東京で新たに50人の新型コロナ感染者が確認されました。
このニュースを耳にしてみなさんはどのような印象を受けるでしょうか? 2020年3月末には「すごい多さだ!」という反応でした。4月末だと「ついにここまで減ったか!」というものでした。私たちは、同じ「50人」という値に対して全く逆の反応をしてしまうのです。
今回は、「限られた情報」を元に我々が下してしまいがちな「心理的な癖」を理解することで、論理的な判断を下すための一助にしていただきたいと思っています。
「情報が限られている状態」とは
冒頭の例のように、同じ数字でも全く違う印象を持つのは、直前に見たりして印象に残っている数字を基準にしてしまう癖があるからです。これを「アンカリング効果」といいます。
前日の感染者が20人だったときの50人では「多い!」ですし、100人だったときの50人では「少ない!」という印象を受けるのです。みなさんがこの記事を読んでいるような冷静な状況では「そんなことだと思った」と軽くお考えになると思うでしょうが、この癖は「ここぞ」という場面で顔を覗かせるやっかいなものです。
それは、「情報が限られている中で焦っている」ときです。「情報が限られている」というのは、「直前の情報しかない」だけでなく、「相場についての知識がない」ということも含まれます。つまり、「50人」という感染者数が、「そもそも医療崩壊を招くレベルなのか」「その後の感染爆発につながるレベルなのか」ということに関する知識です。これがないと、直前の人数との比較しかできず、「多い!」とか「少ない!」といった反応しかできなくなるのです。
アンカリング効果はマーケティングの世界でも活用されてきました。顧客や交渉相手に「○○の癖が出るような状況に追い込んで、こちらに有利な判断をさせよう」といった具合です。
いまだけ! 通常価格から30%オフの9800円!
「9800円」が相場として高いか安いかを知らない人に、「今だけ!」と焦らせることで、直前情報である「通常価格」だけを基準に判断させようとしているのです。
アンカリング効果を狙ったマーケティングはほとんどの場合、意図的に「情報が限られている状態」に閉じ込めておこうという工夫がなされているものです。
「数字そのもの」と「数字に対する評価」は別もの
私たちは「数字」が含まれている文章を読むとなんとなく「説得力のある」ものだと感じてしまいます。しかし、「数字」と「評価」は別ものです。「相場」や「前後の長期、中期、短期の傾向」という情報に目を配る意識をつねに持たなくてはいけません。ギャンブルにハマってしまう人は、直前の「勝った」という基準が強く働いてしまい、全体としては負けている傾向であるにも関わらず続けてしまいます。焦っていると視野が狭くなり、直前に見たり聞いたりして強く印象に残っている数字を都合よく基準にしてしまうのです。
株の世界でも「安値覚え」など古くから理解されつつも、避けることのできない人が多いものとして知られています。
たとえばスマートフォンに3つの容量が用意されていたとします。
A:64ギガで40000円
B:128ギガで70000円
C:256ギガで80000円
どうでしょうか? Cの256ギガのモデルがとてもお得に見えてきませんか?
「相場」だったり、「必要性」というものが見えていないと、Bに10000円上乗せするだけで256ギガが手に入る! というように「基準がB」になってしまうのです。
「すいません! 1時間遅刻します!」
と伝えておいて、55分の遅刻で到着すると「まあ頑張ったな」と評価され、1時間5分の遅刻ですと、「まったくもう!」となりますね。これも、「そもそも遅刻は良くない」という常識(=相場)から離れて、直前情報である「1時間遅刻」を基準として判断してしまう傾向を表しているものです。ですから、みなさん遅刻の場合は「ちょっと多め」で宣言しておくと良いでしょう。その場の勢いでなんとなく「もうすぐ着きます」とか「(30分遅刻しそうだけど)25分で着くと思います」と伝えるよりも数段良い印象になるはずです。
目の前の数字で一喜一憂する前に
ビジネスの現場では直前の数字によって一喜一憂し、大きな決断をしてしまうことは避けなければいけません。以下のようなステップなしに数字に意味を持たせてはいけないのです。
- 「相場」を算出する
- 「長期、中期、短期」の傾向を分析する
売る側は「焦らせろ!」「怖がらせろ!」という工夫であなたの視野を狭め、その場で判断させようとしてくるはずです。普段からひと呼吸、ひとチェックを習慣づけたいものです。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら