《今回の社長を目指す法則・方程式:ロバート・アイガー「真のリーダーシップに必要な10の原則」》
こんにちは、経営者JPの井上です。日本と世界を一変させた新型コロナ禍。その影響下、上司の皆さんも各社各様の対応に追われる日々を過ごして来られ、いま、強い閉塞感をお感じの方が多いのではないかと思います。今回は、これを吹き飛ばして、大きな仕掛け、世界にインパクトをもたらすようなビジネスに目を向けてみたいと思います。それに格好の経営者がいます。それは、大の映画好きでもある私がこの10年、もっとも注目してきた数名の経営者の一人、この2月下旬にウォルト・ディズニー社の社長を退任したロバート(ボブ)・アイガー氏(2021年12月末までの期限付きで取締役会長に就任)です。
164億ドル(約1兆8000億円)の投資で360億ドルのリターン
2005年のCEO就任後、15年間でこれだけディズニーを変えたアイガー氏の功績は凄まじいものがあります。2006年にピクサー・アニメーション・スタジオを買収し、2009年にマーベル・コミックを、2012年にはルーカスフィルムを買収。さらに2018年に20世紀フォックス(21世紀フォックス)まで買収してしまいました。
その買収額は、ピクサー74億ドル(約8000億円)、マーベル40億ドル(約4300億円)、ルーカスフィルムも40億ドル前後。ここまでで164億ドルというとてつもない額を投じていますが、そこから現在までに稼いだ興行収入は360億ドル(約4兆円)!巨額投資を補って余りある、十分過ぎるリターンを得ているのです。
ディズニーは2019年に興行収入10億ドル(約1100億円)超えのヒット作を4作出しています。「ライオンキング」「アベンジャーズ/エンドゲーム」「アナと雪の女王2」「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」の4本です。
「ライオンキング」と「アナと雪の女王2」はディズニー作品だと、皆さん当然のごとく認識するでしょう。しかし、「アベンジャーズ」と「スターウォーズ」も今やディズニー映画なのです。更には、これからは20世紀フォックス(21世紀フォックス)作品も入ってくるので(買収金額は710億ドル(約8兆円))、メジャー作品の占有率は圧倒的なものとなるでしょう。データによるとディズニー映画は米国映画市場の1/3を占めるようになっており、世界全体での年間興行収入は100億ドル(約1兆円)とのことです。
奇しくもこの新型コロナ感染拡大で世界的に興行延期・中止を余儀なくされている映画業界の苦境はディズニー社をも襲っています。これに乗じてアップルが買収するのではないかという噂も出回っていますが、さてどうなるでしょう。
買収成功のための真の秘訣
話をディズニーの事業展開に戻しましょう。アイガー氏がディズニーを《本家ディズニー作品》にこだわっていたら、これだけの業績拡大(就任時の2005年に利益25億ドル(約2700億円)から2019年に104億ドル(約1兆1200億円)へ、同期間中に時価総額は480億ドル(約5兆円)から2300億ドル(約25兆円)へと、それぞれ4倍、5倍にしています)はなし得なかったのは間違いありません。
<夢・冒険・想像力>というウォルト・ディズニーが大切にしたものをコアとしてブラさず、しかし自スタジオ作品に固執せず、というアイガー氏の経営・事業展開の姿勢が、こうしたことを成し遂げたのです。これ、ディズニーという歴史的なブランドを経営者として背負い、その中でステークホルダーからのプレッシャーも並大抵のものではない中で、なかなかできないチャレンジだと思います。
買収した各社の制作姿勢を買収後も尊重し、「らしさ」を保ったまま制作できていることも、こうした最近の各社のメガヒットにつながっていると思われます。2019年末にスタートした動画配信サービス「ディズニー+」も好調に立ち上がっていると報道されています。
アイガー氏がディズニーCEO就任後に最初に仕掛けたピクサーの買収に際して、こんなことを述べています。
「自分たちが本当のところ何を手に入れるのかがよくわからずに買収を行ってしまう企業は多い。買収は、物理的な資産や製造設備や知的財産を手に入れるためだと彼らは思っている(確かに、産業によってはその考えが当てはまる場合もなくはない)。だがほとんどの場合は、買収によって手に入れるのはそこにいる人材だ。クリエイティブな産業では、そこにこそ本当の価値がある。ピクサーをピクサーたらしめている文化を守らなければ、ディズニーがピクサーを買収する意味がないのだと、私はジョン(※ジョン・ラセター。ピクサー社の買収当時、チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO))にしかと確約した。」(『ディズニーCEOが実践する10の原則』ロバート・アイガー著/早川書房)
