ローカリゼーションマップ

今を生きる-その時々の学びに喜びを 小顔に憧れる日本女性の話から人生論に?

安西洋之

 日本の若い世代の女性たちは「小顔かどうか」を気にする。だが、イタリアの同世代の女性たちが「小顔かどうか」を気にすることはない。顔のサイズが関心の対象にはならないのである。だが、ある年齢以上になると、イタリアの女性は「ふくよかな顔」を求めるようになると言う。若々しくみえる。そうすると日本の女性のような顔の輪郭が羨望の的になる。

 ぼくは、このエピソードを聞いてなるほどねえと思った。いろいろなポイントを示唆している。

 まず小顔である。「7頭身」や「8頭身」という表現は、身長の話ではなく、身長と頭や顔の大きさのバランスを指している。洋服を着た時の美しさに拘った場合、足が長く顔が小さい方が有利に働く。洋服が西洋文化を基準とする限り、日本では何頭身かが関心の対象になるのだ。背が低ければ顔が小さく見える工夫をしようとする。

 だが和服になると立場は逆転する。足が長すぎない方が和服姿は安定する。なで肩も和服姿には似合う。自分たちの文化になかったものを輸入し、身体というもっとも調整しづらいところで輸出元のプロフィールを真似ようとすると、不足点ばかりが気になり場合によってはコンプレックスさえ抱く。

 しかしながら、イタリア人の輪郭がはっきりした顔は年齢と共に老けてみえがちになるから、ある年齢以上では日本の人の顔にあるような輪郭を欲する。ある年齢だけイタリア人で、他の年齢では日本人になることができない。可能なのは国籍だけで、身体的特徴を大幅に入れ替えるのは不可能である。

 それでも何とか差を埋めたいと欲がでるのが人間で、美容整形はその欲にできるだけ対応しようとする分野だ。その是非をここでは問わない。

 何十年か続く人生を全体として、どう捉えるか? である。

「いや、いや、人は晩年の自己評価だけを頼りに生きられるものでもない。若い時は若い時でベストでありたいし、中年になれば中年としてベストでありたいのだ」という声が聞こえてきそうだ。

 「男の顔は履歴書」という表現は、女性の職業人生を想定していなかったのだろうが、女性にモテないと嘆く若き男性は「男の顔は履歴書」との言葉で慰められるのだろうか。やはり、今の今、モテたいのが本音だろう。

 典型的な日本の大企業では、新入社員は小間使いのように走らされ、自分の頭で考えて判断するような余地をあまり与えられない。「君も10-20年すれば、部下をもって自分の思い通りに采配できるよ」と言われ、「今、自分の頭を使って働きたいのだ! 実際に10-20年を経たあなたを見てちっとも羨ましくない」と心のなかで叫んだ人は少なくないだろう。

 全体と細部をどう見るか、という課題はいつも迫ってくる。喩えて言えば、全体を見るには裸眼であるのが理想で、細部を見るにはルーペが必要。このようなアプローチの選択に迫られる。これだけでも相当な難題だが、何事にも時間軸というのがついてくる。

 人生なんて、その最たるものだ。

 「太く短く生きる」と「細く長く生きる」との選択があるが、人はもの心ついた年齢でどちらかを選ぶわけでもない。いや、何らかの事情で若くして決めざるをえない人もいるが、大方、ある年齢まで生きてきたときに「自分はこっちのタイプかな」と気がつく程度だ。

 あくまでも自問である。

 太く短く生きると宣言していた人も大きな病を患って気が変わることもある。長く細いつもりが仕事かなにかの波にのって、いつの間にか太く長く生きるのを願ってしまったりするものだ。それでも世の中の考え方が大きく変わり、そう願った通りにはいかないから、それぞれのタイミングで自分の方針は良かったのかと思い返すわけだ。

 今を生きるしかない。将来のいつかどこかで、何らかの報奨があるかもしれないが、それはあくまでも想定外におくことだ。それでは何をコアにすると良いのか。

 その時々の学びに喜びを感じる癖をつけることだろう。人生の歩みはオープンループであり、どこかにゴールがあるわけではない。いずれかの年齢での学びが何十年後かに、もう一回りしてより大きく貢献してくれたりするものだ。また、そう思うことで、心が落ち着く。

 小顔に憧れる日本の若い女の子の話が、ずいぶんと遠くまで来てしまった印象がありますが、そんなことないのではないというのが本コラムの結論です(笑)。

安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。