ビジネストラブル撃退道

悩みを抱えた同僚、周囲はどう対応すべきか 職場でのメンタルケアを考える

中川淳一郎

 今回はメンタルケアについて。周囲の人が取るべき対応についてである。精神的な悩みを抱えている人は医師の助言に従ってほしい。私はそちら方面の専門家ではないので、不確かなことは言えない。

 出勤に怖気づいてしまう

 同僚が突然半休や有休が多くなった結果、周囲にしわ寄せが来ることがある。どうやら精神的な問題があり、心療内科に通っているようだ。朝起きたら定時に会社に行きたいと思うもどうしても布団から出られず、出られたとしても駅に大勢の人がいる様子を見るともう怖気づいてしまう。電車がすく時間だったら乗れるかもしれない、と一旦自宅に戻り、半休の申請をする。

 そして時刻は12時10分。今出なくては13時の午後の出勤に間に合わない…。それでも変わらず体は動かず再び会社に電話して「全休にしてください」となる。

 こうしたことが度々続くようになると、周囲の人々は「○○さんはいつも休んでばかりで私と同じ給料をもらっていてズルい」という反応を示すようになる。そして同僚でランチをしている時などはこの話題となり「やっぱそう思っていた?」「あれ、不公平だよね」といった話になり、かくしてこの心療内科通いの従業員は職場で腫れ物に触る扱いをされ、ハブにされる。

 「私は不要なんだ」と思い込んでしまう

 無事出勤できた日も周囲が妙によそよそしい。こうした日々が続くとこの人は「私は不要なんだ」と思うようになり、ますます半休・全休が続く。いつしか同僚は上司に「あの人があそこまで休んで私達が忙しくなるのは正直フェアじゃない。あの人を別の閑職の部署に異動させるか解雇して、新しい人を入れてください」などと訴えるようになる。

 この段階でこの休みがちだった従業員は入院しており、その入院先の病院に上司がやってきて、「もうキミのことは守れない。来月末で解雇せざるを得ない。キミの能力は買っているのだが…」と言う。解雇された後の就職活動はうまくいかず、結局彼女は解雇から5カ月後に自殺した。

 これはすべて私の知人が体験したことである。あれから13年が経つ。多分、同僚も精神の病がどれだけ苦しいかが分かっていなかったのだろう。骨折して松葉杖をついている、といった状況であれば目に見える身体的な苦しさだけに、配慮をする気持ちになる。だが、精神の場合は、表情がこわばっているといったこと以外、その辛さが外からは判別しづらいのだ。

 だからまずはこの辛さを理解したうえで、「この状況でもなんとか頑張るしかないな」と思うしかない。「いやいや、なんでサボっている人の分までこちらは働かなくてはいけないのですか?」と言うのであれば、まぁ、「あなたは人としての優しさがないろくでなしですね。自分が同じ状況になった時に周囲の理解を受けられず、苦しんでくださいね」と突き放したくなる。

 あとはオレがなんとかする

 自分がこうした気持ちを持てるようになったのも、実際に身近な人が自殺したから、というのはあるが、2人だけの組織を経営しているからだろう。誰かに文句を言っても仕方なく、仕事はとにかく終わらせなければいけないのだ。仮に弊社の従業員・Y嬢がうつ病になって仕事ができなくなったとしよう。

 その場合、彼女には「しょうがないよ。まぁ、治してくれ。取りあえず、まとめるのも大変だとは思うけど、今やっている仕事を全部教えて。そして関係者の連絡先をすべて教えて。あとはオレがなんとかしとくので」とだけ言うだろう。そこで、全関係者に連絡を取り、どのようにすれば良いかを聞く。

「なるほど、Y嬢がいないことは信義に反するので切りたい、と。はい、分かりました。ならば切ってください」

「私が代わりにやればいいのですね、分かりました。ちょっと慣れるまで時間かかるかもしれませんが、やりますね」

「彼女の復帰まで待って下さるとのこと、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。私でできることもあると思いますのでいつでも連絡ください」

 まぁ、この3つのパターンになるだろう。2つ目の答えをした場合は、自分が労働時間を増やせばなんとかなるだろうし、誰か信用できるフリーランスを雇えばなんとかなる。

 きれいごとを言っているのではない

 それに、医療、インフラ、食べ物、警察・消防などの仕事以外は誰も死なないのだ。自分自身そういった仕事をしているだけに、仮に仕事でミスをしたら迷惑はかけるかもしれないが、誰も死なない。だから、仕事に穴を開けてしまったとしても、そこは謝るしかないし、それで切られるのも仕方がない。ただ、誰も死なない仕事なのに気に病んだ末に自殺してしまったら元も子もない。

 だからこそ、同僚で精神を病んだ人がいた場合はため息をついたり怒りを露わにするのではなく、「この人がいないでも仕事をまわせるように組織で対処しよう」と考えてほしいのである。そして、できれば「あの人が復帰した後もやさしく迎え入れて歓迎しよう」と考えてほしい。きれいごとを言ってるように聞こえるだろうが、人が死ぬとそういった気持ちになるものですよ。所詮、仕事なんて大事な人の命に比べればどうでもいいんですよ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら