第31回 Netflixをヒントに「セールス戦略」の重要性を学ぶ
私は経営コンサルタントとしての仕事は離れていますが、現在も新規ビジネスについてのアドバイスを求められることは少なくありません。「こんな製品のニーズはあるだろうか?」「こんなサービスはウケると思いますか?」という具合です。昔も今も成功する可能性を感じないのは、「セールス」を考えていないものです。つまり「良い製品」や「今までにない製品」をつくりさえすればひとりでに売れると考えている計画のことです。
逆に、セールスに力を入れた企業がその知見を活かした自前製品に進出するとかなりの確率で成功しています。
読者のみなさんも「良い製品」を思いついて、新規事業提案や起業を検討されることがあるかと思います。今回は製品自体に加えて「セールス」についてのプランをしっかりと考えていただきたいと考えて今回の記事を書いています。
「死んでいる」商品をも売り物に変えるNetflixの力
コロナ自粛による「巣ごもり需要」でUber Eatsと並んで話題になっていたのがNetflixではないでしょうか。スマホ、パソコン、テレビで映画やオリジナル番組を月額1000円程度で好きな時に楽しめる動画配信サービスです。みなさんの周りでも韓国ドラマ「愛の不時着」などにハマったという方は一人や二人ではないはずです。
動画配信サービスはHuluなど数多く存在します。
観る側からすると、これらのサービスは、
・見たいと思った番組が揃っている
・サイトが面白い番組を提案してくれる
という2点において好評を得ています。ただ、どのサービスも価格が似たり寄ったりである現状では、この2点はNetflixの売りというよりも、このビジネス の「重要購買決定要因(KBF=Key Buying Factor)」であり、「成功要因(KSF=Key Success Factor)」であると言えるでしょう。
有料会員数において現状では独走状態のNetflixは、この2つが優れているということです。
・コンテンツを揃える仕入れの力
・コンテンツを効率的に販売する力
ここで注目したいのは、「コンテンツを制作する力」ではありません。今でこそオリジナル作品が話題のNetflixですが、特筆すべきはその「販売する力」なのです。
Netflixは非常に高度なレコメンデーション、つまりおすすめ機能により顧客満足度を高めています。視聴の7割から8割はNetflixからのおすすめにより始まっているといいます。この高度なデータ収集・分析能力を源泉として非常に高度な「売る力」を保持しているのです。レンタルショップでは見向きもされなかったり、気づかれなかったりする商材を顧客データの分析により提案することで再び販売できるようにしているのです。
映画などの番組の作り手の技術はもちろん大事ですし、表舞台で目立つ部分ではあるのですが、「インターネット」の世界で顧客に届ける力はもっていません。そこでNetflixがセールスを代行していると言えるのです。NetflixはレンタルショップやDVD販売という観点では「死んでいる」商品を売り物に変える力をもっています。
「いかにして顧客に届けるか」を見落としがち
「良い製品」のビジネスアイデアは多く目にするのですが、これらのような「バックヤード」つまり「管理部門」や「販売」といった支える部門をブラッシュアップする余地はまだまだ見落とされがちなのです。Netflixのように「販売代行」ビジネスはもちろんですが、「新製品」のアイデアをいかにして顧客に届けるのかについてまで考えておかなければ、「なんだかわからないけれど売れなかった」という事態に陥ることでしょう。HPを作成しておけば、発売日から注文が入りまくるということはないのです。
スタジオジブリの名作として名高い「天空の城ラピュタ」は興行収入11億円ほどしかありませんが、2013年の「風立ちぬ」はその10倍以上の120億円です。1997年の「もののけ姫」で確立した「メディア戦略チーム」の力、つまりいかに「売る力」がモノを言うかということがわかりますね。
これは規模は違うもののZOZOTOWNも似たようなビジネスです。
「洋服を作る」のではなく、「売る」ことで、洋服を作るメーカーとの協業を果たしているのです。洋服も「良い服を作る」だけでは、売ることはできません。その点で、「顧客データ」を活用した販売戦略を持ったZOZOが活躍できる部分があるのです。売ってもらえるのであれば、多くのメーカーが集まりますね。それがさらに顧客への訴求ポイントとなる好循環になるのです。
「売った実績」が「企画力」の源泉になる
すでに制作された作品をNetflixに「卸す」理由は、ただ一つです。自分たちよりも売ってくれるからです。つまり、「自分たちで売ることができる」コンテンツホルダーは、Netflixを頼りません。わかりやすい例では、ディズニーは自前でサービスを始めています。スタジオジブリは日本、アメリカではかなりの知名度ですので不参加、しかしそれ以外の国々ではNetflixの力を借りる必要があるので参加しています。このように、Netflixも有力コンテンツホルダーの自前サービスとのせめぎ合いが始まっています。
このような競争が始まると、やはり「コンテンツの確保」で一番確実なのは自前制作です。Netflixは「ハウスオブカード」というドラマの大成功をはじめとして、数々のオリジナル番組を作っています。ストリーミングサービスの成功による利益をコンテンツ調達・制作へと潤沢につぎ込んでいるのです。
いわば番組のセレクトショップであったNetflixが「販売」で培った知見を、オリジナルブランド、プライベートブランドに活かそうという新しいようで古くからある流れともいえます。
これは既存のコンテンツ制作者を大きく揺るがすはずです。しかも揺るがされていることになかなか気づきにくいものです。「データで面白いものが作れるのか」という職人気質による批判的な見方がありますが、Netflixの成功パターンはここまではかなり再現性が高くなっています。
もちろんヒットは水物です。しかし、販売データを駆使してラインナップを考えていく方針は、商品である番組の数が増えれば増えるほど全体としては成功の割合が大きくなってくるでしょう。
私が申し上げたいのは、0から1を作り出そうという「ビジネスアイデア」の部分だけに注力していると立ち行かなくなりやすいということです。1を10に拡大していくためのセールスの様々な工夫や情報収集は、やがて高確率で10まで育つような1を作り出すシステムに進化していくということです。
「現場」が顧客との直接会話から顧客の行動・購買データへと変わりつつはありますが、「現場」でデータをいかに集め・活用するかは「ビジネス」のKSFだと言えるでしょう。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら