こんにちは、経営者JPの井上です。4月に働き方改革関連法案が施行され3カ月。巷の話題はもっぱら働き方改革関連が占めるようになりました。
株式でも働き方関連銘柄に注目が集まり、働き方改革につながることを謳うHRテックサービスなども次から次へとリリースされていてCMなどをよく目にするようにもなっています。
一方では企業内での「残業削減」「有給取得促進」「テレワーク、サテライトオフィス」などの取り組み事例があちらこちらで取り上げられていますが、必ずしもバラ色の成功事例という訳ではなく、試行錯誤や悩み多き姿も報道され、どちらかといえばそちらに関心と共感が寄せられているようでもあります。
働き方改革はなんのためにあるのかと言えば、働く個人が多様な働き方を選択でき、その時々にやりがいを持って働ける状態の実現であり、企業にとってはそうした従業員の働き方を実現しながら労働生産性をUPさせることにあるのだと思います。
幸福な社員を増やすことで、売上・生産性UP、欠勤・退職者減
そもそも、本質的な生産性UPとは、社員がやる気に溢れ、成長し続け、活力ある組織からもたらされるものです(短期的には「オーバーワークさせる」「低賃金で働かせる」などの力技で生産性を上げる手がない訳ではありません。しかしこうしたことは継続性に欠け、倫理にももとり、いっとき上手くいったように見えても早晩続きません)。だからこそ昨今、経営者や人事が組織エンゲージメントなどを注視するようにもなっているのです。
そこで今回注目したいのが、慶應大学大学院の前野隆司教授の提唱している「幸福学」です。
今回の社長を目指す法則・方程式:
前野隆司教授「幸せを構成する4つの因子」
前野教授は、幸福度が高い従業員は、そうでない従業員よりも創造性が3倍高く、売上は37%高く、生産性は31%高くなるという研究結果を紹介しています(心理学者のソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)。また、幸福度の高い人は職場において良好な人間関係を構築しており、転職率・離職率・欠勤率はいずれも低いという研究データもあります。
前野教授は「幸せを構成する4つの因子」を明らかにし、これらを満たす状態が個々人が幸せに働いている状態であり、そうした従業員が一人でも多くなることで上記の通り、創造性や売上、生産性が向上し、欠勤者や退職者が減るのです。
「やってみよう!」が社員の自己実現と成長の種子となる
第1因子「やってみよう!」因子は、自己実現と成長を育む種子となります。
自分は自分なりのコンピテンシー(能力・強み)を活かせているか、社会の役に立っているか、目標に向かって努力・学習しているかなど、自分が成長し続けていることを実感することで幸せを感じることができる因子です。
- ■第1因子「やってみよう!」因子
- ・「私は有能である(コンピテンス)」
- ・「私は社会の要請に応えている(社会の要請)」
- ・「私のこれまでの人生は変化、学習、成長に満ちていた(個人的成長)」
- ・「今の自分は本当になりたかった自分である(自己実現)」
- (「企業版 幸福度測定のための質問」から。以下同様)
上司のあなたからして、部下のメンバーたちの第1因子を明らかにし、育むには、メンバー個々人に仕事やキャリアのテーマを明確に立てさせ、また自社のミッションやビジョンに共鳴させることが大事ですね。
もちろん目の前の業務、日々の職務についてもしっかり意義を理解させて、それを達成することにワクワクさせるような仕掛けを試みましょう。
今回の社長を目指す法則・方程式:
前野隆司教授「幸せを構成する4つの因子」
「ありがとう!」で絆ある職場風土を醸成
第2因子「ありがとう!」因子は、つながりとお互いへの感謝が、絆ある職場風土を醸成します。
誰かを喜ばせたり親切にすること、逆に自分が誰かから愛情を受けていると感じたり親切にされたりと、他者とのつながりによって幸せを感じることができる因子です。
- ■第2因子「ありがとう!」因子
- ・「人の喜ぶ顔が見たい(人を喜ばせる)」
- ・「私を大切に思ってくれる人たちがいる(愛情)」
- ・「私は、人生において感謝することがたくさんある(感謝)」
- ・「私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている(親切)」
最近はサンクスカードなど社内で褒め合う制度、ポイントシステムなどを導入する企業も見られます。表彰制度、表彰イベントなどもその一貫でしょう。
しかし、そもそもは、社員同士の心の通じ合いや信頼、期待が根底にあってこそのこと。採用時の見極めを含めて、価値観や人間性でのフィット感、ある面での同質性をしっかり担保するような人材戦略が欠かせないと私は考えています。
今回の社長を目指す法則・方程式:
前野隆司教授「幸せを構成する4つの因子」
「なんとかなる!」が挑戦や困難克服へと向かわせる
第3因子「なんとかなる!」因子は、前向きと楽観がチャレンジ風土で新しい事業や困難克服へとチームを向かわせます。
常にポジティブで楽観的であること。自分や他人を否定するのではなく受容することは、幸せであり続けるためにとても重要な要素です。自己肯定感が高ければ、たとえ困難な状況に直面したとしても、大丈夫、なんとかなるさ、と捉え行動することができます。
- ■第3因子「なんとかなる!」因子
- ・「私は物ごとが思い通りに行くと思う(楽観性)」
- ・「私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない(気持ちの切り替え)」
- ・「私は他者との近しい関係を維持することができる(積極的な他者関係)」
- ・「自分は人生で多くのことを達成してきた(自己受容)」
チャレンジする風土、前向きな失敗を歓迎する風土創りが、ますます大事になっています。また同時に、やりっぱなし、中途半端を許さない、「決めたことをやり切る」「粘り腰でやり続ける」「トライ&エラーをポジティブに繰り返し続ける」風土をあなたがチームに作れたとすれば、それこそが最強組織のDNAとなるのは間違いありません。
今回の社長を目指す法則・方程式:
前野隆司教授「幸せを構成する4つの因子」
「ありのままに!」で自分らしく働き、自律を促す
第4因子「ありのままに!」因子は、自律、自分らしく働く、ダイバーシティと個々の強さを確立します。
他の誰のためでもなく、「自分らしく」あるか、働けているか。心理学用語では「オーセンティシティ(本来感)」とも呼ばれ、自分と他者とを比べることなく、周囲を過度に気にせず、ありのままの自分を受け入れ、自分らしい人生を送る姿勢が、確かな幸せをもたらすのです。
- ■第4因子「ありのままに!」因子
- ・「私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない(社会的比較のなさ)」
- ・「私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない(制約の知覚のなさ)」
- ・「自分自身についての信念はあまり変化しない(自己概念の明確傾向)」
- ・「仕事上の判断を頻繁に切り替え過ぎない(最大効果の追求のなさ)」
これはかなり個々人が持つ性格・気質の側面に起因するのは事実です。EQの因子で言いますと「社会的自己意識(周囲から自分がどう見られているかを聞きする度合い)」が日本人は総じて高く(強く)、起業家やオーナー型の経営トップは非常に低い傾向があります。
農耕民族型の国民性を変えていくことはそう簡単なことではありませんが、自社や自組織において、最近流行りの「心理的安全性」を担保して、「ありのままの自分でやっていいんだよ」という環境を上司として醸成してあげられることが望ましいです。あるいは採用時に、この部分の自律性(独自性)や社会的自己意識の低い人材を積極的に採用するということで、第4因子の強い人(=このタイプは総じて第1因子・第3因子も高い傾向があります)の集団を形成するという手もあります。
いかがでしたでしょうか? 第1因子から第4因子まで、それぞれの4つについて「とてもそう思う 7点」「かなりそう思う 6点」「少しそう思う 5点」「どちらとも言えない 4点」「あまりそう思わない 3点」「ほとんどそう思わない 2点」「全くそう思わない 1点」をつけ、因子ごとに集計してみることで、ご自身の4つの因子スコアを簡易に知ることができます。ぜひやってみてください。
また、より詳しく知りたい、活用したいという方は、前野教授が主催する4つの因子のサイトがありますので(一般社団法人ウェルビーイングデザイン:4factors)、アクセスしてみてはいかがでしょう。
個の力を遺憾無く発揮させながら、チームとしての強さを築く。それが幸せで強い組織であり、事業成長をもたらす組織である。
そんな「幸せで強いチーム」を、ぜひ皆さんも創り上げていただければと思います。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら