《今回の社長を目指す法則・方程式:チップ・ハース&ダン・ハース「SUCCESs(サクセス)の法則」》
こんにちは、経営者JPの井上です。新型コロナウイルス感染に揺れる日本&世界。読者の皆さまも各社各様にその感染防止策と事業リスク対応に奔走されていらっしゃる只中と思います。この原稿を執筆している2020年3月下旬段階で今後の感染の拡がりについては不透明な状況ですが、ぜひともそれぞれの立場でできうる対応を図り、一刻も早い終息を迎えるようにしたいですね。
そのような中、新年度を迎え、上司の皆さんには事業方針発表であれ、商談であれ、転職活動であれ、人の気持ちが浮き足立ちがちな中、これまで以上にメッセージ力=「相手の心を鷲掴みにする力」が求められる局面が多くなることと思います。そもそも社長になる人たちは、コトバ力が並みではありません。私たちと、何が違うのでしょう?
出張先での、悪夢のような出来事
突然ですが、まず以下のショートストーリーをお読みください。「私」が聞いた友人デーブが遭遇したエピソードです。
《私の友人、デーブの話だ。彼は先日、顧客との重要な打ち合わせのためアトランティックシティに出向いた。仕事を終え、宿泊ホテルの近くのバーで一杯飲むことにした。ちょうど一杯飲み終えたとき、魅力的な女性が近づいてきた。
「もう一杯いかが? ご馳走するわ」
悪い気はしない。「いいね」と答えた。女性はバーコーナーに行き、ドリンクを2杯持ってきた。一杯を自分に、もう一杯をデーブに差し出し、「乾杯」。素敵な夜になりそうだな……。デーブはほくそ笑んでグラスに口をつけた。記憶はそこまで……。
目覚めたとき、デーブはホテルのバスタブの中で氷水に浸かっていた。頭が混乱している。あたりを見回す。ここは? いったいなぜ、こんな状態でいるんだ? さっきの女性は? そのとき、一枚のメモに気が付いた。
「動くな。救急車を呼べ」
バスタブ脇の物置台に携帯が置かれている。デーブはかじかんだ指で911番をプッシュ、交換手が出た。
「いいですか、ゆっくりと気をつけながら、背中に手を回してみてください。腰の辺りからチューブが出ていませんか?」
デーブは恐る恐る、腰の辺りに手を回す。確かに、チューブが突き出ている…!
「落ち着いてください。あなたは腎臓を一つ取られたのです。国際犯罪組織の犯行です。今、救急車がそちらに向かっています。動かずに待っていてください!」》
どうです? なにか不穏なざわざわを感じませんでしたか? そしておそらくあなたは、この都市伝説を忘れられなくなったと思います。グローバルで仕事をされてこられた方は、既にこの話をどこかで(あるいは何度も)友人や知人、取引先などから聞いたことがあるかもしれません。
「記憶に粘る」言葉が持つ6つの法則
私たちは、仕事でもプライベートでも、記憶に張り付いている誰かの発言やメッセージを幾つか持っています。その共通項は何でしょう? 忘却の彼方に過ぎ去ったほとんどの情報や会話になくて、それらの言葉が持っているものは、いったい何でしょう?
相手の心を鷲掴みにする=「記憶に粘る」。一度聞いたら決して忘れないメッセージ、人を行動に駆り立てるような言葉について、ハース兄弟(スタンフォード大学経営学部教授のチップ・ハース、デューク大学社会企業アドバンスメント・センター シニア・フェローのダン・ハース)がその著書『アイデアの力』で、以下の6つの法則を明らかにしました。
【1】単純明快である(Simple)
【2】意外性がある(Unexpected)
【3】具体的である(Concrete)
【4】信頼性がある(Credible)
【5】感情に訴える(Emotional)
【6】物語性(Story)
「単純明快で、意外性があり、具体的で、信頼性があって、感情に訴える物語(Simple Unexpected Concrete Credible Emotional Story)」。頭文字をつなげてSUCCESs(サクセス)の法則とハース兄弟は名付けました。
先ほどの都市伝説は、『アイデアの力』で掴みに紹介されているものに私が少し手を加えた文章です。分かりやすいストーリー、意外性の高い結末、具体的な描写、感情の揺さぶりが含まれていることが分かると思います。
古くは「口裂け女」から「ノストラダムスの大予言」、東日本大震災での「人工地震兵器説」、そして現在の新型コロナ渦での「インフォデミック」まで、こうした影響力を持つメッセージはデマに多くこの法則が含まれているものなので要注意でもあります。
「マスクとトイレットペーパーは中国で同じ材料で作られており、品不足になる」といったデマで買い占めに走る人たち(実際はトイレットペーパーの98%は国内生産で在庫も豊富にある)。「コロナウイルスは熱に弱いので26~27度のお湯を飲めば予防になると武漢のコロナウイルス研究者が発表」というデマ(体温以下の温度で死滅するウイルスが流行するはずがない)。具体的で信頼性がある風な虚言だからこそ私たちは騙されてしまいます。気を付けたいですね。
「ご存知ですか、実は~」に続く話ができるか?
事業方針発表であれば、社員たち、部下たちに、「ふむふむ、おお、なるほど!」と今後の打ち手、動きについて思ってもらいたいですし、転職面接であれば、面接官に、「ほー、ぜひそのご経験について、もっと詳しく聞かせてください!」と言わせたら勝ちです。
いま私は当社の「KEIEISHA TERRACE」上で、ユニークな事業を立ち上げた経営者の方々へのインタビューを行なっているのですが(「イマ、ココ、注目社長!」)、まさに彼らのお話もそうなのですが、事業自体がSUCCESs(サクセス)を含んでいるのですよね。だからこそ、その事業コンセプトが市場、社会に注目され、顧客を獲得し、事業成長を遂げるのだと思います。
さて、あなたの話やプレゼンテーションは、伝えたいことを一言で表しているでしょうか?(=Simple)、聞き手が興味を持つような意外性がありますか?(=Unexpected)、聞き手がイメージできるほど具体的な内容になっていますか?(=Concrete)、相手の信頼を得られるような権威者(ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で言う“社会的証明”)、数値、出典を明記しているでしょうか?(=Credible)、聞き手から共感を得る、感情を揺さぶる内容になっていますか?(=Emotional)、そして伝えようとしていることがストーリーになっていますでしょうか?(=Story)
なかなか6項目全てを満たす言葉やコンセプト、メッセージを作ることは難しいですが、意識することで幾つかを満たすものには大概できることを、実際にやってみて頂けますと感じて頂けることと思います。
かくいう私も、常時意識はしているものの、毎回バチっと揃った内容を作れるなどということは、残念ながらありませんけれども(汗)。しかし、当たった(と思える)ときの嬉しさはありません!その(わずかばかりの回数の…笑)記憶が自分の重い腰をあげさせて、こうした連載や講演、事業策定などへと仕向けてくれているように思います。お互い、頑張りましょう!
ひとつ、私のやり方を披露しますと、折に触れて「ご存知ですか、実は~」を枕詞に話すチャレンジをしてみるとよいですよ。
この後に続く内容が、今から話しかける相手にとって「えっ、そうなんですか?」「本当に?!」「なるほど!」となるような話をできているかどうかが勝負な訳です。これを継続徹底トレーニングいただければ、カリスマ経営者並みのコトバ力が鍛えられること、間違いなし!(と信じてトライしております)。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら