今日から使えるロジカルシンキング

成功者は鍛えてる 一見「三角形の問題」を「連立方程式の問題」と見破る力

苅野進

 学習塾の世界では年末年始は最も忙しくなる時期です。年明けすぐから各年代の入試がはじまるからです。みなさんもご経験があるかと思いますが、この時期になると入試の過去問題に取り組み始めます。今日は、この過去問演習を題材に「問題発見力」のお話しをしたいと思います。

 中学入試の問題です。「三角形ABCの面積を求めてください」と言われたときに、みなさんは「三角形の面積=底辺×高さ÷2」 を思いついたのではないでしょうか。つまり、みなさんは「底辺」と「高さ」を探し出すことを「問題」だと設定したのです。

 しかし、この問題は「連立方程式」の問題です。小学生では「つるかめ算」と呼ばれています。ほとんどの生徒は、この問題が「つるかめ算だ」と気づけは簡単に解くことができます。模範解答もつまずくことなく読み進めることができます。

 ここで多くの生徒は「なるほどね」で済ませてしまいますが、感度の高い生徒は「なぜ三角形の問題にしか見えないのに、連立方程式の問題だと気づくことができる人がいるのか?」と考えるのです。この問題の難しさは、ここにあるからです。

  • 「先生、どうやったら連立方程式だって気づけるの?」

 これは「真の問題発見」の難しさと大事さに気づいた生徒からこの時期に出るようになる質問です。学校や塾で勉強している時には、「今は○○の単元の問題を解いている」とわかっているのですが、試験では「この問題をどの単元の技術で解くのか?」を自ら選択することが最大の山場です。つまり、この質問が出るようになる生徒こそ試験で結果を出せるのです。

  • 「気づきにくい連立方程式の問題だと見破ることができるようになるには?」

 という問題設定をして、勉強を継続すると同様の問題に対応できるようになります。一方で、わかりやすく構成された模範解答を読んで、「読むことができた=理解できて、次は解ける」と考える思考にとどまっていると、「勉強しているのに試験で結果が出ない」とか「簡単な問題なのに試験ではできない」という袋小路にはまってしまいます。

多くの教育で習得できるのは問題解決そのものではない

 この「真の問題に気づく力」は「どこでつまずいたのか?」「なぜ解けなかったのか?」と一歩立ち止まって考える癖がつくだけで大きく進歩するものです。

 言葉は悪いですが、「本当の問題に気づいた後」は問題解決ではなく、問題解決を実現するための「作業」です。教育の多くは、この「作業」を正確に覚えて、こなす力を身につけるためのものです。この教育を受けてくると、「何をしていいかわからないような問題を与えるほうが悪い」という感覚になります。しかし、実際は「何が問題なのか?」に気づくことが一番難しく、気づいてしまえば人海戦術でもなんでもでも最初に取り組んだものが勝つのがビジネスなのだと言えます。

解決できなくても「これが問題だ」と宣言することの意義

 クラウド名刺管理サービスを提供するSansan(サンサン)という会社があります。大きな会社内で社員各自が管理している名刺をデータ化して一括管理することで、「A会社の□□さんは、実はうちの会社の△△さんと繋がっていた」という機会を創出しています。

 この会社はいまでこそ「名刺をスキャンするだけで99.9%でデータ化」と謳っていますが、創業当時はなんと送られてきた名刺のスキャン画像を見ながら人間が手入力していました。

 つまり、「会社内に散在している名刺を一括管理すべき」という問題を発見していても、その解決策はほとんど持っていなかったと言えます。しかし、彼らの設定した問題は、ほとんどの会社が抱える「真の問題」でした。そこにいち早く気づいて、取り組んだことで当初は人海戦術であったとしても、経験が蓄積され、そこから生まれる効率化のノウハウで現在の地位にたどり着いたのです。

 たとえすぐには解決できなくても、

  • 「これが問題だ! これを私は解決する!」

 と宣言してしまえば、そのための努力をしているうちに色々なところから

  • 「こうすればいいのでは?」

 という情報が集まってくるものです。問題が設定されていないので使われていない知識や技術は、世の中や個人の中にたくさん眠っていると言えます。

 「いつ使うのか?」「何のために使うのか?」と出会えていない「解法」は死んでいるのと同じです。

 私たちの教育は、「今日はプラスドライバーの使い方」「今日はトンカチの使い方」というように習ってくるものですが、実際には、「今日はどれを使えばよいのか?」という大前提からスタートするのです。

 「模範解答を理解するだけではなく、なぜこの解法を思いつくのか? まで理解できるかを確認しましょう」

 この時期、学習塾の自習室で過去問に取り組む生徒たちに常にかけられている言葉です。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら