《今回の社長を目指す法則・方程式:「ドア・イン・ザ・フェイス」「フット・イン・ザ・ドア」「ローボール」》
こんにちは、経営者JPの井上です。2019年も残りわずかとなりました。上司のみなさんは年末での商談クロージングや、新年あるいは新年度からの新天地移籍(異動希望、転職)などに動いているかもしれませんね。自分の意のままにことを進めたいのは心情ですが、正攻法だけではクライアントやご家族を説得仕切れない場面も多いものです。今回はそんなときに効く、3つのズルい心理テクニックをご紹介します。
転勤を伴う転職を、どう家族に納得させるか?
あなたが虎視眈眈と進めてきた転職活動、その転職希望先が決まりそうです。これまでの専門も活かし、役職も上がる。年収も大幅ではないもののスタートから現在より少し上積みされそうです。何よりも事業に特徴があり、会社のビジョンも明確で、お会いした社長、他の面々もとても良い方々。
ただ、ひとつだけ問題が。現在、都内住まいのあなたですが、新天地は大阪。単身か、家族帯同か、先方企業はどちらでも問題ありませんよとおっしゃってくださっているものの、何れにしても転勤を伴うことには妻の了解が得られそうにない…。
さて、どうしよう? そこであなたは一計を案じました。ちょうど現社で、確度はまだ高い話ではないものの、ゆくゆくミャンマー勤務はどうだという打診が役員からあったのです。
ある晩、あなたは奥様に切り出しました。「実は、今の会社でミャンマーに転勤になるかもしれないんだ。現地の本格立ち上げで」「えーっ、ミャンマー!生活インフラ安定していないって聞くわよね。二人の子供の学校、どうすればいいの? それとも単身? 何れにしても不安だわ…」「だね。で、実はそれとは別に、大阪にいい転職先の話があって。国内なら子供も安心だろう?」。
最初に高いハードル・要求を突きつけ、それよりましな選択肢で、普通に提案・相談したら得難い了解を得る。これを「ドア・イン・ザ・フェイス」テクニックと言います(「shut the door in the face(門前払いする)」という、訪問販売員とお客のドア越しのやり取りを表したフレーズに由来)。
単に東京から大阪の会社に転職だと反対されたかもしれないところ、ミャンマー転勤の可能性を前提に、ミャンマーと大阪を比較させることであなたは無事に奥様の大阪企業への転職を快諾させることに成功しました!
相手の要求をどこまで受け入れられるか?
スタンフォード大学の社会心理学者、ジョナサン・フリードマンとスコット・フレイザーが1966年に行った興味深い実験があります。戸建住宅の住民に「庭先に交通安全の立て看板を立ててもらえませんか」という依頼をしたら、どのくらいの住民が承諾してくれるのかという実験です。
2つのグループを作り、最初グループの住民にはいきなり「庭先に交通安全の立て看板を立ててもらえませんか」という本命の要求をしました。この場合、承諾した住民の割合は16.7%でした。
別のグループの住民には、いきなり本命の要求はせずに「交通安全に関する小さなステッカーを窓か車に貼ってもらえませんか」という小さな要求に承諾してもらい、その後「庭先に交通安全の立て看板を立ててもらえないか」という本命の要求をしました。すると本命の要求に対する承諾率は76%にもなったのです。
相手がYESと飛びつく提案を先に受けさせてしまい、それに紐づく追加条件を次々と乗せていくことで、最初から一括提案では断られそうな提案を受け入れさせてしまう「フット・イン・ザ・ドア」テクニック(セールスマンが訪問先でまず片足をドアに入れて閉まらないようにし、相手が商談を拒否できないようにする動作に由来)。これも営業や日常でかなり使える心理学テクニックと言えるでしょう。ポイントは「一連の要求に関連がある」「要求ごとの差を大きくしすぎない」「細かくしすぎない」の3点とのこと。
例えば、最初に少額のミニプランを導入してもらい、その上で「これとこれもやれると楽ですよね」などのオプションを載せてスタンダードプランへのアップグレード受注までをする。しかしここからフル装備のプレミアムプランまでを提案してしまうと、「いや、そこまでは必要としてないよ」となってしまうということで、小さく入り、追加受注を載せる、しかし欲張りすぎない!ということが寛容ということですね。何事もやり過ぎにはご注意を(笑)。
サブスク型サービスを申し込む際に気をつけるべきこと
最近はサブスクリプションモデルへのサービス移行が花盛り。それには提供される商品やサービスが「パッケージ」から「オンライン」に移行したこととも大きく関係しているでしょう。売り切り、買い切り型の販売ではなく、継続課金型のサービスへ。
この時代の流れにマッチしているのが、「ローボール」テクニックです(いきなり投げたら捕球できないような「高いボール(high ball)」であっても「低いボール(low ball)」から徐々に高さを上げていけば捕球しやすくなる、ということに由来)。
あなたもおそらくここ最近、こんなプランのオファーを受けたことでしょう。「まず無料プランをお試しください。」「初回、無料!」「初月1カ月、無料!」。あるいはこうしたサービスの販売をされていらっしゃるかもしれません。
動画配信、コスメやサプリ、あるいは使い放題・借り放題サービスなど。「あ、いいな、これ」と思うと、その案内に、上記の「まず無料プラン」「初回無料」「初月無料」の文字が。おお、であれば試してみよう。で、申し込みを始めると、「それには半年のお申し込みが条件です」「クレジットカードを登録ください」。ここで、なんだ、じゃあやめよう、という人もいるとは思いますが、実際はかなりの割合で「え、そうなの?」と思いつつ、そのまま、まあいいか、使ってみて嫌なら解約すればいいし、とそのまま契約登録に向かいます。
相手がYESと飛びつく提案を先に受けさせてしまい、その後条件を釣り上げる「ローボール」テクニック。嫌な言い方をすれば、はじめに相手が承諾しやすい好条件を出しておいて、後から徐々に相手にとって不利な条件を突きつける手法です。
これが“強い”のは、私たちには「一貫性の原理」があるからです。一度自分が選んだ選択は、そのまま変えずに進みたいという心理を私たちは持っています。また、自分の選択は正しいと思いたい「認知的不協和」、一度選択したものを捨てるのは時間のロスになるという「コンコルド効果」「サンクコスト効果」も働きます。
売り手の立場としては、なるべくお客様の意思決定をスムーズに促進したいため、これらの人間心理に乗っ取った営業プロセス、マーケティングプロセスを取ることが大事だと言えますね。
これら3つの心理学理論は、おそらく皆さん、お気付きの通り、背中を押してあげるという意味では非常に良いテクニックですが、やり過ぎは禁物。相手が「騙された」ということにもなりかねないので、くれぐれも悪用厳禁でお願いいたします!
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら