由を考えるのは、さほど難しいことではない。それなのにぼく自身、このような集まりがソロメオで行われるだろうと想定しながら、彼の動向をフォローしていなかった。

 単純にいえば、それほどにソロメオは辺鄙なところにある。当然ながら、クチネッリのプライベートジェットで彼らを近くのペルージャの空港まで連れてくるか、彼ら自身のプライベートジェットを使えば、距離はさほど問題ではない(実際、どうしたかは知らないが)。

 少なくても、ぼくがここで理解するのは、クチネッリは本気であるということだ。

「長い年数、それも何十年ではなく、何百年単位の年数で意味あること」を、2019年の今、忘却の彼方に追い込まずに「現在も生きる」ものとして尊重していく。彼はこの信条をもって自身のブランドをつくり、ソロメオやウンブリアに生活する人たちの人生に気を配ってきた。

 その一方で、大西洋を超えた国に住む、目まぐるしいスピードで覇権を奪い合うテクノロジー企業のリーダーに向かって、さらに深く語りかけざるを得ないと思うに至ったに違いない。

 現在、サスティナビリティーという言葉が多用される。「持続可能」とは何年単位のことを指しているのだろうか。環境問題を視野に入れているからといって、人々の頭のなかでは、せいぜい自分の子どもか孫の世代がどうか、というあたりが時間的スケールだと感じることが多い。それだと何百年にはならい。

 環境問題は重要なテーマであるが、それを考え続ける倫理が弱いとテーマに押しつぶされてしまう。環境問題はテクノロジーによって改善されることも多いが、テクノロジーを使う人の倫理が問われる。

 クチネッリは、ここにある陥穽が気になっているのではないだろうか。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。