《今回の社長を目指す法則・方程式:中村天風 「観念要素の更改」》
こんにちは、経営者JPの井上です。この原稿を執筆している4月上旬現在、新型コロナの感染拡大は続いており、おそらく少なくともGW頃までは感染リスクへの厳しい対応が迫られそうな状況です。多くの企業が新年度を迎えながら、思うように事業や行事を行うことができません。上司の皆さんも不透明な事業環境や職場状況にストレスを抱えていらっしゃるかもしれません。しかし、状況を嘆いたり悲観に暮れたりしていても前には進めませんよね。今回はこのような状況に打ち勝つ心の持ち方を説いた、中村天風氏に注目してみたいと思います。
戦後に国を動かした大物達の師、中村天風氏
「ごきげんよう、天風です。さて、みなさんがこれから聞かれる話は、そこらで学者が説いている、ここらで識者が書いてるというものじゃない。私、天風自身が、長い人生の中で体験したものをそのまま率直にあなた方に移す話なんであります」(『心に成功の炎を』)
まるでその場にいらっしゃる師の説法を聞くような、時に講談・落語のような語り口調でお話をされる天風氏の書。これに一時期どっぷり浸かっていた時期が、私にもありました。
1990年代後半、30歳前後の時期、数年間、私はリクルートの新規事業に携わっており、一方では既存事業の企画職・編集職も兼務。出口の見えない暗澹とした気持ちを抱えながら、当時はまだ誰も形にしたことのないネットメディアの設計・立ち上げに従事していました。もともと楽観性の高い性格なのですが、当時は状況についてネガティブな気持ちを抱いたり、そのような状況に置かれていることに恨みつらみを抱いたりもしていたような記憶があります。時代背景的にもバブル崩壊後の閉塞感もあったことが、それに輪を掛ける要因にもなっていたと思います。そのような鬱屈とした時期に出逢ったのが、中村天風氏の書籍でした。
中村天風氏(1876-1968)は軍事探偵から戦後辻説法を始め、その後自身の会を立ち上げ、政界財界からスポーツ会などまでの大物の師として生きた、その人生自体が小説のような人です。天風氏の考えや活動に影響を受けた人には東郷平八郎、原敬、宇野千代、双葉山、広岡達朗、王貞治、松下幸之助、稲盛和夫が名を列ね、近年では松岡修造さんや大谷翔平選手が天風氏の書を座右の書としていると注目もされました。
健康と運命とを完全にする「心身統一法」
天風氏が説くのは、究極の積極思考、絶対的な積極的精神態度です。その中心は「心身統一法」からなり、この心身統一法によって、体力、胆力、判断力、断行力、精力、能力の6つの力の内容量を増やすことで「健康と運命とを完全にする生命要素をつくる」のだと説いています。
要するに天風氏は、明るく積極的な心を持つことで、活き活きと健康に長生きし、活躍できることを説いたのです。これに国を動かす大物政財界人・アスリート・名優達がこぞって惹かれ、門下入りし学び、その学びを活かして活躍した。なんとも惹きつけられる話ではないですか!
