ビジネストラブル撃退道

コロナ対応に見る「お願いする」の愚かさ 国・自治体トップは企業を見習え

中川淳一郎

 「お願いする」ことの無力さ

 リーダーたるもの、「お願いする」というコミュニケーションはやめた方がいい。今回の「お願いする」についてだが、23日に小池百合子東京都知事は「感染の爆発的な増加を抑え、ロックダウン(都市封鎖)を避けるために不便をお掛けするが、ご協力をお願いしたい」(共同通信)とお願いをした。

 3月末の3連休では、全国各地で「コロナ疲れ」から解放されたくて仕方のない人々がアクティブにイベントに参加したり桜の名所に大勢詰めかけた。週末の対応にあたっては、19日に大阪府の吉村洋文知事が兵庫県と大阪府の往来について「20日からの3連休、往来を控えていただきたい」とこれまた「お願い」をした。19日の専門家会議を受けて安倍晋三首相は「国民の皆様におかれましては、換気が悪く、多くの人が密集し、近距離での会話や発声が行われるという3つの条件が同時に重なるような場を避ける行動を、引き続きお願いいたします」とこれまた「お願い」した。

 一方、欧米のやり方は「お前ら外に出るんじゃねぇ。これはオレ様からの命令だ。違反したら罰金課すからな、てめぇ」というものである。封じ込めに成功したと意気軒昂に述べる中国共産党にしても、ホントかよ? という疑問はあるものの、外出禁止や都市封鎖のやり方は「お願い」どころではなく「命令」であり「強権発動」だった。

 3連休で感染者が大幅に増えたかどうかを把握するには、あと1週間~10日ほど待たなくてはならないだろうが、国も各自治体も「お願いしたい」「求めたい」ではなく、「こうしろ」でいいのだ。

 スペインから帰国した一家とその一族が成田空港の検疫所で検査を受けた後、結果が出るまで待機をお願いされたものの振り切って沖縄に帰ってしまい、その後陽性が明らかになった。検疫はあくまでも「協力」を「お願い」する立場だからこそ、成田から羽田までの電車(ないしはバス)と羽田→那覇の飛行機に保菌者を自由に行動させることに繋がった。

 政府は中国、韓国、イタリア等からの渡航を禁止する命令をおずおずと時間をかけて出したが、そこにスペインは含まれていなかった。しかも、イタリアに滞在した大阪の男性はドイツを経由して帰ってくるなど用意周到である。今は欧州全土、アメリカからも渡航禁止にし、これらの地域から帰って来た日本人についても2週間隔離すればいい。差別でもなんでもなく、世界中の国がやっている単なる安全対策である。

 上に立つものは「命令」しろ

 他の国は一斉に「海外旅行するんじゃねぇ!」「国境全部封鎖だ!」と、ヤバいと思ったらソッコーやってしまう。それに対して「聞いてないよ~」と国民は思いつつも「チッ、しょーがねぇな」となる。それを破ったら罰金を取られたりヘタすりゃ逮捕されるからだ。

 これにより秩序は保たれる(って、欧米は保たれてないけど)わけであり、お上に従う風潮があり、衛生観念の高い日本では、諸外国よりも封じ込めはラクにできる土壌があるというのに、リーダーが弱腰かつ、国民が「お客様は神様です」意識があるから今の間抜けな状況が続いているのである。2月27日の一斉休校要請については、当初子育てをする親を中心に猛烈なブーイングが寄せられたが、ウイルスの拡散防止の観点だけを考えれば結果はオーライだったのではないか。

 議員と公務員と医療関係者はあくまでも我々が税金や保険で養っているんだから、我々はお客様である。そんなお客様に対して命令とは何事だ! せめて「お願い」にしろ! お前たちに我々を強制する権限などはない。我々の人権の方が重要だし、お前らからの「お願い」にしても我々の親切な「協力」によって成り立っているんだぞ! という意識がある。

 こうした「お願い」が3月末の3連休についに弾けまくった娯楽への欲望解放的行動に繋がったわけだが、これはビジネスの世界ではやってはいけない。

 とにかく上に立つものは、少しでもヤバいと思ったら「やるな」「撤退しろ」「打ち切れ」などと「命令」をしなくてはならないのだ。恐らく多くの組織のリーダーは「お願い」などはしないだろう。「もうあの取引先、金払い悪いから切ろう」と即決したり、「改善をお願いしたい」ではなく「改善してください」と言うのがまともなリーダーの言葉である。

 強い調子で命令されれば、それを違反した者は徹底的に糾弾され、ネットに実名・顔写真が晒される時代である。その恐怖は分かっているだろうから、今こそ国・自治体のリーダーは企業のリーダーと同様にビシッと国民に対して「命令」をした方がいい。今は文句は多数出るだろうが、いずれ「あの時のリーダーシップは見事だった」と言われる日が来る。今回の蔡英文・台湾総統が今評価されているように。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

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