今日から使えるロジカルシンキング

因果関係の有無を見抜くコツ 都合の良いデータには飛びつくな

苅野進

 第24回 相関か因果か 関係の違いを見抜くコツ

 前回は「相関関係と因果関係を取り違えると望む結果を得ることができない」ということをビジネスシーンを想定して説明しました。

・相関関係:同じ傾向を示すだけの関係

・因果関係:「原因と結果」になっている関係

 たとえば、次の散布図から読み取れる「営業部での在籍期間が長くなれば営業成績は高まる」は相関関係です。営業成績が良い人の在籍期間が長いだけで、営業成績の悪い人の在籍期間を長くしても、営業成績は低いままです。

 次の図から読み取れる「販売店への報奨金の金額と売り上げ」は因果関係です。報奨金をモチベーションとして販売店が積極的な営業をかけてくれるからです。

 これらは簡単な例ですが、相関関係を因果関係と誤認すると、企業の業績に影響を及ぼすこともあります。

 体力テストと学力テストに因果関係?

 今回は、因果関係であるかどうかを調べる際のコツについて紹介したいと思います。例として「体力テストと漢字テストの得点」を取り上げてみましょう。体力テストと学力テストの得点は同じ傾向を示すことがよくあります。

 とりあえずこの2つは「相関関係」にはあると言えます。では「因果関係」であるかどうかを調べてみましょう。

 この因果関係があるということは「体力テストの点数を高めれば、漢字テストの得点が高くなる」ということです。シンプルな実験になります。2つの集団AとBを用意して、集団Aは体力を高める対策をしてもらい、集団Bには特に対策をしないことにします。3カ月ほど追跡調査をすれば良いと仮定します。

 ここで重要なのは、集団A=もともと体力テストが高い人、集団B=もともと体力テストの得点が低い人、という分け方にしないことです。

 結論から言えば、ここには「反復練習に対する耐性」という第3の要素が働いています。反復練習を嫌がらない性格ならば体力テストの点数が高く、同時に漢字テストの得点も高いのです。体力が漢字テストの得点を高めているわけではなく、その逆でもありません。

 よって、そもそも体力テストの得点が高い人を集団Aとしたら、この集団に体力テストの対策をした実験結果が「漢字テストの点数が高くなった」というものであっても、それが「体力テスト対策」のおかげなのか、別の要素である「反復練習に対する耐性」なのかがわからなくなります。

 ゆえに、集団AとBはそもそも体力テストの点が高い人と低い人がランダムに含まれていなくてはならないのです。集団Aに体力テストの高い人も低い人も含まれていれば、そこには「反復テストに対する耐性」が高い人も低い人も含まれていることになります。その人たち全員が「体力テスト対策」によって、漢字テストの得点が高まったという実験結果を得られたのならば、体力テストと漢字テストには因果関係があると言えるのです。

 ゲーム機の保有と学力に因果関係?

 「ゲーム機を持っている生徒と持っていない生徒を追跡した結果、ゲーム機をもっていない生徒の方が成績が高かった。だからゲーム機と学力には因果関係がある。」

 よくみられる命題ですね。ゲーム機を持っていない生徒は、「その保護者が教育熱心」という本当の原因要素があるのかもしれません。よってゲーム機を持っていた生徒からゲーム機を取り上げたとしても、「保護者が教育熱心である」という原因自体は実現していないので、成績が高まるとは限らないのです。ゲーム機が原因となっているのかどうかを調べるには、集団AとB にもともとゲーム機を持っている人も持っていない人もランダムに振り分けておく必要があるのです。

 「条件を揃える」は小学生で習う

 ある要因が原因として働いているのかどうかを調べるには、その要素以外は条件が揃っていないといけません。小学生のロジカルシンキングでは「対照実験」というテーマで取り扱われます。有名な「インゲンマメの発芽条件を見つけ出す問題」にはみなさんも取り組んだことがあるかもしれません。

 「原因が存在しなかったとしたら?」を考える

 わたしたちの身の回りには相関関係がたくさんあふれています。そして、わたしたちはデータを都合よく読み取る傾向があります。ビジネスの世界に身を置いていれば、つねに「良い打ち手はないか?」と悩んでいるようなものですから、因果関係がありそうな都合のよいデータを見たら飛びつきたくなるものです。数字・グラフは信頼できるものだという意識は強いのでなおさらでしょう。

 まずは「原因が存在しなかったとしても結果を得られるのではないか?」という疑いの目を持つことです。これが、実際に因果関係であるかどうかを調べる際のコツです。

 「疑い」というとネガティブに捉える人も多いのですが、ロジカルシンキングとほぼ同義のものとして「クリティカルシンキング」という言葉があるようにクリティカルつまり批判的であることは都合の良い偏った解釈を避けるために有効です。

 「コンビニで良い陳列場所を得られれば売れる」というのは本当か? 「良い陳列場所を得る」という原因がなくても「売れている」という商品はないのか? あるのならそれが「売れる」ための本当の原因なのではないか? 限られたリソースを「本当の原因」へと集中させることで、私たちは望む結果を得られるようになるのです。

 ゴルフをしたら経営者になれる?

 個人のスキルについても同じような見方が大切です。他人を見て「英語ができれば海外で活躍できる」と考えるのは早計です。「英語ができる」という原因を一旦取り除いてみると、英語が苦手でも海外で活躍している人はいます。そこで一歩踏み込んで「彼らが海外で活躍できている要因はなにか?」を探ることができればより効果的な自己研鑽に繋がるでしょう。

 かつてとある大学の経営学部が「経営者になるために必要な授業」として「ゴルフ」を教えていました。経営者のゴルフプレー率はたしかに高く、相関があるといえます。しかしゴルフをしたら経営者になるのではありませんね。経営者になったらゴルフをするのです。

 前回、データの関係性を誤認する原因として、3つの落とし穴を紹介しました。

3つの落とし穴

(1)たまたま同じ傾向があるだけ

(2)原因と結果を逆にとらえている

(3)他に原因となる要素がある

 この(1)(2)(3)を使ってミスリードを誘う商品もあふれています。こういった落とし穴を見抜き、できれば悪用しないようにしてほしいと願うばかりです。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら