社長を目指す方程式

仕事で“ゾーンに入る”方法とは? 成果を上げる没頭力の高め方

井上和幸

《今回の社長を目指す法則・方程式:ミハイ・チクセントミハイ「フロー」》

 首都圏ではまだまだ余談は許さないものの、緊急事態宣言は1都3県以外で解除され、ワクチン接種も始まったことで、新型コロナ禍という長いトンネルの出口が見えてきそうな気配も漂ってきました。(個人的には、感染拡大には最大限留意する前提で、日本のDX力を総結集して非接触・オンラインの新しい大会運営形式にチャレンジし、ウィズコロナ下での東京オリンピック・パラリンピックを開催・成功させて欲しいと願っています)

 来るべき「いつもの日常」「ニューノーマル」に備えて、上司の皆さんにとって自分事としても会社事としても勝負に打って出るべき時が近々やってくるでしょう。その日に備えて、思いきり仕事に没入する瞬間、「フロー」に入るコツを知っておきませんか。

 「フロー」を体験したこと、ありますか?

 皆さんはこれまでに、物事に没頭して気がついたら信じられないくらいの時間が経っていたことや、研ぎ澄まされた感覚であらゆるものごとが手に取るように分かり仕事を進めることができた、というような体験をしたことがありませんか? 野球でいうところの「ボールが止まって見える」という体験や、自動車を運転していて車体の隅々までが自分の手足のような感覚でコントロールできたというような経験…こうした体験を「フロー」と言います。

 フローとは心理学者のミハイ・チクセントミハイ博士が提唱したもので、「1つの活動に没頭するあまり、ほかのことが気にならなくなる状態、またはその経験がとても楽しく、大きな労力がかかってもそれをしてしまう状態」を指します。スポーツで「ゾーンに入る」と言われる状態も同じことを指しています。みなさんも過去に、仕事に没入して“ランナーズハイ”のような状態になった経験があるのではないかと思います。

 私自身はこれまでの人生の中で、大きくは4度ほど「あの時はフロー状態だったな」という経験があります。そういう状況の時は、チームが一丸となって、部門の各処でイノベーションが起き、業績がぐんぐん上がります。自分も同僚も、ノリにノッている状態。遅くまで働いた後にチームメンバーたちと飲みに行っても、ある面が研ぎ澄まされると同時に、どこか夢の中にいるような感覚になる…その時期を思い返すと、なんだかとても不思議な感じがします。

 そして、次に「その状態」になれるときをどこかで心待ちにしながら仕事をしているところもあるなと、今回、この原稿を書いていて改めて思いました。できることならずっとフロー状態にいたいものです(笑)。

 「フロー」に入るとは、こういう状態

 チクセントミハイ博士によれば、フローは次の8つの特徴を持っています。

1)完全に集中している。

2)目標だけに焦点を合わせている。

3)時間が速まっているか、あるいは遅くなっているように感じる。

4)その経験にやりがいを感じる。

5)苦労なくできる感覚がある。

6)難しいが、まったく歯が立たないほど難しすぎない。

7)その行為がほとんど自然に起きているように感じられる。

8)やっていることに満足を感じる。

 どうですか? みなさんの過去の体験と照らし合わせていただいて、この8つの状態を満たしていた瞬間や時期がありましたか?

 そもそもチクセントミハイ博士が抱いたテーマは、「人が自分の持てる創造性を最大限に発揮して人生の充実感を覚えるときというのは、どのような状態のときなのか?」ということでした。

 それを確認するべく、仕事を通じて大きな成果を生み出し、世界的な名声を獲得している経営者や研究者、アーチスト、アスリート、外科医などといった人たちにインタビューを重ねました。すると、分野の異なる高度専門家たちが最高潮にノッているときに、その状態を表現する言葉としてしばしば「フロー」という言葉を用いたそうです。

 フローに入ると生産性が劇的に高まります。一説には通常の5倍の生産性を得られるという報告もあるそうです。一人ひとりが5倍の生産性を得て、それがチーム全体であったならば、どれくらいすごい生産性をあげることでしょう。

 「フロー」に入るためにできること

 さて、では一体、どのようにすればフロー状態に入れるのでしょう?

 体験的には、試行錯誤しながら頑張っていると、ある時期から色々な物事がうまく絡み合い始め、気がついたらフローに入っていた…というものですが、フロー・リサーチ・コレクティヴ社の創設者で『超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験』(早川書房)著者のスティーヴン・コトラー氏は、フローの段階を次の4つに定義しています。

「苦闘」:模索段階。計画的なトレーニング、大規模な研究、徹底的なブレストなどを行なっている段階で、この時点ではフローとは逆の壁を感じていたり暗中模索の状況にある。

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「解放」:頭を休ませる段階。苦闘で燃え尽きないためにも重要な段階。歩く、しっかり呼吸するなど緊張をほぐすためにするもの。

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「フロー」:「超人(スーパーマン)体験」段階。絶対的なパフォーマンスを発揮でき、しかもそれがほとんど自然に起きているように感じられる。

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「回復」:フローの興奮が収まりつつある段階。フロー段階で成し遂げたことを統合する時期で、気の抜けたような感じになることも多い。

 このような段階を繰り返しながら、「超人」は困難に挑戦し続け、数々の偉業をなしていくのだとコトラー氏は解説しています。

 上司の皆さんも、ビジネス界においてそうありたいですよね!

 このようなプロセスを踏まえ、フローに入るためのセットアップとしては、「注意散漫の原因をシャットアウトする」「充分な時間を確保する」「好きなことをする」「明確な目標を持つ」「ハードルを少しだけ高くする」とよいそうです。

 逆に撃退すべきは、「注意散漫を齎すもの」「ストレス」「失敗への恐れ」「自信の欠如」だと。コロナ禍からの出口戦略を意識し始めるこの時期、ぜひ環境整備をしてみてはいかがでしょうか。

 チクセントミハイ博士は次のようなことを語っています。

「創造的な人々はさまざまな面で互いに異なっているが、ある一点において一致した意見を持っている。それは自分の仕事に強い愛情を持っているということである。彼らを突き動かしているものは、名声欲や金銭欲ではなく、楽しみを得ることのできる仕事の機会そのものである。」

(ミハイ・チクセントミハイ 著『クリエイティヴィティ』)

 仕事の報酬は仕事。楽しめる、のめりこめる目の前の仕事そのものがフローを呼び、「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」(イチロー)なのです。イチローも、恐らくは現役時代を通じて数えきれないフローの中にいた人でしょうね。

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 あなたはいつ、どのような時にフローに入ったことがあるでしょう? その時、何をしていましたか? 何度か経験したフローでの共通項は何でしょう? どうやったらその時に戻れそうでしょうか?

 これらの問いを常に意識し思い返してみることも、次のフローを呼び寄せるのに効果的だそうです。

 自分をフローに入れられる状態を創り出すこと、望むべくは自分が率いるチーム全体がフローに入ることができれば、それは自ずと最強軍団となるのです。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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