《今回の社長を目指す法則・方程式:アルベルト・サヴォイア「XYZ仮説」》
こんにちは、経営者JPの井上です。成功する社長はなぜ新規事業を具体化し、事業計画を目標達成させることができるのでしょう? 彼らはどうやら共通して、曖昧なものを現実化するための術を持っているようです。逆になかなかアイデアを具体化できなかったり、立てた目標を達成できない人の共通項は、そのアイデアや目標達成の道筋が漠としたものであったり抽象的なものに留まっている場合がほとんど。この差はいったい、どうすれば埋めることができるのでしょう?
あなたの戦略や事業プランが実現されない理由
このことに関して『Google×スタンフォード NO FLOP!失敗できない人の失敗しない技術』の著者、アルベルト・サヴォイア氏が、非常に具体的で使い易いフレームを提唱しています。それが「XYZ仮説」です(アルベルト・サヴォイア氏は、サン・マイクロシステムズやグーグルにエンジニアとして参加し、起業家として成功と失敗の体験を持ち、「新製品失敗の法則」に打ち勝つための独自のアプローチを古巣のグーグルやスタンフォード大学のセミナーやワークショップ、世界各地の企業で指導しているそうです)。
私たちは日常の仕事において、例えばよくこんな会話をします。
--WEBマーケティング戦略の場面で
「この<申し込み>ボタンの横幅をもう少し広げたら、クリック率ももうちょっと上がるんじゃないかな?」
--あるセンサーメーカーの新規事業企画会議の場面で
「大気汚染がひどい都市に住んでいる人たちの中には、大気汚染の度合いをモニターして身を守るのに役立つ手頃な値段の機器に興味を示すに違いありません!」
それぞれ、よく目にする“悪くない提案”に聞こえます。しかしここに、実現可能性という観点での問題を孕んでいることに気が付いたでしょうか? そう、これらはいずれも、曖昧なのです。
「<申し込み>ボタンの横幅をもう少し広げたら」とは具体的にどれくらい広げればと言っているのでしょう? 「クリック率ももうちょっと上がる」とは、どれくらいのアップ率を期待しているのでしょうか?
「大気汚染がひどい都市」とはどの程度の大気汚染の都市をターゲットにしているのか? 「手頃な値段」とは幾らくらい? 「住人の中には興味を示すだろう」とは、どの程度の割合や人数を見込んでいるのか?
結果を出す社長や幹部と、そうでない人たちとの差がここにあります。何をどうすればどうなると考えているのか、仮説としているのか、達成基準としているのか、はっきり定義できるのが成果を出す社長や幹部の共通項です。
そこで使えるのが、「XYZ仮説」フレームワーク。これを使って表現すると、上記の2つはこのようになります。
・「この<申し込み>ボタンの横幅を20パーセント広げた場合、申し込み者は10パーセント増加するだろう」
・「大気汚染指数(AQI)が100以上の都市に住む人の少なくとも10パーセントは、定価120ドルのポータブル大気汚染モニターを購入するはずだ」
・「少なくともXパーセントのYはZする」
Xパーセントはターゲットアクションや市場の特定の割合、Yはダーゲットアクションや市場の具体的説明、Zはターゲットがどう反応するかの予測を現します。
どうでしょう? 何をどれくらいどうすれば、どうなると考えている・期待しているのかが、具体的にはっきりとしましたね。あなたがいま追っている営業目標やマーケティング目標、あるいは新規事業の計画は、XYZが具体的な数値になっていますか?
最初から計画の「正解」を求めるな!
ここで皆さんは、「そうは言っても、実際にやってみないと、それぞれどれくらいの数値が正しいのか、妥当なのか、分からないよ」と思うでしょう。日本人の真面目なところといいますか、ある面下手なところ、悪いところとも言えるのが、「最初から正解を求めてしまう」ところにあると思います。社長や上司も悪いのです。「おい、この数字の根拠は何だ? 合ってるんだろうな?」と計画段階で詰めてしまう人が非常に多い!
このXYZ仮説の運用の重要なところは、「仮説数値は当初的外れなものであっても全く問題ない」というところにあります。重要なことは曖昧な思考を排除し、チーム内の「暗黙の了解」をまず浮かび上がらせることにあります。そのツールとしてXYZ仮説は非常に役立ちます。最初はあくまでも担当者やチームの想定する仮説数値を代入すればOK。そこからこれを、テストやモニタリングを繰り返して、挿入数値の精度を上げていくことこそが、事業や戦略の成功への道筋となるのです。
上司の皆さんには、スタート時点であまりに正解にこだわりすぎて仮説設定がなかなかできなかったり着手が遅れるようなことを避け、「当初は間違っていていいのだ」という前提に全員で立ち、いったん具体的な数値を置いてみる。そして、実際どうなのかをスモールスタートでテストや検証を繰り返し、実際の数値の妥当性、適切さを探っていき、どんどん数値を上書き修正していく。
大事なことは、計画時のXYZの正しさではなく、実際のXYZはこうだったんだという回答に最速で辿りつくよう動くことなのです。既存事業の目標達成であれ、新規事業の立ち上げであれ、結果を出す社長や幹部は、この一連のアクションに長けているのです。
アルベルト・サヴォイア氏は「XYZ仮説は、曖昧な思考を排除するための特効薬になる」と言います。さあ、いますぐ、あなたの担当事業、戦略、業務について「XYZ」を書き出してみましょう! すらすら書き出せるなら、おそらくその戦略や業務はすでに成功しているはず。書き出せないなら? 心配いりません、スタートラインにすら立っていない社内外の競争相手に、一歩先んじて「正解値」を求めるゲームを開始しましょう!いますぐに、です。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら