ビジネスの「謝罪・お祝い」、何を持参する? 百貨店のプロに聞いてみた

 

 「クライアントへの謝罪」「取引先へのお祝い」「ちょっとした訪問時の手土産」--「何を持参すべきか?」と悩むビジネスパーソンは多いはず。西武池袋本店(東京都豊島区)にはお客のさまざまな相談に応じる「コンシェルジュ」がおり、これまで多くのビジネスパーソンにアドバイスをしてきた。プロが教える手土産の極意とは?

 贈り物に関する相談は多い

 西武池袋本店には店内に2カ所「コンシェルジュデスク」があり、洋服のコーディネート、ギフト選び、レストランの予約といった相談に応じている。相談件数の7~8割は贈り物に関するものだ。贈り物相談のうち、ビジネス用途のものは3割近くを占めるという。

 コンシェルジュを務めるのはどういった人物なのか。例えば、同店のコンシェルジュである加瀬紗絵さんは入社以来、紳士服やビジネス向け雑貨の販売に関わってきた。コンシェルジュには、食品販売の経験が長い社員などもおり、それぞれが培ってきた経験を生かして相談に応じている。

 なぜ、贈り物関係の相談ごとが多いのか。加瀬さんは「しきたりや慣習について、身近に聞ける存在が少なくなっているのではないでしょうか」と推測する。特に目上の人への贈り物については“失敗できない”と考える人が多く、わざわざ店舗まで足を運んで相談しようと考えるお客が一定数存在する。さらに、こういった情報はインターネットでも検索できるのだが、情報が多すぎてどれを選べばいいのか分からなくなり、不安を感じて来店するお客もいるという。

 今回、「謝罪」「お祝い」「気軽な手土産」という3つのシーンでそれぞれ気を付けるべきポイントについて、加瀬さんに話を聞いた。

西武池袋本店でコンシェルジュを務める加瀬紗絵さん

 謝罪の際に気を付けるポイントは?

 謝罪の場に持参するものを選ぶ際、気を付けるべきポイントは何か? 加瀬さんは、前提として「お詫(わ)びをする姿勢を示すことが最も大切です。モノで解決を図るわけではないので、あくまで真摯(しんし)な気持ちを伝える際に、添えるものという認識を持ちましょう」と解説する。

 これは全ての贈り物に共通することだが、「持病があるので甘いお菓子はNG」といったように、受け取る側の事情を把握することも大事だ。加瀬さんも、相談を受ける際には可能な限り相手の事情を聞きだし、提案するようにしているという。損害を与えた程度や、相手との関係性によっても選ぶ商品が変わってくる。つまり、ケースバイケースという要素が強い点を念頭に置く必要がある。

 悩ましいのは、相手の好みや属性を踏まえて“狙いすぎた”ものを贈ると「下心があるのでは?」「モノで解決しようとしているのでは?」という疑念を抱かせてしまう可能性があることだ。主張しすぎず、あくまで添えるものという条件で選ぶのが望ましいという。

 謝罪の際に何を渡せばいいのか?

 そうは言っても、さまざまなケースに利用されやすい商品もある。謝罪の場に持参するものとしてポピュラーなのは「ようかん」だ。他の菓子と比べ、渡された際にずっしりとした感触があるので「事態を重く受け止めている」というメッセージを伝えやすい。また、ようかんは常温での賞味期限も長く、開封しなければ冷蔵庫に入れる必要がないので、相手に「保管場所をどうしよう?」と悩ませないのも支持されやすい理由だ。謝罪の品が相手の負担になるのは避けるべきだろう。

 注意すべき点は他にもある。受け取った相手に「切り分けて関係者に配るのが面倒だな」と思われないように配慮することだ。加瀬さんは最初から切り分けてあり、配りやすいタイプのものを進めることが多いという。また、好き嫌いがあることも考慮し、さまざまな味のものが一緒に詰められているタイプを提案することもある。

 ちなみに、必ずしもようかんにすればOKというわけではない。ようかんの賞味期限が長いため、ずっと職場に置かれている様子を見て「事態を引きずる」というニュアンスを感じる人がいるからだとか。そういったリスクを避けるためにも、すぐに消費されやすい小分けのようかんを用意することが好ましいという。

小分けにできるようかんが無難(提供:そごう・西武)

 商品のパッケージで気を付ける点

 和菓子と洋菓子の選択に迷った場合にはどうすべきか。加瀬さんは、カステラを勧めている。和菓子と洋菓子の中間にある存在というのがその理由だ。

 ようかんのような条件を満たすものとしては、フルーツゼリーの詰め合わせや、最初から切り分けてあるタイプのカステラが挙げられる。いずれも、受け取った相手に保管に関する手間をかけさせにくいという特徴がある。

 謝罪の際に注意すべきポイントは他にあるだろうか。加瀬さんによると、重要なポジションに就任する社員の年齢が低下していたり、実年齢と比べて嗜好が若くなっていたりする傾向があるという。一定以上の年齢層になると、洋菓子より和菓子を好む傾向が強まるが、この点も相手の嗜好を踏まえて判断したいところだ。

 また、かつては重たくて大きいものが謝罪の場に持っていくモノとして選ばれる傾向があったが、加瀬さんは「現在はさりげなく添えるものが選ばれる傾向があります。あまり大げさにならないようにしましょう」とアドバイスする。

 さまざまな事情を考慮して実際に購入する際、気になるのが“相場”だ。加瀬さんは「金額から入るのではなく、相手の気持ちに沿ったうえで、さりげないものを選んだ結果として、3000~1万円におさまるくらいに考えたほうが良いでしょう」とアドバイスする。ただ、「大げさになりすぎない」ものを選ぶと、3000円や5000円程度に収まるケースが多いようだ。

 1万円程度の詰め合わせセットという選択肢もあるが、どうしてもサイズが大きくなりすぎてしまう傾向がある。「予算は1万円で!」と要望するお客もいるが、その際には、単価が高くてボリューミーにならないような提案をしているという。例えば、名の通った老舗和菓子店の商品ならば、他店のものよりやや高額なケースが多いので、かさばりにくくなる。また、知名度があるので“相場感”も相手に伝わりやすい。

 包装紙や箱のデザインについては、派手なものは避けるべきだ。なるべく大人しく、シンプルなパッケージが好ましいという。

謝罪の場に持参する菓子のパッケージはシンプルに(提供:そごう・西武)

 お祝いの贈り物をする際に注意すべき点は?

 気持ちが重苦しくなる謝罪と比べれば気楽に選べるのがお祝い関係の贈り物だ。お祝いのシーンはさまざまあるが、西武池袋本店に特に多く寄せられる「(定年などによる)退職者向け」「還暦や米寿といった節目となる年齢を祝う『賀寿』」に分けて解説する。

 まず、どちらのケースにも共通することだが、基本的におめでたいことを祝うためのものなので、謝罪と違い、トレンドを反映したり会話が弾んだりするような商品を選ぶという選択肢が出てくる。ただ、退職祝いを受け取った相手が「内祝いをどうしよう」と悩んでしまうケースがある。そのため、加瀬さんは「過剰なものは避けましょう」とアドバイスする。

 定年退職し、別の職場で働くことが決まっている人には何を贈るべきか。相手の嗜好がよく分からない場合、いくらあっても困らないネクタイやベルトといったビジネスアイテムが選ばれることが多い。ただ、相手の働き方によって必要なものが異なるので、その点は注意したい。性格や好みがよく分かっていれば、ゴルフグッズや酒なども選択肢になりうる。

 定年退職後、自宅でゆっくりすることが決まっている人に対してはどうか。一般的に、高齢だったり、社会的地位が高かったりすると、ビジネスの場や家庭で日常的に使うものは一通りそろえている可能性が高い。また、最近は不要なものをどんどん捨てようという風潮も高まっている。もらった相手が負担に感じそうなものは避けたほうが無難だろう。

 カタログギフトという選択肢

 加瀬さんは、こういったケースの選択肢としてカタログギフトを挙げる。これならば、相手は必要なものを選べる。また、カタログギフトの中には、単に商品だけでなく、レストランでの食事や温泉の宿泊が選べるものがある。そこで「これからはゆっくり過ごしてください」「仕事を支えた奥様をねぎらってください」というメッセージを込めて、“ぜいたくな時間”が過ごせるタイプのカタログギフトを選ぶお客も多いとか。

 賀寿のお祝いはどうだろうか。取引先の会長に贈るケースで考えてみよう。加瀬さんによると、最近は「60歳だからコレ、70歳はコレ」といった概念が弱まっているという。現役バリバリで働いていることも多く、嗜好が多様化していることもある。ユーモアを演出するために「還暦の赤いちゃんちゃんこ」を贈ることはあり得るが、相手によっては無礼と受け止められかねない。

 一般的に「年齢ごとにふさわしい色」があるとされている。例えば、「70歳には紫や紺」といった具合だ。ハンカチや花を贈ることが決まっているが、どの色にするのかを決めかねて相談をするケースもある。だが、「色に関しては諸説ある」(加瀬さん)ので、年齢の色に引っ張られすぎないほうが無難だという。例えば、70歳の人にハンカチを贈る際は、全体的に紫の色が使われているものではなく、一部に紫が使われているものを選ぶくらいにとどめたほうが良さそうだ。

 「職場に遊びにいく」くらい気軽な手土産は?

 取引先へ気軽に手土産を持っていく際にはどうしたらいいだろうか。

 加瀬さんは「トレンドをふんだんに取り入れたものを選んではどうでしょうか」と提案する。例えば、女性が多い職場では見た目が華やかなスイーツ、逆に男性が多い職場ではボリューム感のあるものが好まれるかもしれない。気軽に分けられるように個別包装されたものを選んでもいい。

 差し入れをする人の中には、遊び心や自分のセンスをアピールしたいというケースもある。こういった場合は、「この店でしか売っていない」「ブームになっている」モノを選ぶのも一案だ。

 謝罪やお祝いでは、これだけ贈り物の選択肢に違いが出る。ビジネスの場では上手に使い分けていきたい。(ITmedia)

気軽なお祝いにはカラフルなお菓子もあり(提供:そごう・西武)
たくさんあるとより華やかな印象(提供:そごう・西武)
謝罪の定番としてはカステラもある(提供:そごう・西武)