【社長を目指す方程式】上司を悩ます「できる・できない部下」の扱い方 誰に期待し何を任せるか

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 こんにちは、経営者JPの井上です。上司としては、部下たちに適切に仕事を割り振り、部や課の目標達成をしたいもの。その際、できる上司、やりくり上手な上司ほど、できる部下に重要な仕事を任せ、やる気のある部下に多くを任せる。逆にできない部下にはリスクの少ない仕事、やる気のない部下にはあまり期待せず仕事を振らない、という心理が働きます。

 2つの認知バイアス

 このやり繰り戦術は、非常に人間心理の理にかなっており、組織・チームとしての成功確率を高めます(公平性意識の強い組織においてはその申し送りの仕方には最大限留意する必要がありますし、各人への動機付けやモチベーション管理は非常に重要ですが)。

 妥当な打ち手であり間違いはありません。ところがここに、落とし穴もあるのです。もしも部下たちが自分の自己認識にズレがある場合、それに基づき上司のあなたが判断を行なっていたとすると、任せかたを見誤ることも少なくないのです。

 今回は、「ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)」と「インポスター症候群(Impostor syndrome)」という、おそらく皆さんが聞き慣れない2つの認知バイアスをご紹介します。前者は「自分を過大評価する」バイアスで、後者は「自分を過小評価してしまう」バイアスです。

 過剰に意識高い系の部下には気をつけよ

 あなたの周りにも、これまで何人かいたのではないでしょうか? なぜ、そこまで自信を持てるのか?という同僚や部下、上司が(笑)。

 「まあ、このことに関しては、僕に勝る人間はいませんね」「ああ、次の提案ですか、なんの問題もありません。ちょろいもんですよ、●●部長を説き伏せて即決受注してきます」

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)」vs「インポスター症候群(Impostor syndrome)」

 各論薄く、しかし絶大な自信を持っている部下。このタイプは、危険です。最初は上司として、なんとも頼もしい部下だと期待し、受注の大きな期待ヨミに入れておいたら、結果は「いやー、今回はダメでした」。

 これがたまたま一度ならいいのですが、その後も「絶対行けます」「大丈夫です」と失注を繰り返す…。ヨミの甘さと能力の低さは比例しますが、自分の能力自体をそもそも過大に評価しがちなのは能力不足な人なのです。

 能力が低い人の特徴

 「ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)」とは、能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアスです。デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによって1999年に定義されました。なぜこのようなことが起こるのでしょう?

 ダニングとクルーガーが2012年に行なった「なぜ能力の低い人間は自身を素晴らしいと思い込むのか」という調査によれば、能力の低い人間は以下のような特徴があることが分かったそうです。

自身の能力が不足していることを認識できない

自身の能力の不十分さの程度を認識できない

他者の能力を正確に推定できない

 「井の中の蛙」と言いますが、自分の能力、実力についてフィードバックを受けていない(受けても聞いていない)。他者で自分より優れている人たちのことを知らない、情報収集していない、他者と自己を比較、位置付けることができていない。

 逆に力がある人ほど、このフィードバックを常に受ける、他の優れている人たちから学ぶ、自己と他者を正しく比較位置付けできることから、自分を過大評価することはないのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)」vs「インポスター症候群(Impostor syndrome)」

 やる気があり自信があるのは素晴らしいのですが、いざ任せてみると、やるやると言ってやれず、結果を出せず…。その状況にアラートを出すと、逆ギレする場合も少なくないのがこのタイプ。

 ある程度以上付き合いが長く深くなれば、上司のあなたに早晩ネタバレはする訳ですが、上司のあなたにも「正当性バイアス(これまで正しいと思ってきたことをそのまま正しいと思い続けたいという意識)」が働きますから、散々裏切られてきていても、「でも、本人は今度こそ頑張ると言っているし」と、懲りずにまた期待してしまうということが、非常に多く起こります(ほぼ確実に、次回もまた、期待は裏切られるのですが)。

 上司のあなたとしての「ダニング=クルーガー効果(Dunning- Kruger effect)」への防御策としては、部下のプレゼンテーションや雰囲気(オーラ?)に惑わされず、事実としての業務理解力や専門性、成果・実績をしっかりと、ある意味淡々と見て、その上で何をどこまで任せるのかの判断を行いましょう。

 自己評価低過ぎ部下を飼い殺すな

 逆に、こんな部下もいらっしゃると思います。

 「いえいえ、そんな大役、私には務まりません」「あんなに大きな案件、まだ私なんかには絶対に担当するのは無理です」

 日本人にはこちらのタイプの方が出現率的には非常に多いですね。特に女性社員には多いと思います。

 「インポスター症候群(Impostor syndrome)」とは、自分の力で何かを達成し、周囲から高く評価されても、自分にはそのような能力はない、評価されるに値しないと自己を過小評価してしまう傾向のことです。1978年に心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって命名されました。

 上司のあなたから見れば、非常に良い仕事をしてくれている。確実に次のレベルのプロジェクトを担える土台ができている。リーダーとして、マネジャーとしてそろそろステージアップして欲しい。充分にそのような期待ができると思えるのに、なぜか本人は及び腰。「いやいや、まだ無理です」。昇進昇格を断る。挙げ句の果てには、それが理由で退職を申し出てくる…(驚)。

 インポスター(impostor)は詐欺師、ペテン師を意味する英語で、「詐欺師症候群」と呼ばれることもあるそうです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)」vs「インポスター症候群(Impostor syndrome)」

 この症候群にある人たちは、客観的に見て能力があることは明らかであるにもかかわらず、自分は〈詐欺師〉であり、成功には値しないという考えを持つそうです。たとえ今、自分が何かで成功できていたとしても、それは単なる幸運やタイミングによるものか、あるいは実際より能力があると他人を信じ込ませているだけだと自己認識しています。インポスター症候群は、特に社会的に成功した女性に多いとする研究もあるそうです。

 なぜこうした思考に陥るかというと、

完璧主義

働き過ぎ

自分の成果に対する過小評価

失敗に対する恐れ

賞賛を認めない

 というような思考、行動、性格によるそうで、上司としてはこの辺りの本人の心の内を理解しておいてあげることが、非常に重要です。

 上司としては、部下にとても良いチャンスや役割を与えてあげているという意識がありますから、せっかくのオファーを辞退、断る部下には「なんでせっかくのこのような話を断るんだ!」とキレてしまうことも少なくないかと思います。

 が、ここは感情的にならず、評価や過去実績をしっかり、焦らずにじっくりと再認識させフォローすることで、この「尻込みがちな部下」に、確実性の高い質の高い仕事をさせることができる可能性が、ぐんと高まります。

 感情や性格に引きずられるな

 いかがでしたでしょうか、あなたの部下たちの中にも〈自己過大評価部下〉と〈自己過小評価部下〉の両方が混在している可能性は高いと思います。そして、中段で述べた通り、私たち上司自身にもバイアスがあります。

 部下たちの持つバイアス、自分自身が持っているバイアスを認識した上で、感情面や性格面に引きずられ過ぎた仕事の差配を避ける努力をしましょう。こうした意識と取り組みによってこそ、客観性の高い組織行動形成と、公平な評価・考課を浸透させることができるのです。何かと気働きばかりしなければならず大変ですが(それが上司という仕事だと覚悟しましょう)、粘っただけのリターンがあるのもまた事実。〈自己過大評価部下〉と〈自己過小評価部下〉の仕分け・再評価とコミュニケーション、ぜひ、取り組んでみてください。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)

株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO

1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら