今日から使えるロジカルシンキング

日本企業が陥りがちな“罠” モレを恐れるあまりダブってはいないか

苅野進

第6回 ダブりなく考える<基本>

 会議でもっと効率的に意思決定ができたら…。上司やクライアントをもっとスムーズに説得できたら…。仕事でこんなふうに思ったことはありませんか? この連載では、子供にロジカルシンキングを教える学習塾ロジムの主宰・苅野進が、SankeiBiz読者のみなさんに、ビジネスパーソンにとって重要なスキルであるロジカルシンキングの基本を伝えていきます。

 「モレなく」考えるに続いて、今回は「ダブりなく」考えるがテーマです。

 「モレなくダブりなく」は、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)の日本語訳で、ものごとの解決策を考える時に気にすべき基本的な作法です。考えモレとは、新規顧客のことだけを考えていて、既存顧客への対応を忘れていたなど考えるべき対象を見落とすことでフレームワークなどのチェックリストを活用して避けることができました。

 今回のテーマである「考えのダブり」とは、「実際には同じものであるにもかかわらず、別のものであるかのように捉えてしまうことで、二重に対応をしてしまう」ことです。よくあげられる例は顧客を「男性」「女性」「若者」と考えてそれぞれ別の施策を考えたときに、「若い男性」と「若い女性」について二重に対応してしまうといった事態のことです。

 分類のモレ・ダブりを確認するには、ベン図を活用するのが良いでしょう。「男性」「女性」「若者」の例をベン図に落とし込むと、このようになります。

ダブりに鈍感な日本企業

 この事態における問題点は、「非効率」ということです。「男性」へのプロモーションを考える部署と「若者」へのプロモーションを考える部署が併設されていた場合、「若い男性」へのプロモーションを別の担当者が連携なく対応していることになります。ちなみに筆者の自宅の近所の旅行代理店では「個人旅行」の窓口と「海外旅行」の窓口が別になっていて、それぞれ違ったプランを「オススメ!」として掲示してあります。個人で海外に行く私はいつも迷っています。

 こうした組織のダブりによる非効率に関して、日本企業の文化として非常に寛容というか鈍感です。各自が「考えモレ」を避けることを重視して、少しずつ対象を広げていくことでいつの間にか大きく重なっているということでしょう。そして、重なりに気付いたとしても「どちらが撤退するのか」の議論は後回しになりがちです。

 さらに、横のダブりだけでなく、縦のダブりも非常によく見られます。責任のダブりです。係長も課長も部長も少しずつ責任範囲がダブっています。そうすることであらゆることに対して、連帯責任という状況を発生させ、一人一人の責任を軽くしているという防御策であるといえるでしょう。

 若手のビジネスパーソンにとっては、組織の問題は気付いても、なかなか改善の方法も権限もないものです。また、ダブっていても、非効率という損害は経営者でもない限り鈍感になってしまうものです。

ダブったサービスが受け手のストレスに

 しかし、ビジネスの相手にとっては非常にストレスフルな状況になります。

 たとえば学習塾での例を紹介します。国語という部署と算数という部署があったとします。それぞれ生徒に対して「国語の力」と「算数の力」に対して責任を負っています。しかし、「国語の力」と「算数の力」という分け方はダブりがあります。例えば「文章の論理的な構成を理解する力」といったものです。にもかかわらず、国語の宿題と算数の宿題がそれぞれ課されているとどうでしょうか? 同じ目的の宿題が二重に課せられることになりますね。生徒や受講料を払っている保護者にとっても、非効率なサービスを受けることになってしまいます。

 読者のみなさんは顧客へのサービスの最前線に立っていることが多いと思います。そこでは「顧客はダブったサービスによって非効率という被害を受けていないか?」という視点を持ってみると良いでしょう。

 先ほどの学習塾の例で言えば、ほとんどの学習塾ではこのような非効率な状況によって生徒が過剰な宿題に疲弊しています。そこに気付いて、各科目の共通する部分を確認して、宿題を効率的にスリム化してあげることは非常大きな付加価値となります。

 例えば、スマホは、たくさんの持ち物が抱えていた機能のダブりを解消して小さなひとつの機器にまとめたという点で大きな価値がありました。

 ある企業では、社員の採用を外注しています。その外注先が

  • プランを提案してくる営業マン
  • 採用広告を作成する担当者
  • 応募者の管理をする担当者
  • 説明会の内容を管理する担当者

 など、次々と別の部署の人間を送り込んでくるのに辟易として契約を打ち切っていました。同じ説明を何度もさせられる非効率は、コスト意識の高い顧客にとっては受け入れ難いものです。すべてを一人の担当者が調整してくれるという企業にスイッチしてしまったのです。

 「ダブり」について教わる時には、「男性」「女性」「学生」ではダメだよねというなんとなく言葉遊びのような事例で終わってしまうことが多いものです。ぜひ「顧客の中のダブり」を見つけ出して、喜んでもらえる提案のタネにしてみてください。

 そして、将来的に偉くなった場合には組織のダブりの解消にも手をつけられるように覚えておいてくださいね。

 次回はこの「ダブりなく考える」スキルの応用演習にチャレンジしてみましょう。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら