「“まな板に載った”のは19年前」 化学賞受賞・吉野彰さんインタビュー
リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞の受賞が決まった吉野彰さん(71)が10日未明、産経新聞の取材に応じた。喜びの声や今後の抱負に加え、根っからの阪神ファンであることも明かした。主な一問一答は次の通り。
--気楽にお願いします
「まだ実感は湧かないなあ(笑)」
--改めて今のお気持ちは
「やはりストックホルムは偉い。受賞理由をいろいろ言っていたが、『世界を変えた』ということなのだが、『今のモバイルIT社会を生み出した』『世界を変えた』と。ただ、それだけだったら、たぶんノーベル賞をもらえていなかったと思う。次に、今まさに電気自動車とか、そういうところで応用が始まって、これは直に地球環境問題になる。彼らは地球環境問題をものすごく重視するので、その2つはさすがストックホルムだなと思った」
--米テキサス大のグッドイナフさんと一緒に受賞できたことについては
「もちろん私とグッドイナフは親密にしていて、彼は明らかに今のリチウムイオン電池の正極を世界で最初に見つけた人。そういうこともあって、テキサス大に何度も何度も訪問したりして。彼は彼で『俺の見つけた正極を、お前がリチウムイオン電池にしてくれたからうれしい』と言っている」
--受賞決定後、話はしたか
「いや」
--話をするとしたら、どういう言葉をかけるか
「ワオー(笑)。彼はお年だし、ちょっと前から足が悪い。一人であまり動けない。今度の(授賞式で)ストックホルムはたぶん来られるとは思うが」
--もし電話で声をかけるとしたら
「たぶん向こうが『ヨシノ、コングラッチュレーション(おめでとう)、コングラッチュレーション』と言うだろうから、『ユー、トゥー(あなたも)』でいいのではないか」
--グッドイナフさんはどんな人か
「彼は典型的な固体物理の出身。まさに今の正極材は固体物理から来ている。私の場合はケミストリー(化学)から来ているから、考え方が共通する部分と全然共通しない部分がある。いろいろ話をしていて面白い。彼は理論的に『こうだから』『ああだろうから』というアプローチをするが、こちらは『実験データはこうですから』と」
--何年もノーベル賞候補といわれていたが、どんな気持ちで待っていたのか
「最初にある大学の先生が、ちょうどハワイに私が出張していて空港で一緒になって、『お前をノミネート(推薦)しておいたよ』と言われた。たぶんそれが初めだと思う」
--いつごろか
「2000年。19年前」
--海外の方か
「日本の方。そこから今回につながるようなことが流れ出したんだと思う」
--どなたですか
「うーん、50年だよね、守秘義務は。まだ19年しかたっていない(笑)」
--19年間、毎年待っていたのか
「最初は個人的にそういうことを教えてもらって、まだ出てこない話だった」
--聞いたときは
「えっと思った」
--自分はノーベル賞を取ってもおかしくないと
「いやいや、そうではなくて、まな板に載ったんだなと。だから、今日みたいにいろんなメディアの方が来られてというのは、この10年くらい。最初は外れたときの嫌さというのがあったから、『もうええ加減にしてくれ』というのはあったが、そのうちにセレモニー的に毎年やると、周りの皆さん方が逆に喜んでくれて」
--みんなで盛り上げた
「旭化成の社員の方が準備してくれて。だから、『ずっとこのまま取らずに毎年続いたらいいね』なんて(笑)」
--それはそれで楽しいと
「そうそう。残念会もいっぱいやってくれるし(笑)」
--今後の生活は変わると思うか
「基本的には変わらないと思う。明日からの予定をこれから決めていかないといけないが、当然、来週以降、いろんな予定を入れてしまっているから。講演とかは、できるだけお約束した分については、きっちりやっていきたいなと思う」
--これからはノーベル賞受賞者としての肩書が一生ついてまわる
「これはもう今まで通りに。ただ、私の言葉の重みというのはたぶん変わると思うので、そういった意味では、たとえ間違っていてもいいから日本はこうあるべきだとか、日本の技術はこうやらないといかんとか、やはりそういう発信をしていきたい。それでいろんな人がいろんな議論をしてもらって、何かより日本の産業が活性化するような、そういう道筋が出てくるといいと思う」
--日本の将来について発信していきたいと
「うん」
--どうして今回、受賞できたと思うか
「いわゆる授賞理由からいくと、やはり環境問題が相当、表に出てきた。これが一番大きかったと思う。さっき言ったように、ITだけだったらもらえていなかったと思う」
--受賞に値する研究成果を出すことができた理由は
「いろいろあるが、いわゆる個人的な研究者としての力というか、それは当然必要なのだが、やはり旭化成という材料メーカーにいたというのが一番大きかったような気がする。正極にしても、負極にしても、やはり素材。素材を開発する力がないとなかなか難しい。昔のいわゆる組み立て産業というのは材料、部材、部品を集めて、ただ組み立てるだけ。これはやはり中国、韓国にやられてもしようがない。素材の開発力があるかどうかで、新しいモノが生まれるかどうかは決まってくると思う。そういった意味で、旭化成という材料メーカーの中で電池という一つの製品の開発をやっていた、というのが一番大きい理由だろう」
--賞金は何に使うか
「基本的には、これは続けていきたいと思うのだが、以前にいろんな賞をもらって、いろんな賞金もいただいていて、実は今、日本化学会で研究基金をつくっている。これがちょうど6年目を迎えるのか、ちょうど変わり目の時期なので、今回のお金も一部を当然そちらの方に入れて、基金を継続していく」
--若手研究者の育成に
「そうだ」
--個人で何かに使うことは
「それはない。あまりぜいたくをする方でもないし」
--いつごろからプロ野球の阪神タイガースのファンなのか
「私は大阪生まれだし、ちょうど大阪の千里山の関西大学が家のすぐ近くにあり、(野球部で)村山実(元阪神タイガース投手、監督)がちょうど私の子供の頃に投げていた。キャッチャーが上田(利治・元阪急ブレーブス監督)だったかな。そういうこともあってね」
--阪神タイガースのどういうところが好きか。全部か
「それもあるし、一度だけ本物の甲子園球場のネット裏で巨人戦を見たことがある。5、6年前かな」
--どうだったか
「やはり地響きというか、あれは感動する(笑)」
--今年の阪神に一言
「よう頑張ったから、せいぜい最後まで行って、『ああ、もうちょっとやったなあ』ぐらいまでは行ってほしい」
--日本一は
「それはちょっとできすぎ(笑)」
--とりあえずクライマックスシリーズにと
「あれは立派だった。あそこまで行ったのは」
--今晩はこれから何か食べたいか
「ビールが飲みたい。早く」
--みんなで乾杯か
「いや、1人で乾杯(笑)」
関連記事