「観念要素の更改」法とは
その心身統一法を構成する具体的な方法論の一つに、「観念要素の更改」法があります。「観念要素の更改」には連想暗示、命令暗示、断定暗示の3つの暗示法があると天風氏はいいます。かいつまんでそれぞれをご紹介しますと、
・連想暗示=寝入りばなにまどろんでいるときに、嫌な気持ちを持ち込まず、楽しい気持ちで寝る
・命令暗示=鏡に向かい姿勢を天井に伸ばし「お前は〇〇になる!」と潜在意識に命令系で唱える
・断定暗示=鏡に向かい姿勢を天井に伸ばし「私は〇〇になった!」と潜在意識に過去形で唱える
これを毎日、毎晩、実践することで、潜在意識を前向きなものに上書きしてしまえ!ということなのです。心理学の知見として言われていることに、「人の潜在意識は、否定語を理解できない」(=「失敗しないぞ!」「負けないぞ!」と唱えると、「失敗」「負け」という語を拾ってしまう)、「~~したくない!というほど、そうしてしまう」(=「シロクマを思い浮かべないでください」と言われるとき、頭の中には必ずシロクマがいる)、「過去形でいうことで、未完了のことでも既に完了したことと思い込む」というような習性があります。観念要素の更改法は、見事にこれらに合致した方法となっています。
潜在意識に良い思考パターンを書き込むことの重要さ
確かに、私たちは自分たちの日々の思考パターンからその性格や行動が成り立っており、平均的な人間の頭の中では一日に1万語以上の語句・文章が巡っていると言われています。天風氏はここにアプローチしたのです。EQなどでもこの思考傾向を計測することができ、過去を悔やみがちなのか否か、未来について楽観的か、不透明さに不安を抱くのか。前向き思考か、批評批判的・否定的思考かなど、私たちもエグゼクティブコーチやエグゼクティブサーチ(経営幹部転職支援)などでアセスメントしたり、思考変革のアドバイスや支援を行っています。
紙幅の関係で詳細の経緯は今回書けませんが、冒頭にご紹介した時期の私も、結果として天風氏の言葉、考え方、具体的な方法論に触れ、あの時期を乗り越え強くなれたように感じています。書籍での氏の語りにコーチングを受けていたような気がします。凄いですね。読んでいるだけでそういった影響を及ぼすのですから、生存中のライブでの講話はどのくらい聴講生たちの心に響く、刺さるものだったのでしょう。
「修養ばかりでなく、何を志すときでも、自己向上を目的とする。そして、その目的とする自己向上は、ただ単に自分の幸福だけのためにするんじゃない。自他の幸福のためにするんだ、という広い意味を忘れてはいけない。そうしてはじめて、自分の勉強にも努力にも、非常なゾクゾクするような力が湧いてくるのだ。(中略)結局、『観念要素の更改』 を毎晩毎晩やりなさい。そうすれば、ぐんぐんそういう人間になれるものだから。健康をよくするのも、事業をよくするのも、常に、世のために、自分と同じ幸福を手広く分けてあげようというつもりになることだ。さあ!一緒についてきなさい!」(『運命を拓く』)
潜在意識に良い思考パターン、ポジティブな考え方、積極的な姿勢を書き込むことの重要さを、私は若い頃に天風氏から知りました。元々の性格もあるとは思いますが、天風氏の考えを学んだことでそれが強化されたのは間違いないと思います。それが自分の日常や人生に非常に前向きで明るい影響を及ぼしてくださっています。できれば存命中にお会いしてみたかった人の一人です。
■力の踊句(しょうく)
私は、力だ。
力の結晶だ。
何ものにも打克つ力の結晶だ。
だから何ものにも負けないのだ。
病にも、運命にも、
否、あらゆるすべてのものに打克つ力だ。
そうだ!
強い、強い、力の結晶だ。
■誓詞
今日一日
怒らず 怖れず 悲しまず
正直 親切 愉快に
力と 勇気と 信念とをもって
自己の人生に対する責務を果たし
恒に平和と愛とを失わざる
立派な人間として生きることを
自分自身の厳かな誓いとする。
その後、巡り巡って、いま、私は上司や経営の立場にある皆さんの人材側面・組織側面・経営側面のご支援をさせていただくビジネスを営んでいます。こうした局面で皆さんが、今回ご紹介したような中村天風氏の積極人生を、一人でも多く体現され、この難局を乗り越えてくださることの、微力ながらのお手伝いに尽力してまいります。
上司の皆さんの心の持ちようで、状況状態は180度変わります。ぜひ、「積極人生」の先導者として、この状況局面を乗り越えるリーダーシップを発揮頂ければと願っております。頑張りましょう!
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら