社長を目指す方程式

大坂なおみを世界1位にしたコーチから学ぶ「スター社員」の育て方

井上和幸

 こんにちは、経営者JPの井上です。名経営者は名伯楽でもあります。優秀なリーダー達を育て輩出し続ける各界の経営者たち。そのスタイルは千差万別で、ミスミの三枝匡さんのようにご自身の中で体系化された経営の方法論を幹部達に徹底的に叩き込むプロ経営者育成もあれば、今やラーメン業界のレジェンドとなっている「ラーメン二郎」のような現場修行からの暖簾分けスタイル(店ごとに微妙に味が異なる、それをよしとしている)もあります。

 読者上司の皆さんも、自らが手塩に掛け、自身の手元からスーパースタープレーヤーを生み出したいのではないでしょうか。それは取りも直さず、自分が管轄する事業やチームを強くし、好業績に導く手立てでもある訳ですから。

 ではどうやってスーパースタープレーヤーを育てることができるのか? 今回は、大坂なおみを1年強で世界ランキング64位から1位へと一気に駆けあがらせたサーシャ・バイン氏に学んでみたいと思います。そのコーチ術を明かした『心を強くする』(飛鳥新社)は社長を目指す上司の皆さんが、自身のため、部下のために具体的に学び実践できるメンタルコーチング術の宝庫です。

 強いメンタルの土台の築き上げ方

 2017年12月に大坂なおみのコーチに就任。大躍進の2018年を経て、2019年2月に突然のコーチ契約解除。その後の大坂なおみが今ひとつ波に乗り切れない状況が続いていることが、サーシャのメンタルコーチング力はやはり凄かったのではないかという私たちの印象を強化しています。

 そんなサーシャが著した『心を強くする』を読むと、確かに彼が、絶対女王セリーナ・ウィリアムズらトップ選手のヒッティング・コーチを長年務めてきた経験から学び体系化したコーチング術には、非常に実践的かつ再現性のあるものがあると感じます。これは私たちビジネスの世界にいる者としても学び実践できることが非常に多くあると私は思いました。

今回の社長を目指す法則・方程式:

サーシャ・バイン「Strengthen Your Mind(心を強くする)」

 経営者と近い感覚

 まず本書の冒頭で紹介されるのが、

 「この世には自分の力では左右できないことがあるという事実を認める」

 ことが、強いメンタルを手に入れるために最も大事だという話。いきなり、ガツン!と衝撃を受けました。「まさに!」。

 私たちは日頃、いかに自分では直接どうしようもないことについてあれやこれやと悩み、不満を持ち、なんとかしたいと思い込んでいることか。

 サーシャは、テニスのコーチをしていて一番辛いのは、観客席で試合を観なければならないことで、ただ座っているだけで、担当選手に対して試合中、なんの手も足も出ないのがなんともやりきれないと言っています。

 これは経営者が社員たちに対して、あるいはマネジメント専任となった上司が部下たちに対して感じることと非常に近しい感覚だと思います。

 またテニスの試合にも、私たちのビジネスにも、相手(敵、競合)がいます。「どんな手で出てくるのだろう、どう対応しよう」-。あれやこれやと相手の出方を想像しては気を揉み続け、夜も寝付けない。

 戦略戦術を考えることは大事ですが、相手がどう考えどう行動に移そうとしているのか、そのこと自体をコントロールしたいと考えてしまうようなことはそもそもできないことで無駄なこと。

 「自分の力で左右できることには限りがある。他者の出方、能力について思い悩むのは時間の無駄。その事実を受け容れてしまえば、その場の感情に流されることもなく、集中力が途切れることもない」(『心を強くする』)

 「すべてが願い通りには進まない」と最初に諦めておくことで、平常心が保て、自分はただ自分がコントロール可能なことだけを考え行動すれば良いのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

サーシャ・バイン「Strengthen Your Mind(心を強くする)」

 サーシャが強いメンタルを手に入れるために、他に挙げていることを列挙しますと、

 「フォーカス×集中力」「完全主義を捨てる勇気」「自分のための100%の努力」「ルーティンの役割」「ゲンを担ぐ」「日頃からあえて面倒な方を選ぶ」「ごめんなさいをNGワードに」「疑問をもち、質問できる人ほど強い」「肉体を鍛えてしまえば、自ずとメンタルも強くなる」「のんびり、辛抱」「良い嫉妬、悪い嫉妬」

 など。いかなるときも揺るがない、前向きで、ある面攻撃的な気持ちを保つ状態のコントロールを選手に与えることをしていたのだということが分かりますね。

 トップクラスの勝利を手に入れるメンタリティー

 成功への道は、野望の階段でもある-。サーシャはそう言います。

 あるときサーシャは大坂なおみに聞きました。「女子トーナメントの参加者の中で、絶対にグランドスラムを獲るという自信を持っているプレーヤーは、何人くらいいると思う? トップテンの連中なんか、口ではみんな自分が勝つと公言するんだけど、本気でそう信じている連中って、どれくらいいるかな?」

 実際のところ、128名のトーナメント参加者中、心から自分の勝利を信じている者は数える程しかいないとサーシャは言います。

 4大大会に出てくるような選手たちであっても、大抵のプレーヤーは準々決勝、準決勝に辿り着けただけで十分満足。「このグランドスラムは私のもの」と必勝を期しているプレイヤープレーヤーはごく少ない、燃えるような野心、成功への渇望に胸を疼かせている者は本当に少ないのだと。

 これもまた、私たちビジネスの世界でも全く一緒ではないでしょうか。そこそこの仕事で良いと思っているのか、 大きなビジネスを成し遂げたいと思っているのか。何か業界を揺るがすインパクトを与えたい、ナンバーワンの事業や会社を創りたいという野心を抱いているのか。

今回の社長を目指す法則・方程式:

サーシャ・バイン「Strengthen Your Mind(心を強くする)」

 私はよく「当たり前の基準をあげよ」という話をするのですが、自分の中の基準値がそもそも低い人は並以下の仕事しかしませんし小さな結果しか出ません。抱いた目標以上のことを成し遂げるということは、基本的にあり得ないと、これまで様々な企業、事業、経営者を多く観てきて(もちろん自分事としても)そう痛感しています。

 「野心を抱いてこそ、成功はあなたのものになる。まず目標を設定し、その目標は必ず達成できると信じる。もちろん、計画を立てることは必要だろう。だが、必ず達成するという決意がなければ、手順も決められない。(中略)ある壮大な野心を抱いたら、一気に山頂を目指すのではなく、毎日小さな目標をこなして、それを積み重ねていくほうが現実的だ。(中略)テニスに限らない。企業の経営者であろうと、成績をあげたい学生であろうと、辛いのは毎日の日課をこなすことではないだろうか。その場合、小さな目標を丹念にこなすことを心がければ、大目標の達成に結びつく。一日一日、こなすべき目標を明確に頭に刻む。そして、一日の終わりに、今日なしとげたことに満足できるかどうか、自問する」(『心を強くする』)

 勝利への道に近道はない

 サーシャがトップクラスの勝利を手に入れるメンタルとして、他に挙げていることを列挙しますと、

 「ボディランゲージで自分の脳を騙せ」「失敗の味を味わっておくと本番で楽になる」「プレッシャーを感じたら、絶好調」「迷ったら絶対に自分ファーストでいい」「メンタルの成長を妨げる、依存性の罠に注意」「極限のストレスを消す初心」「自信は移ろいやすい。だから一瞬で最高レベルにもあげられる」「一度夢に描いたら、私は絶対に負けない。想像力を使って、あらゆる場面を解決済みにしておく」「ありとあらゆる小さな勝利を、人生最後の勝利だと思って喜ぶ」「二番目に甘んじるのは、自分を大切にしない人」

 などで、大きな目標、野心を持ち、その上では逆に日々の継続的、習慣的な地道な取り組みの積み重ね、絶対に最終的にトップに立つのだという粘りこそがトップクラスの勝利への道。ショートカットなどない、と私たちに伝えてくれています。

今回の社長を目指す法則・方程式:

サーシャ・バイン「Strengthen Your Mind(心を強くする)」

 名誉と賞賛を笑い飛ばせ

 ナンバーワンになる。ビジネスの世界なら、営業などでトップになる、あるいはキャリアにおいてはやはり経営トップになる、などがそれに当たるのでしょうか。

 「たとえばテニスの世界ランク1位になったとする。世界一になった気分はどんなだろう、と人は思うに違いない。答えは、いや別に、だ。そう、何一つ変わらない。ナンバーワンになったところで、特に変わりはないのだ」(『心を強くする』)

 そうなのです、何も変わりません。だからこそ、何を目標にしてきたのかが、トップに立ったときに改めて問われるのです。

 地位やステータス、お金を目的にやってきたとすれば、トップに立ったときにその人はバーンアウトするでしょう。それ以上の目標も人生のテーマもないからです。

 サーシャは、「お金ではなく、好きなことに熱中する人ほどお金に好かれる」、「成功なんか、怖くない」とも言っています。全く共感します。

 名誉と賞賛を笑い飛ばせ、そうサーシャは言います。トップに立つと注目もされやっかみもされます。自分の自由も奪われる。見栄えに囚われているならば、トップに立つことは本人にとって恐怖ともなります。

 ナンバーワンになるとは、その分野の第一人者として素晴らしいプレーをし、世に何かを成し遂げ、貢献や良い影響を与え続けることです。そんなスタープレーヤーに、あなた自身がなっても良いですし、上司=名伯楽として部下を育て世に出せれば、それだけで十分、この世で何かを成したという礎になりますよね。ぜひ実現してください。

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井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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