この考えを退任時まで一貫して守ったからこそ、強烈な作品個性とスタジオ・オーナーを持つ各社の買収は成功し、買収後に「らしさ」を失わず素晴らしい作品がリリースされ、結果として莫大な収益をもたらした=買収が大成功へと結実したのです。
とてつもない経営成功を支えた「10の原則」
アイガー氏はなぜ、こんなとてつもない経営ができたのでしょう? 自伝である近著『ディズニーCEOが実践する10の原則』によれば、アイガー氏は自身で「私が学んだことを振り返ってみると、真の10のリーダーシップに必要な10の原則が浮かび上がってくる。私を助けてくれたこれらの原則」と述懐しています。
- 前向きであること
- 勇気を持つこと
- 集中すること
- 決断すること
- 好奇心を持つこと
- 公平であること
- 思慮深いこと
- 自然体であること
- 常に最高を追求すること
- 誠実であること
こうして並べてしまうと、聞けば当たり前のような、それぞれは平凡な原則ですが、アイガーはこの10原則で、スティーブ・ジョブズを、ジョージ・ルーカスを口説き落として、ピクサーやルーカスフィルムを手に入れたのです。
この10の原則についてはショートレビューがされており、端的ながら腑に落ちますので、ご興味ある方は本書をご覧頂ければと思います。この10の原則の解説もさることながら、『ディズニーCEOが実践する10の原則』には付録の章が12ページあり、ここを読むだけで上司の皆さんが本書を購入して十分お釣りがきます(早川書房さんの宣伝みたいになってしまいますが)。私がピンと来たものをいくつか抜粋ご紹介しますと…。
■卓越した仕事をすることと、人を気遣うことは、両立できる。完璧を目指しながらも、物だけでなく人を気にかけることを忘れてはいけない
■リーダーが自分の直感を信じ、経緯を持って人と接していれば、その人が導く組織もまた同じ価値観を体現するようになる
■経験よりも能力を評価・信頼し、その社員が難なくできると思う以上の力量を必要とする役割を与えよう
■無難にやりすごすことを目標にしてはいけない。偉大な何かを創り出すことを目標にしてほしい
■企業の評判は、そこで働く人々の行動と、その企業が生み出すプロダクトの品質がすべて積み重なったものだ。いついかなる時でも社員とプロダクトに誠実さを求めなければならない
■リーダーは優先順位をはっきりと繰り返し伝えなければならない。優先順位がはっきりと伝わらなければ、周りの人も何を優先したらいいかがわからなくなる。すると、時間と労力と資本が無駄に使われてしまう
■もし何かが『違う』と感じたら、それはあなたにとっては正しい道ではないのだろう
■世間からいくら権力者だと言われたり重要人物だと持ち上げられても、自分が何者かをしっかりと持っていなければいけない。自分を過信しはじめ、肩書きに頼るようになったら、自分を見失った印だと思った方がいい
もしあなたがハリウッドのメジャータイトルファンなら、この10年ほどでのピクサー作品やスターウォーズ、マーベルのアベンジャーズシリーズなどの企画・製作の舞台裏にワクワクする数時間を本書で過ごすことができるでしょう(個人的にはアイガー氏がABC時代に「ツイン・ピークス」の一連のプロデュースに関わっていたこと、その放映やデビッド・リンチ監督との製作秘話~ごたごた~の部分にも相当惹き込まれました)
今回の締めに、読者上司の皆さんにぜひこれをやっていただければリーダーとして効果絶大という、アイガー氏の教えを掲げます。
「リーダーの仕事はたいてい複雑で、多大な集中力とエネルギーが必要とされるが、次のような単純なメッセージならわかりやすい。《私たちの目的地はここ。そこにたどり着く方法はこれ》」
ロバート・アイガー氏が築き上げたここまでのメジャースタジオ買収の成功とデジタル配信事業への進出を、新社長のチャペック氏がどう継承していくのか(いけるのか)。そしてオーナーシップという意味ではこの新型コロナに揺れる映画産業、米国経済の動静の中で、本当にアップル傘下入りなどが起こるのか。映画ファンとしても、経営者としても、非常に興味深く、目が離せません。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら