今日から使えるロジカルシンキング

「それ、先に言ってよ」 “隠れた前提”にあなたは気づけていますか?

苅野進

第11回 「隠れた前提」に気をつける〈基本〉

 上司やクライアントをもっとスムーズに説得できたら…。仕事でこんな風に思ったこと、ありませんか? この連載では、子供にロジカルシンキングを教える学習塾ロジムの主宰・苅野進が、SankeiBiz読者のみなさんに、ビジネスパーソンにとって重要なスキルであるロジカルシンキングの基本スキルを伝えていきます。

「当たり前」は当たり前か

 あなたは営業支援システム会社Aの営業マンです。ライバルB社のシステムを使っている新規顧客とのアポイントメント取りに成功しました。度重なるヒアリングから顧客の問題点を把握し、それを改善できるような提案を社内で練り上げました。しかし、顧客へとプレゼンしたところあまり前向きではない反応が…。提案内容への疑問・不満はないかと尋ねたところ、「そもそも、システム全部を入れ替えるつもりも予算もなくてさ。現在のシステムのベースは変えずに、改良する方向で考えてたんだよね」と返ってきました。

 「そんな大事な話は先に言ってくれよ…」

 コミュニケーションにおいて、自分にとって「当たり前」だと思っていることを省略して話してしまいます。いちいちすべてを説明していたら、冗長になってしまうからです。しかし、相手にとっての「当たり前」は自分にとっても「当たり前」であるとは限りません。冒頭の事例のように、結果をすべてひっくり返してしまうような「思い違い」となって最後に浮かび上がってくることは避けたいものです。

前提 = ある物事が成り立つために、あらかじめ満たされていなければならない条件

 「前提(条件)」は、物事を共同で進めていくのに非常に重要な条件であるにも関わらず、しばしば表現されずに「隠れている」ものです。議論をしている中で、「なんだか相手と噛み合わないぞ?」というときには、お互いに表明していない「隠れた前提」がないかをしっかりと確認することが大事です。冒頭の例は「言い忘れていた」というレベルのものですが、ビジネス・交渉などでは意図的に隠されていることもあるのです。

 「我々は共通の前提の上で議論をしているのだろうか?」を常に確認していきましょう。隠れた前提を確認するために、最低限確認しておきたい3つのポイントがあります。

1.同じ「意味」で言葉を使っているか?

例えば「顧客満足」という目標を達成するために議論をしているとします。一方は「顧客満足」とは価格の低さであると考え、もう一方はアフターサービスの充実度だと考えている場合、議論は噛み合いません。当たり前のように使っている言葉の「定義」は議論の前提として確認しておく大事な項目です。その意味で、ビジネスの場面で「形容詞」や「副詞」など個人によって考える量や頻度が異なる言葉を使うことはなるべく避けるほうが良いでしょう。

  • 「たくさん売れています!」
  • 「人気です!」
  • 「概ね順調です!」

 それぞれが自分に都合のよい数値に変換してしまいます。それは後々大きな問題につながるものです。

2.「誰の」話をしているのか

 価値判断や政治的決断をする際に、主体を隠して議論を進めることがあります。多くの場合「私」という主語を隠します。

 「そういった無駄なことは、やるべきではない」という主張において、「私にとって」無駄なことであると明確に表現すると、それが本当に無駄なのかどうかという議論に対応しなければなりません。しかし、「私」を隠すことによって、あたかも「みんな」が無駄だと思っていたり、すでにそれは無駄であると決まっていたりするかのように思わせることで議論を進めようとするのです。後に、「そもそもこれって無駄だったんだっけ?」という議論に戻ってしまうことがあります。

 また、ビジネスの場面においては、「利益」というものがしばしば、「会社にとっての利益」と「担当者にとっての利益」といったように異なることが少なくありません。会社にとっての利益を最大にするような提案をしたところ、それが担当者の既得権益を損なうものだったので採用されないということもよくある話です。「誰が」言ったのか?「誰についての」話なのか?をぼやかしたままだと、いつの間にかそれぞれが都合のよい人物を作り上げてしまいます。

3.「判断基準」に相違はないか?

 「商品Aの売り上げが前年を下回っているので、なんとか対応策を考える必要がある」

 ここには、「商品Aの売り上げは前年を下回ってはいけない」という判断基準が前提として隠されています。この隠れた判断基準はそのまま受け入れるものなのかどうかも考える必要があります。そもそも商品Aの属するマーケット自体が大きく縮小しているのかもしれません。そこを確認せずに対応策を必死に考えてしまうと、組織としては非効率な資源投下となってしまう可能性があるのです。

 「こういう状況では当然こういう対応」という隠れた判断基準は、後半の「対応」を具体的にどうするかということに気を取られてしまいがちです。しかし、判断基準が違う人間が、それぞれ対応策を考えていると全く違った案が仕上がってしまうものです。判断基準とは行動の最も基本的な前提ですので、気軽に受け入れてはいけません。

本当に「言う必要がない」か

 重要な前提が隠れているのは、話者が「当然である」と考えている場合だけでなく、「当然である」と相手に思い込ませたい場合もあるのです。いずれにせよ「前提」が違えば、そこから導き出される「結論」も変わってきます。当然だと考えていた前提が実はそうではなかったとなれば、結論として導き出した打ち手の成功率も大きく下がります。

 議論が噛み合わなかったり、当然そうだろうと考えて出した結論が違ったりするときには、お互いに「言う必要がない」と考えている「隠れた前提」があるのではないかと疑ってみるとよいでしょう。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら