ブランドウォッチング

ローソン 衝撃的すぎる新PBブランディングは本当に魅力的か

秋月涼佑

 ネットが騒然としています。ローソンの新PB(プライベートブランド)ブランディング戦略で600品目以上のプライベートブランド商品がジワジワと新パッケージに切り替わっているのです。ベージュやグレーを基調にした色合いに繊細な文字で統一された新パッケージ、一品一品の主張は従来よりかなり抑えられているものの、棚に並ぶと一面が同じ印象で埋め尽くされる分、かなり存在感があります

ネットで賛否が飛び交うローソンPBの新ブランディング
並ぶと壮観
視認性には課題も
納豆よりNATTOが目立つ
ネットでは補充の際間違えてしまうと、アルバイトさんの声も

 ローソンの2兆2961億円の売上(国内2019年度)と、1万4444店(2020年2月末現在)の影響力を考えれば、もはや大事件というわけで、「かわいい」「オシャレ」という肯定的な意見と、「見にくい」「単調」という否定的意見で賛否が飛び交う事態となっています。

 「ついにここまできたか」

 日頃、飛行機のような大きなものからカップ麺のような小さなものまで、それぞれの商品やサービスに込められたブランディング戦略を解説論考する当連載としても、いかにPBとは言え一気に600品目を超えるリニューアルとなれば度肝を抜かれました。 

 でも日本におけるメーカーと流通企業の力関係の歴史を振り返れば今回のリニューアルは大胆ではあるけれど、ある意味順目でもあるのです。つまり「ついにここまできたか」とも言えるのです。

 かつて昭和の時代であれば商品開発のイニシアチブは明らかにメーカー側が握っていました。近所のお店と言えば、おしなべて小さな個人経営のお店やせいぜい地場のチェーン店で、資本も開発力も巨大なのはメーカー側。そんな時代はメーカーが推している商品を中心に棚が構成され、コカ・コーラにかっぱえびせん、雪印のネオソフトに花王のメリットと、「大定番」商品が営々と売られていました。

 潮目が変わったのは1974(昭和49)年に東京豊洲にセブンイレブン1号店が歴史的オープンをして以降のコンビニエンスストアの隆盛です。近所の便利として生活者の支持を受けながら、年々すさまじい進化を遂げてきたコンビニエンスストアは今や企業規模でもメーカーをしのぎ、商品開発の主導権を握るようになりました。コンビニバイヤーの力は絶大で、採用されることで地方の小さなメーカーでも飛躍的に売上を伸ばせる反面、かつて市場の王者であったナショナルブランドでさえ棚落ちの恐怖に直面せざるを得なくなり千本ノックのごとき新商品提案攻勢をかけざるを得なくなったのです。

 生活者に支持されてきたコンビニの売り場

 そういう時代の変遷の中で、大手コンビニがメーカーに要求するのはとにもかくにも自コンビニブランドの差別化に寄与する「オリジナル商品」。つまりそのコンビニでしか売らない専売品です。メーカー側からすれば、かつてのように全国同一商品を一気通貫できれば収益面・効率面でこれに勝ることはありませんが、大手コンビニの一角に採用されなければその時点でシェアを大きく落とすわけですから、こたえざるを得ません。その結果、コンビニ店頭は新フレーバーやタイアップ商品の新商品であふれるようなったというわけです。 

 この状況は正直メーカーにとって辛い部分があるのですが、常に新製品にあふれ提案性豊かなコンビニの売り場は何より生活者に支持されてきました。

 「ローソン」ブランドにブランド価値を貯める

 ブランディング戦略を考えるとき「ブランドの価値を貯める」という言い方をします。今回のローソンのPB戦略の建付けであればブランドの価値はほとんど「ローソン」に貯まります。つまり今回の取り組みからは、競争激しいコンビニ市場で「ローソン」ブランド自体をより差別化され魅力的なものにしたいという企業としての強い意志を感じると言えます。

 逆に言えば、メーカーは差し替え可能な存在(ティア2)となり、交渉上はさらに不利な立場になる他ないとも言えます。 

 大胆な戦略の勝算はどこに

 さて肝心なのは果たして生活者はこの取り組みを支持するのだろうか? ということです。

 もちろんローソンほどに日々お客の意向を知れる立場の存在はいませんから、ノープランでこれだけの策に出てきたとは思えません。ひとつのヒントは600品目を超えるとはいえ対象商品が比較的ベーシックな商品であるということです。例えば本連載でもローソンが取り組んできた商品企画の好事例として「悪魔のおにぎり」を紹介しましたが、今まで通り、新鮮な提案性ある商品はどんどん導入しつつ、定番の冷凍食品や牛乳などの基本商品はローソンブランドを信じて買ってもらおうという判断であるのだと思われます。

 果たして生活者はこの方向を支持するだろうか

 一方で懸念がないとは思えません。そもそもネットで賛否が沸き上がるのは良いことでしょうか。少なくともネットで指摘されているような視認性の悪さはやはり不親切な印象を感じます。例えば納豆がNATTOと表記されています。確かに英文字表記はカッコよく見えるのですが、おばあちゃん読めるかな?と正直心配になります。コンビニが社会のインフラとまで見なされるポジションにまで至った現状を考えると、もう少しユニバーサルデザインの配慮があっても良いように思います。 

 そしてデザインテイストです。商品パッケージの開発でも多くの実績を誇る佐藤オオキさん率いるnendoのプロデュースですから良いデザインであることは間違いないと思いますが、ちょっと整然とし過ぎてはいないでしょうか。さすが建築のバックグラウンドをもつだけに都市計画のように合理的で機能的ですが、ちょっと無味乾燥には感じてしまいます。例えば東京で言えば都庁のある都市計画の街西新宿はお世辞にも人気があると言えません。

 典型的にはドン・キホーテさんのアプローチですが、生活者は売り場に意外性や発見を求め、怜悧さよりは熱量を求めているように思います。例えば、コンビニ業態が成功した一因に近代的な合理性の真逆をいくような「おでん」や「肉まん」、カップ麺用のポットが寄与したと分析したらどうでしょう。今回ネット上の否定的意見からはお気に入りの雑多だけど魅力的な下町がいきなり近代的な高層ビル街に再開発されてしまうような寂しさを感じている向きもあるのではないでしょうか。

 豊穣な生態系は再開発で死に絶えるのか

 かつてメーカーに製品の主導権があって商品サイクルがもっと長かった頃、パッケージデザインを手掛けるデザイナーは一文字一文字のロゴ書体を自分の手で書き起こし、特色インクの調合を依頼し、いざ製品化の段になれば地方の印刷工場まで出張校正に出かけて深夜まで校正立ち合いを行ったものです。今となっては贅沢にも感じる取り組みですが、やはり生活者に豊穣な何かを届けてくれていたようには思います。

 本当に「麦茶」と「ふわとろフレンチトースト」が同じパッケージで良いんでしょうか。答えは所詮生活者の日々の購買行動が投票のようなものだと思いますし、支持されなければ早々にリニューアルされる他ないのですから答え合わせは簡単ですが、気になってしまうことは確かなのです。

 何よりこの際、メーカーさんには存在意義をかけてPBブランディングをひっくり返すような魅力ある商品提案に奮起して欲しいと思います。今回SNSの反応を見る限り新PBブランディングに否定的な声も非常に大きく、逆提案の好機ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 追記:本稿入稿後校正の段階で、ローソン社長の竹増貞信氏が、早速一部パッケージを7月には変更していくとネットメディアのインタビューに答えていた

 「改(あらた)むるに憚(はばか)ることなかれ」

 さすがスピード感ある決断と評価したい。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら