ビジネストラブル撃退道

多少の批判が「ネット炎上」になるワケ 正しい対処法を考える

中川淳一郎

 企業の公式ツイッターが「炎上」する例は多数見られてきたが、その場合、どのように対応をすべきか。最近ではタイツメーカー「アツギ」が、同社のタイツを履いた女性のイラスト投稿企画を実施したところ、男性の性的な興味を喚起するようなものが選ばれた、と批判された。購入者視点ではなく、「見たい側の視点」になっていると解釈された。「中の人」が「動悸が収まらない」などと書いたことも問題視された。

 あとは「日本モンキーセンター」が「『モップくんが大好きなんです!』と来園してくださる方は素敵なお姉さまばかりだと思っていましたが、なんと!本日初めて『女子』にお会いしました!」と、若い女性の後姿を公開して批判された。要するに女性を年齢で差別している、と解釈されたのだ。

 この2点については、正直迂闊だったな、とは思うが、両方とも悪気はなかっただろう。ただ、社会の現在の風潮には合ってはいなかった面はある。本稿では炎上した場合の対処法について書いてみる。

 アツギの件について、広告代理店の会議で話題になったが、この騒動をウオッチしていた女性はこう言った。

「もちろん、フェミニスト文脈における批判ってのはありましたが、当初このツイートが批判された理由は『中の人が企業の公式アカウントで自分の嗜好を披露している』という公私混同の部分が大きかったと私は解釈しています」

 さて、企業はいかにして炎上に対峙すべきか。まず、大前提として押さえておきたいのは「炎上」というものの2つの根源的な性質である。

【1】人によって「炎上した」「炎上していない」の解釈は違う

【2】「炎上した」「批判が寄せられた」「賛否両論となっている」とメディアが報じることによって「炎上したこと」になってしまうもの

 たった数件の批判は「炎上」なのか

 まずは【1】について述べるが、ネットの批判に慣れていない企業ほど数件の批判で「炎上しちゃった……どうしよう……」となりがちだ。たとえば、堀江貴文氏など、連日のようにツイッターには批判が寄せられる。しかし、同氏はまったく気にせず発言を続ける。それは同氏にとって「炎上している」とは思っていないからだろう。「おっ、反響大きいな」ぐらいに考えているのでは。

 私は堀江氏ほどの影響力はまったくないものの、反感や批判を寄せられることは多々ある。だが、これをまったく「炎上」と捉えていないのだ。「世の中、全員が同じ考え方じゃないし、『善悪』の判断も違うから、反発したい人もいるよね。どちらの意見も尊重しますよ~」としか思えないのだ。だから「炎上した」と思うことはあまりない。

 以前、付き合いのある企業から「炎上しています! どうしましょうか…」と相談を受けた。よくよく話を聞いてみると、同社が発表した企画に対して3件の否定的なツイート(かなり論調は激しめ。よっぽど内容がイヤだったのだろう)があったことから、企画を停止すべきか? と社内で議論になったのだという。

 私は「別にこれはたまたま考えが合わない人が怒ってるだけだから放置すりゃいいんじゃないですか?」とだけ言ったが、同社は結局企画を中止してしまった。これは2010年の話だが、私はこれを「炎上」と捉えないものの、彼らは批判を目の当たりにするのが初体験だったのか「炎上」だと解釈してしまったのだ。

 これほどまでに「炎上」の解釈は個々によって違うことを思い知らされたため、私は以後「あなたが炎上と思ったら炎上。炎上と思わなかったら炎上はしていない。企画の続行、謝罪はその判断に従えばいいのでは?」と突き放すような言い方になった。とにかく「炎上」の解釈については、人によって違い過ぎるのである。 だから、私の感覚では炎上していないのに、「炎上した」と考える人の考えを変えることはできない。一応「これはオレの感覚では『普通のこと』です。『炎上』はしていません」程度の助言はするものの、その先は企業の判断になる。

 ここで言いたいのは、ネットのことがよく分かっていない上司が「炎上した!」と騒いだとしても、実際は炎上していない可能性はあるため、ネットに慣れた部下は「これは炎上してませんよ」とキチンと助言しなさい、ということだ。それにより、企画の停止は免れられるかもしれない。

 「多少の批判」を記事にするメディア

 そして【2】の〈「炎上した」「批判が寄せられた」「賛否両論となっている」とメディアが報じることによって「炎上したこと」になってしまうもの〉だが、これは本当にタチが悪い。

 2000年代後半は、ネットニュースが「炎上した」と断言するような論調になっていた。最近はさすがに各編集部も断言するのはマズいと考えるのか「批判が寄せられた」「賛否両論」と表記するようになっているが、記事を読めば「炎上した」と結局は解釈されることになる。

 この手の報道については、むしろそのニュースサイトに抗議をしてしまっても良い。結局、PVを稼ぐために記事を安価で量産したい各ニュースサイトの思惑に企業の「批判された」案件が利用されているだけなのである。

 「あんたらが我々のことを批判的に報じたからコールセンターに苦情が寄せられていて業務妨害になっている。いい加減、『多少の批判』を記事にしないでもらえます?」とそのサイトに抗議をすれば、そのサイトは「あの会社はウザいからもう取り扱うな」となる。

 これは私がこの14年間、ネットニュースにかかわっているから言えることである。正直、ネットニュースというものはPVさえ取れれば良く、文句を言うウザい人々は扱わないようにしよう、という判断になる。だったら企業がやるべきは「ウザいヤツになる」ということだ。

 当然、好意的な宣伝になるような話題も取り扱われなくなるだろうから、そこら辺の判断はした方がいいが、「今後、こいつらは我々を好意的に取り上げない」という感覚があるのならば抗議していい。

 そして、大事なのが「炎上されたこと」にされたSNSの「中の人」のことは社員総出で守ってやるべきである。責めたり始末書を書かせるなどもってのほか。その従業員は、皆がやりたくないことをやらされ、リスクを負ってきたのだ。たまたま批判されたからといってその従業員を社内でつるし上げるなどあってはならない。その人はすでにネットで叩かれまくっているのだから、身内にまで叩かれたら精神を病んでしまう。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

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