今日から使えるロジカルシンキング

「スムーズにじゃんけんできる」低遅延のビデオ会議 勝てる後発品の共通項

苅野進

そもそも、なぜビデオ会議はイライラするのか?

 先日、Googleの元エンジニアと元プロダクトマネージャーの2人が率いるスタートアップが、新しいビデオ会議システムを開発したという発表がありました。「tonari(隣)」と名付けられたそのサービスは、既存のビデオ会議サービスにある「イライラ」や「違和感」を解決して、まさに人が隣にいるかのような臨場感で対話が可能になると宣言しています。彼らは既存のビデオ会議サービスが「イライラ」し「違和感」を感じる原因は次のようなものが主なものであると言います。

  • 0.15秒以上の遅れ
  • 目線
  • 音声

 彼らは「Zoom」などでは多発しているという0.2秒以上の遅れは人がストレスと感じるものだとし、tonariは0.12秒ほどの遅れしかないそうです。これを「じゃんけんがスムーズにできる」ほどの遅延と表現しています。

 目線については、独自開発の表示パネルのちょうど良い高さにカメラを埋め込んでいて「目が合っている」ような体験を提供します。音声も同様に臨場感にこだわっているそうです。

 ここまでの情報をどのように感じましたか? 「遅れ」「目線」「音声」が既存のビデオ会議システムの重要な欠点のように感じたのではないでしょうか?

 このように「ビデオ会議」という既存の大きなマーケットでは、不満もなんとなく生まれています。そして「ビデオ会議」というものに対するある程度の前提知識も世の中に広まってきています。そこに、「全く新しい」ではなく、「より良い」とか「少し使いやすい」で参入するのが「後発サービス」の大きな強みです。

 このtonariのメッセージが広く伝われば、ビデオ会議サービスを選ぶ際に「このサービスの画像の遅れはどれくらいなのか? 0.15秒以下なのか?」と調べるようになりますね。それこそtonariの大きな戦略です。

「少し使いやすい」でスイッチさせたメルカリ

 後発で、マーケットシェアを大きく奪った好例がフリマアプリ「メルカリ」です。先ほどから使っている「少し使いやすい」という表現は実はメルカリの創業者の言葉です。メルカリが登場した時には、CtoCつまりユーザー同士の物々交換マーケットはすでに「ヤフオク!」存在しました。メルカリは新しいサービスを開発したというほどではなかったのです。しかし、徹底的にヤフオク! よりも使いやすいアプリインターフェイスやシステムにこだわり、そのメッセージが伝わったことで、ヤフオク! を敬遠していた人にも広がりました。

 ちなみに彼らが徹底して伝えているのは「出品が楽」ということです。「買う」人が現れて初めて商売が成り立つのですが、キーは「出品が楽」を浸透させて、「出品数」を増やすことだという「問題設定」をして実現してきました。「本の出品が15秒でできる」というCMが印象に残っている方も多いと思います。その後も「10秒で相場チェック」など「他にもある機能だけど、メルカリの方が楽」というアピールをしっかりと続けています。

「最先端ではない」のにシェアを奪ったLINE

 もはやインフラのようになりつつあるメッセージアプリ「LINE」も同様です。携帯電話で使える文字メッセージはすでにSMSとして存在しました。iPhoneが登場したタイミングでもiPhone同士では使える「iMessage」というサービスを用意していました。また2011年のLINE登場より前に、欧米の「WhatsApp」や韓国には「カカオトーク」があったのです。決して最先端ではない技術を使い、ユーザーとして徹底的に使い勝手を研究することでやっと「使いやすい」を実現したのです。

品質と同時に「後発サービス」に必要なもの

 ベンチャーやスタートアップという言葉を聞くと、「全く新しいイノベーション」を想像してしまいがちですが、そんなことはありません。後発サービスであっても優秀であれば顧客がスイッチ(切り替え)してくれる分野は増えています。

 以前は大企業が「巨大な資金」を投下して乗り込んでくるのが後発の典型例でしたが、tonariのようにわずか2人で始まった開発に人もVC(ベンチャーキャピタル)もすぐに集まってくるという例は増えてきています。コンビニのお菓子コーナーを見れば、似たような商品が続いて、結局どれが残るかはわかりませんよね。このような「先行者」の利益がそこまで多くない分野が存在するのです。

 そこで品質と同時に重要なのは「メッセージ」です。自分たちの差別化要素をしっかりと伝え、消費者に「それは重要な要素だ!」と刷り込むことなのです。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら