《今回の社長を目指す法則・方程式:ダン・アリエリー「自前主義バイアス」》
こんにちは、経営者JPの井上です。事業提案、営業戦略提案、組織やプロジェクトの編成提案--。上司の皆さんは大きなものから小さなものまで、日々、様々な提案を求められ、また部下からの提案を受けていると思います。
面白いもので、上司の立場としては部下に対して「うーん、もっといい提案を持ってきてくれよ」と思い、提案する立場としては「なんで自分の提案を採用してくれないのだろう」と思っていることが多いもの。もちろんこれにはお互いの専門性や経験、提案力などの客観的要因があるとは思いますが、しかし同時に私たちのバイアスが掛かっていることも多いのです。それは、「人は誰しも、他人のアイデアよりも自分のアイデアのほうが絶対に良い!と思う」というもの。ここに組織・チームで業務を進める際の落とし穴と、上司の皆さんにとっては使いどころもあるのです。今回はそこに迫ってみましょう。
なぜ、上司の意見は部下に受け入れられないのか?
これは実はこれまでも何度か、自著や講演などでもお話したことのあるエピソードなのですが、以前のある組織でのことです。
某事案があり、それに対する対策を打とうということになりまして、私が預かっていた部門で対策会議を行いました。そこで上長であった私自身が、「こんな策が有効じゃないかな」と提案したところ、部下たちからは「えー、そうですか。どうですかねー」。なにやら気に入らない様子で反論を受け、結局、私の案は却下モードに。当時、多少のマネジメント経験を積んでいた私は、内心、(「なんだよ、どこが気に入らないんだよ」)と思いつつも、グッとこらえて「なるほど、そうか。じゃあ、今日のミーティングでの議論を踏まえて、来週までに皆でベストと思える案を考えてみてもらえるかな」ということにしました。
さて、翌週、その再提案をメンバーたちから受ける会議を開催。どんな案が出てくるのかな、と楽しみでもあり、半信半疑の気持ちもありつつミーティングに入ると、メンバーたちは得意満面で「井上さん、案をまとめてきました。これで行きたいです」。提案を見せてもらったところ-。なんと、それは、先週に私が「これでどう?」と言っていた案ではないですか!(もちろん枝葉の部分では多少の肉付けはされていましたが)。思わず椅子から転げ落ちそうに~と古いオチのようなことをしそうになったくらい、内心ズッコケはしましたが、ここはオトナの対応を見せまして、「おー、なるほど、いいじゃん!了解、ではこれで行ってみようよ」とGOサインを出したのでした。
人は「自分が作ったもののほうが好き」で、優れて見える生き物
行動経済学の第一人者で数々の関連ベストセラーを持つデューク大学のダン・アリエリー教授は、人は自分で生み出したアイデアに愛着を感じ、高く評価してしまうという実験結果に対して、「自前主義バイアス」と命名しています。以前に当連載で「イケア効果」(労力をかけて何かをこしらえると、その作品に愛着を感じ、過大評価するようになる)に触れたことがありますが、このイケア効果を含めて、私たちは自分が作ったもの、自分の考えやアイデアが「好き」なのです(笑)。それが色眼鏡となり、他人のものより自分のもののほうを評価してしまう生き物なのですね。
それは私たちの愛らしいところでもありますが、こと、ビジネスの世界においては、この「自前主義バイアス」には個人単位でも組織や企業単位でも重々気をつけないと大きなリスクとなります。それはもうお分かりかと思いますが、自分の案や企画への愛着が過ぎると、他の優れたアイデアを排除してしまうリスクがあるからです。商品、サービスで古今東西、「他社にしてやられた」ケースには、この自社での勝手な“敗れた案のほうが優れている”という思い込みバイアスに陥ったものも非常に多くみられます。あえて具体的に事例を引くことは控えますが、流通会社や外食、あるいはアプリ関連やSaaS会社などまで、同種のサービスが「我が社のものの方が競合よりも優れている」と言いながら負け組に陥ってしまっている例は枚挙にいとまがありませんよね。
上司は部下に「自分が作った」と思わせれば良い
面白いことに、この「自前主義バイアス」は、本当に自分自身が考えた・作ったものでなくとも、当人が「これは自分が考えた」と思い込んでいる(実は別の人が考えた・作った)ものでも同様の現象を引き起こします。ここにこのバイアスの面白いところ、上司としての腕の見せ所があります。
要するに、上司のあなたが考えた案であっても、あたかも部下たち自身が考えた、提案したように持っていければ、必ずメンバーは気持ちよく取り組んでくれるということです! まさに、ご紹介した私の過去の経験こそ、「ズルい自前主義バイアスの使い方」だったのです。当時、私は「自前主義バイアス」などということは全く存じ上げなかったのですが(笑)。
上司の“勝ち”は、誰の意見が取り入れられたかではなく、チームがビジネスをうまく進めることができたか、成果をあげることができたか、ですから、「これは俺が起案した案だ」などと自慢する必要などなく、自分の案や意見をあたかも部下たちが考えたように持っていき、「キミの素晴らしい案のおかげで、今回、成功することができたよ!」と部下を誉めてあげれば良いのです。
「自前主義バイアス」を巧く使える上司は、オトナ度の高い上司でもあるということになりますでしょうか。あなたは使えますか? それとも、それでも「自分がやった」にこだわりますか?(笑)
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら